二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.627 )
- 日時: 2012/09/28 23:47
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
「シェナ、何かあった?」
——夕方から夜になるような、そんな時間。
マルヴィナは、里長の家の前の墓に手を合わせるシェナを見つけた。
「マルヴィナ」
シェナは応え、まぁね、と顔を曇らせた。
両親と、祖母。少し離れた位置にある、ひとりの少年の墓。
「・・・ドミールに伝わる『真の賢者』ってね」
シェナは、心配してくれるマルヴィナの優しさに甘え、思っていることを話し出す。
「生まれる前に父親を、生まれたときに母親を亡くす・・・って言われがあったみたいなの。
その子に宿った魔力が、吸い取ってしまうからって」
そう、そしてシェナは、まさにその境遇にあった。
「私が・・・その『真の賢者』と呼ばれる者」続ける。
「・・・どうしても、そう思えなくて・・・ううん、思いたくなくて」
ゆっくり 首_コウベ_を垂れる。
「・・・どうして?」
「だって」シェナは唇を噛んだ。「私が生まれたことで、二人も死なせたのよ? しかも、両親を・・・
それに、そんな称号があったって、未熟なのには変わらない。・・・未熟だったから・・・だから・・・っ」
シェナの視線が転じる。その先——ディアの眠る墓へ。
離れない。あの光景が。
あの姿が。
あの思い出が。
——あの言葉が。
ア イ シ テ ル 、 シ ェ ナ
“ 無上の恵愛を、貴女へ——優美なる人 ”
古の言葉を使うことを好まなかった彼が、シェナに示した最後の存在の証。
どれだけ必死に考えたのだろう。
どれだけの想いを、言葉に込めたのだろう。
だが、その若さゆえに率直に刻むことのできた言葉は、もう昔の出来事。
昔だからこそ、もう戻らないからこそ、シェナは辛かった。
・・・あの時私に、もっと力があったなら。
「・・・称号ほど立派な存在じゃない」シェナは震えた。
「犠牲の上でしか生きていないのに。・・・何が、何が、『真の賢者』よ。・・・私は」
私は、・・・・・・。
「・・・今のままじゃ、そうかもしれないな」
不意に、マルヴィナが言った。重い、低い声で。
「確かに今のままじゃ——シェナは誰かの犠牲の上で生きていることにしかならない」
——否。それは、厳しいというのが一番合っている——そんな声だった。
少し驚いて、シェナはマルヴィナを見る。真剣な目を、見た。
「・・・いや・・・それだけでしかない、というべきか。・・・事実は変わらないかもしれない。
でも、[だからこそ]——ってものが、あるんじゃないか」
思わず、問い返した。蚊の鳴くような、小さな声ではあったけれども。
「そんなことがかつてあった、そう思うだけじゃ、何も変わらない。・・・もう、そんなことを起こしたくない、
だからこそ強くなって見せる、前を見てみせる——そう思わないと、本当に『犠牲の上の者』でしかなくなってしまう」
黙って聞くシェナの手を握った。
「シェナは頑張っている。わたしたち仲間を守ってくれる。そんなことは思うな。
この方たちを、犠牲者で終わらせるな。
・・・そうじゃないと、可哀想な人で終わってしまう——そうなってほしくないだろ?」
どうして彼女の言葉は、ここまで心を軽くしてくれるのだろう。
それはきっと、彼女だから。
マルヴィナという、ひとりの人格だからこそ、ひとりの戦友だからこそ、紡ぎ出せる言葉。
——マルヴィナ、私は、貴女が羨ましい。
でも、貴女に出会えたことに、感謝したい。
「あぁ、ここにい——」
突然、後ろの階段から、月を背にしたチェルスがやってきた。いつの間にか空は暗い。
マルヴィナは振り返り、その名を呼んだ。
シェナは噂の人物が現れたと、同じように振り返って——
「「!!?」」
そして、二人は見つめ合った。
シェナと、チェルス。驚いたように、戸惑ったように、弾かれたように。
「・・・え」
マルヴィナが困惑して、二人を見比べる。「どうしたの?」
「え? う、ううん」
「い、いや」
だが、マルヴィナの言葉に、同じような反応を見せると、互いに目をそらした。
じゃあ、時間も時間だし、と言って、シェナは戻った。最後に、ありがと、という言葉は、忘れなかったけれども。
「どうかした?」
訊ねたのはマルヴィナだった。チェルスはその質問が今の反応について聞いているのか、
訪れた理由を聞いているのか分からなかったが、とりあえず後者の答えを言った。
「まぁ、ちょっくら暇潰し——体調は?」
「良好」
「問題なし」
にやりと笑って、チェルスは一本の棒——否、剣をマルヴィナの足元に放って寄越した。
「・・・え」
「一本、勝負してみないか」
見れば、チェルスの手にも同じような剣が握られていた。
拾い上げ、観察する。それには鍔らしいところがなかった。握りの部分を例えるならば——篭手。
篭手の装飾のようなものから、剣身が生えている——といった感じだろうか。
鍛錬というからもちろん刃はないが、それにしては威力が高そうだ。しかし、ひどく持ち辛い。
「パタ、って剣が基だ」チェルスは言った。「持ちにくいだろ。下手すると手首を痛めるから気をつけな」
「ちょっぴり厳しい鍛錬にはおあつらえ向きってか」マルヴィナは苦々しげにも笑って言った。
「そーゆーこと」びゅんびゅんと重く振り回しながら、チェルスはぴたりとマルヴィナに向けた。
マルヴィナも感覚をものにし、ゆっくりと持ち上げ、構えた。
「・・・いくぞ」チェルスは静かに言い、鍛錬にしては少々荒っぽい一戦が始まった。
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.628 )
- 日時: 2012/09/29 15:24
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
篭手を腕に固定されたまま扱う、今までにない剣の持ち方だった。
ナザムの村にはドラゴンキラーと呼ばれる剣が売られていたが—竜殺しの名を着けていたのは
光竜を崇める思いよりも闇竜を厭う思いの方が強かったからだろうか—、
その剣の種類はジャマダハルと呼ばれる剣の中でも群を抜いて特殊なものであった。
このパタ—をモデルに鍛錬用に改造した剣—は、ジャマダハルの亜種であり、共に使いにくいのが特徴だ。
マルヴィナはどちらかというと斬撃のほうが得意だ。
天使界では鍛錬はレイピアもしくはフルーレを使っていたためほぼ刺突を学んできたが、
人間界に落ちてからは主に両刃の剣を扱い、斬撃のほうが自分にはあっていると思ったのだった。
一方でチェルスは、斬撃・刺突両方を見事に使いこなした。腕を固定された状態で、ここまで自由に動く。
剣を交わし、互いに笑う、だが目は真剣そのもの。
全身を使って攻撃をかわす、狙い時を見計らって動く。
攻防一体。
ついにマルヴィナが、刺突体勢になった。斬撃だけでは勝てない。この剣を使いこなせ、剣と一体になれ。
武器の力を、見極めよ!
