二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.632 )
日時: 2012/09/30 17:07
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

 ——ここに来てから驚きっぱなしだな。

 翌朝、マルヴィナはふっと笑った。
シェナの出生の秘密、傷の完治、現れた『記憶の先祖』、“蒼穹嚆矢”のその実力、
ルィシアの正体、『未世界』の新たな情報、そして、銀河の剣——

——もともとそれは、わたしも貰ったものだったんだ。・・・だが、昔——ナザムとか言う村だったかな、
  そこの武器屋のじいさんに、「お前には使えない」って言われたんだ。実力とか、そういうのじゃなくて。
  ふざけんな、って思ったけどさ、まぁ、あんな錆びちまっているし、持っていてもしょうがないじゃん?
  だから、信用おける奴に渡したんだよ。・・・いつか、誰か本当の持ち主が来るだろうってさ——
  ・・・何で宿賃代わりの話になってんだか。・・・噂はそんなもんか?

 大体そんなことを言ったチェルスに、マルヴィナは笑った。ナザムの武器屋のじいさん。
それはもしかして、マルヴィナに銀河の剣のことを語ったあの青年の、先祖なのだろうか。







「・・・首尾は」
 時は少し戻り、深夜から早朝に差し掛かる頃。
チェルスが、静かに闇に尋ねた。
『ばっちりだ』
 否、闇ではない。二人の陰。だが、実体は、ない。
『少々厄介な情報よ』
 ——マラミア、アイリスの二人だ。
役目を終え、二人は現在、魔帝国を探っている。つくづく頭の下がる二人だ。
「聞こう」チェルスは眉根を寄せ、静かに言った。
『兵士どもは殆ど魔物にされちまっている。どーやら奴ら、未だに“あの実験”を繰り返してるっぽいな』
『しかも、殆ど全てが霊よ』マラミアに補足を入れて、アイリス。
「となると・・・一気に攻めることは無理か」
『そうね。・・・無茶は禁物よ、一度に斃せば』
「分かっている」チェルスは打って変わって気だるげに答えた。

 ——同時に大勢の『霊』を屠れば、それだけ大きな『扉』が開く。
あまりに開きすぎると——屠られていない、関係のない『霊』まで、消えてしまう。

「・・・消えるのはわたしだけじゃない、その辺は頭に置いているさ」
『そう』安堵でも納得でもない、ただ無感情に頷くと、話を続けた。
 魔帝国ガナンの、現在の状況。
国全体にバリアが張り巡らされていて、近寄れない。
では、そのバリアとは?
 そのバリアを張っているのは、皇帝ガナサダイである可能性が極めて高い。
そして、今分かっているのは、そのバリアは、魔物兵に関係があるらしい。
『ここまでだ、こっからはまだ調査できてない』
「了解した」チェルスは頷く。「・・・で、前から思っていたんだが——」
そして——いつも思っていたことを、口にする。
「・・・それだけの情報、いつもどこから仕入れているんだ?」
 その質問には、二人同時に、同じ言葉で答えた。
『『秘密』』










 マルヴィナは問い返した。
「えーと、スミマセン。もう一回、[ゆっくり]言ってもらえません?」
 里長の家の前、ドミール火山へ続く入り口付近。
背の高い、マルヴィナよりずっと年上の婦人が、口を押えた。
「あらやだ。これは失礼いたしました。・・・グレイナルさまからの言伝です」
 それは聞き取れた。そのあとだ。
「どうやら、あなたさまの話をお聞きしてくださるみたいですよ。ですが、条件があると——」
 え、と問い返し、だがそのあとの言葉に脱力しかかる。条件て。
「条件は、あなたさまおひとりで向かうこと。さらに、『竜の火酒』を持ってくるように、とも仰っていましたわ」
「『竜の火酒』」マルヴィナは復唱した。
「あの通路の地下にある酒蔵で製造されている特産品ですわ。・・・では、確かにお伝えいたしました。
勇気と信頼の証に、祝福を」
 やはり出てきた不思議な挨拶に慣れないマルヴィナは、ありがとうございましたー、と苦笑しながら応えた。
(・・・まいったな。わたし一人、か)
 よりによってああやって啖呵をきったわたしが呼ばれるとは。と内心でため息を吐きつつ、
宿屋に戻り武具を装着する。まいったなと思うのには、もう一つ理由がある。
というのは——マルヴィナは、未だ『職』が魔法戦士なのである。
ひとりでまた、あの火山を登らねばならない。回復魔法が使えないのは厄介だった。
しまった、このくらいだったら山頂の様子をしっかり覚えておくんだった。
そうしたら 転移呪文_ルーラ_で一発で着いたかもしれないのに。
 キルガにグレイナルのところへ行ってくると伝え(そして心配され)、セリアスが見つからないので
仕方なしに隧道の地下へ向かう——と、セリアスはその隧道の中にいた。
 マルヴィナが声をかけると彼は驚き、いやなんでもない、と
言い訳としては実に下手な言葉ではぐらかしたが、マルヴィナは敢えて何も言わなかった。
その表情が、チェルスと初めて会ったあの日と同じだったから。