「・・・こんなもんかね」
そして、半時余り過ぎ——
地面に寝そべるマルヴィナに、チェルスはカラカラ笑いながら言った。
「・・・負けか」
「いや、中断だ。さすがのあんたでも最初でこれだけ長時間使うのはまずい」
「・・・続けていたら確実に負けだった・・・いやそもそも、チェルス、本気出していないだろ」
「あらー。ばれてやんの」ちっとも悪びれず、軽く舌を出して素直に認めるチェルス。
「でもンなこと言ったらマルヴィナこそ。まだ本気じゃあなかったろ?」
「・・・わたしはいつだって本気でやる」
「冗談じゃねぇ。初めてで本気なんざ出したら今頃あんたの腕はガチガチだ」
だよね、と、今度はそれを認めた。確かに、本気でやったつもりでいた。そう、あくまで、つもり。
恐らく、本気は出さなかったのではない、出せなかったのだ。扱いづらい剣、というものに、初めて会った。
「まっ、あんまこれは気にすんな。今時こんな剣、殆どないから——まーやっぱ
バスタードソードとかレイピアとか、そのあたりの鍛錬が一番だろうからね」
・・・じゃあなんでこの剣を選んだ、・・・とは言わなかった。
多分答えは、そっちのほうが面白そうだったから、だろう。
「それにしても、マルヴィナは斬撃派か」
「刺突はキルガに任せる。・・・それだけはかなわない」マルヴィナは素直に言った。
「それに、もう一本の剣は、両刃だからさ」
「もう一本・・・? 二刀流ってやつか? ・・・両刃で?」
「や、・・・今は使うことができないんだ。錆びていて、さ。・・・使いこなせるかどうかも分からない、
でも・・・できたら、本当に使えるようになったときに、剣に相応しい腕を持っていたらいいなって思ってさ」
「自分に剣を合わせるんじゃなくて、剣に自分を合わせるってか? ——・・・ちょっとまて。それ——」
何だそりゃ、と言おうとして——引っ掛かりを覚える。・・・まさか、いやまさか・・・ちょっと待て。
「オイそれ、まさかとは思うが・・・名前、『銀河の剣』とかだったり、するか? ・・・違うよな?」
「そうだよ」
あっさり言われ、チェルスは久々に自分が驚いたことに気付いた。
もし今が夜で、さらに場所が人里でなければ——間違いなく叫んだ。叫んだ拍子に魔物三匹程度吹っ飛ばす勢いで。
「おまっ、ちょっ、それ、何でお前が持ってんだ!?」
「へっ? ・・・え」
「それ、今どこにある!?」
「宿の中」
「・・・う。・・・む。ん」
チェルスは一度落着き、 咳き_シワブキ_してからふぅーーーっ、と息を吐いた。
「その剣、どこにあった?」
「え? と、ウォルロ村だけれど」
「うぉるろ?」
この大陸の崖を超えて北側にある、大滝の名所だと説明した。さすがに村の守護天使だけあって、
説明は余裕だ——何度も言うようにたった五日間のことではあったが。
滝、の言葉でチェルスは納得した。
「当時あの大滝の傍には一つ宿屋がぽつんとあった——恐らく村はそのあとにできたんだろう」
「え。・・・そ、そう、なのかな」マルヴィナは考え込む。大師匠エルギオスの消息が途絶え、
師匠は守護する場所をナザムから変更していた。
もしかしてウォルロを選んだのは、村としてできたばかりで守護天使がいなかったから?
・・・さすがにそこまでは分からない。マルヴィナは考えを振り払った。
「そういや言っていたな——昔旅人が、宿賃代わりに置いて行ったって」
「・・・オイなんだその話。まるっきり違うぞ」
「へっ?」
凄く真面目な——通り越して、若干不機嫌な顔をされ、マルヴィナは目をしばたたかせて訊ね返した。
「まるっきり違うって・・・何だ、知っているみたいに」
「知っているからな」
「は?」
聞けば聞くほど話が分からなくなっていく状況に——チェルスが、ついに終止符を打った。
「だって、その旅人、わたしだから」
爆弾発言以上にとんでもない言葉だった。