     漆千音))ガナンのバリアの話はオリジナルじゃないよ魔物にかかわっているってのも嘘じゃないよ
         ちゃんとゲームでもそうだったんだから本当にでもそれにちょっとだけ
         オリジナル要素は加えたけれどそんなにたくさんじゃないよだから——
         ・・・はい。そろそろこの設定のまとめを作成します。
         ここまでややこしい設定になるとは・・・三年前の未熟さよ((今もだ

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.633 )
日時: 2012/10/01 00:38
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

 『火酒』と呼ばれるだけあって、それはきつい酒の匂いがした。
どうやら里の民たちは、これを水や炭酸で割って飲むのが通常らしいが——そのまま飲んだら確かに、
燃えるくらいに熱くなるか、火を吹くくらいのことももしかして、うまくいけば、ひょっとしたら、
実のことを言うとできるんじゃないか——とマルヴィナは思った。・・・飲んでみたいかもしれない。
が、最初に飲むのはグレイナル様だ一番初めにできた一番上等な物しかお渡ししないんだからな
いいな絶対に飲むんじゃねえぞと酒職人のこの里には珍しいちょっぴり荒っぽい親父さんに凄い勢いで釘を刺され
マルヴィナはとりあえず頷いた——創っているあなたは味見のためにグレイナルより先に飲むんじゃないのか?
・・・と内心言いたくて言いたくてたまらなかったが、その酒の匂いに、酔いに強いマルヴィナでさえも
くらりとしかけたので、反論はやめておいた。
 酒を守りながら火山なんて登れるかなぁと思っていたが、周りの人は言った、
大丈夫、そのお酒は魔よけの効果もあってね、それを持っているときは魔物は殆ど襲ってこないから、心配無用!
・・・そんなまさかと思っていたら、ところがどっこい本当にあまり襲われなかった。・・・襲われなかったが。

(いやこれ魔よけっていうか・・・この匂いに魔物が酔っているだけなんじゃ・・・)

 近付く度にふらぁりぽてん、と倒れてゆく魔物を見ながら、マルヴィナは一人苦笑していた。






 ようやくマルヴィナが山頂に着き、流れる汗を振り切ると、光竜——というより今や老竜グレイナルは、
そんなマルヴィナを労わる風でもなく初めに「遅い」の一言で切って捨てる。
「遅いぞ。何をぐずぐずしておったか」
「か、勝手に呼び出しておいて失礼な。・・・で? わたしらのことガナンの手先呼ばわりしたあなたが、何の用で?」
 やけに大きな壺だと思っていた火酒も、グレイナルの前に置くとかなり小さく見える。差。
嬉しそうに酒に首を伸ばすグレイナルに、マルヴィナは半眼になり、さっと壺を退けてしまった。
「先に答える」
「・・・つくづく恐いもの知らずな娘じゃな」
「お褒めの言葉をどうも」
 ふん、と、グレイナルは不服そうに鼻を鳴らす。「そのガナンの兵士を斃したのは貴様ではないか」
 マルヴィナの眉が上がった。「聞こえていたのか」
「竜の耳をなんだと思っておる」
「・・・逆に問うが、あなたの耳はどこにあるんだ?」
「・・・いちいちずけずけものを問うな、貴様は」
「尤もなことを聞いただけだ!」
 相性が悪そうな者(?)とも漫才ができるということを知った。
「まぁ、あの“蒼穹嚆矢”が珍しいことに認めておるしの。とりあえずは信用してもよいと言う事じゃ」
「へぇ・・・信頼しているんだ」
「世話になったしな」
 チェルスに!? とマルヴィナは思った。言いはしなかった。・・・本当に、一体何者なんだあの人は。
「・・・いつまで退けておる」
「はいはい、どーぞ」
 マルヴィナは呆れて火酒を差し出した。長い口を突っ込み、豪快に飲む。
顔を上げて、ふいー、と声を上げる。酔っ払いか。
「しみるのぅ。・・・飲むか」
「いや、結構だ」
 水割りにしていないのに飲んだら冗談抜きで火を吹きそうだ。
「おぉ、そうじゃ、忘れるところじゃった」
 少々上機嫌になったグレイナルが、ぽん、と何かを放って寄越した。
マルヴィナは右手でそれを掴み、しげしげと眺めた。
紫を基調とした、旗型の小さな紋章である。だが、それには見覚えがあった。この模様は。
「・・・ガナンの物か?」
「そうじゃ。奴らにゃ大事なモンらしいが、儂にはガラクタ同然。まぁ売ればそこそこの値に」

 ——マルヴィナとグレイナルの表情が、ほぼ同時に緊迫したものになる。同時に、空を仰ぐ。
空から感じる、気配。

 敵意。邪悪。脅威。危険。嘲笑。


「あれはっ・・・・・!」

 刹那、闇の渦が、吸い込まれているように迫ってくる。







 ————————————ざがしゃぁぁぁぁんっ!!
敢えて音を言葉にするなら、キルガにはそう聞こえた。
渦が直撃したのは、階段の横の崖だった。その崖の上にいたキルガは反動で、思い切り吹っ飛ばされた。
「ってぇ・・・」
 だが、うずくまっている暇はない。同じように被害を受けた人々を助け起こし、怪我人を任せ、
キルガは戦慄して空を見上げた——闇竜!!
 闇竜バルボロスが、里を襲ってきた!!
「諦めの悪い奴らっ・・・」
 キルガは悪態をつき、周りを見渡した。このままでは、里の民が危ない。
だが、妙なことに、闇竜は一発放っただけで、何もしてこなかった。追撃を行わなければ、向かってくることもない。
何故だ・・・? キルガは訝しみ——そして、まさか、と思った。
思った矢先、もう一発が来た。今度は、さらに上——頂上付近に向かって、である。
間違いない。振ってきた岩を巧みに避けながら、キルガは思わず言った。
「誘き・・・出している」
 ——マルヴィナ、と、唇が動く。危ない——危ない!
「・・・くっ」
 キルガは急いで、腰鞄からキメラの翼を取り出そうとした。中に入れていたものはほぼぐしゃぐしゃになっており、
翼も羽が無残にはがれ使い物にはならなかった。
「キルガー!!」
 こちらの名を呼び、瓦礫を避けながら走ってくるセリアス。「悪い、キメラの翼を貸してくれ!」
 キルガは首を振った。こちらも使えない、と返す。
眼を見開いて、セリアスは歯ぎしりした。「こうなったら、直接——」

「落ち着け」

 と、チェルスが二人のもとにやってきた。驚いて彼女を見る二人。
「こういう時程、冷静になる——バトルマスターと聖騎士は、そういうものだ」
 静かに諭し、チェルスは目を閉じる——

「アイツのことはわたしに任せろ。できることをしな」
 短く、鋭く言うと——チェルスは、一つ翼を、放り投げた——・・・。

 そして、空に現れたのは——蒼い鳥。

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.634 )
日時: 2012/09/30 19:52
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

「あいつっ・・・また来たかっ!!」
「・・・ふむ。紛れもない、確かにバルボロス——蘇ったとでもいうのか。恥晒しが」
「——え?」
 ハジサラシ、の言葉にマルヴィナは訝しげにグレイナルを見たが、それより先にグレイナルは
壺を咥え横に退け、マルヴィナを見た。
「すまぬが話はあとじゃ。付きおうてもらうぞ」
「・・・戦うつもりか」
「当たり前じゃ、里を襲うとは卑劣極まりない。この空の英雄が直々に制裁を加えてやろうぞ」
 さすがだな英雄、と答えようとして、む? と首を傾げる。
「ちょっとまて、付き合ってもらうって、どうやって?」
「儂の力を蘇らせる役を担ってもらう」老竜は即答した。
「今から貴様に竜戦士の防具を授ける。それを纏い儂の背に乗れ。そうすれば儂はまた飛べる!」
 そういうこと。マルヴィナは納得した。了解だ——そう言おうとした時、空から別の邪悪な気配が飛んできた。
風を巻きちらし、マルヴィナの前に立ちはだかる。はっとして、そちらを見る。
「くく・・・そうは、させん」
 まるで自分自身の力を誇るように、そいつは言った。
「何だ、お前はっ!?」マルヴィナは剣を抜き放ち、身構えた。
「名乗るものでもない、ただ竜戦士の防具とそれを纏うものを始末せよと皇帝より命を受けた一介の兵士」
「どうやらただの馬鹿だということが分かった」しっかり名乗った魔物兵士に剣を向ける。
「ふむ。狙いは貴様か・・・ちょうど良い、奴を蹴散らし、竜戦士となるに値する者かどうか、儂に証明してみよ」
「お安い御用だ」
 マルヴィナはにやりとする。自分に酔っていた魔物兵士は明らかに馬鹿にされた会話にピシ、と青筋をたてると、
いきなり折り畳んでいた翼を広げ、呪文を詠唱した——爆発呪文_イオラ_!!
「ッ」
 マルヴィナは小さく舌打ちすると後転し、身を低くして着地、爆発に巻き込まれるのを免れる。
(羽の悪魔——魔力の根源は、翼か!)
 マルヴィナは目を細め、踏み込んだ。つま先で地面を蹴り、飛び込むような形で敵の懐を薙ぐ。
魔物が凍える吹雪を吐いた。マルヴィナははっとし、急ぎその体勢のまま右に倒れこみ地面を転がった。
辛うじて、回避。ちょこまかと動く小娘に苛立ちを覚えた魔物は再び、羽を広げる——
刹那、その羽の付け根が、断ち切られた。
「根源を、」
 ほぼ同じタイミングで、もう片方も。
「——叩っ斬る!!」
 魔物の背後に、風を纏い現れたマルヴィナが、剣を地面に突き立てて叫んだ。
「・・・こ」
 憤怒に、あるいは、醜態に、その顔を歪める魔物。
「小娘ぇぇぇえ」
 感情を押し殺し、マルヴィナは魔物の急所を刺した。そこから波動が生まれ、魔物の姿をかき消してゆく。
「・・・ふん、やるではないか」
 グレイナルが満足げに笑い、マルヴィナは頬に着いた血を指で拭い、「お安い御用といったからな」応えた。
剣の血もふき取り、腰の鞘にぱちりと納め、マルヴィナはグレイナルに近づいた。
「おっと、その剣は、置いて行ったほうが良い。落としたら敵わんじゃろう」
「む・・・」
 若干不服ではあったが、仕方ないと嘆息した。確かに、武器を失うのは辛い。
二本の剣を外し、火酒の横に置く。グレイナルが鳴く。マルヴィナを、淡い光が包み込んだ。
はっと驚く間もなく、マルヴィナを、純白の鎧が覆った。鎧だけではない、篭手も、膝当ても、ブーツも。
純白に、高貴なる赤のマントが映える。兜をかぶる。頭はもちろん、口元まで覆われた兜の下で、
マルヴィナはニッと笑う。
「・・・似合うではないか」
「あぁ、ありがとう」
 マルヴィナは応える、三百年前の英雄に祈る。グレイナルではない、かつてこの鎧を纏い、
グレイナルと共に戦ったであろう英雄に——どうか、力を貸してくれ、と。

 ひらりと、グレイナルの背に跨る、その角をしっかりと掴む。光輝——グレイナルの咆哮。
「——ふむ。懐かしい——かつての力が戻ったようだ」
 言われずともわかる、竜は、幾分か若々しさが感じられた。
「行くぞマルヴィナ。奴を蹴散らしてくれる!」
 マルヴィナは頷き——どこかで、あれ、わたし名乗ったっけ——と首を傾げつつ、空を見上げる。

 襲い来る魔物、雄叫びを上げる光竜。
翼は空を切り裂き、魔物を叩き落とし、闇の渦巻く空へ、今再び飛び立つ——




 ——空の英雄の名のもとに。