二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.638 )
- 日時: 2012/10/01 15:54
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
サイドストーリーⅣ 【 僧侶 】
かつて、アルカニア、と呼ばれる街があった。
場所は現在のビタリ海岸の高台の上、ビタリ山の東の断崖絶壁にたった他との交流が一切ない街であった。
だが、その街は、魔法によって栄えていた。魔法によって作られた崖下への移動手段——
俗にいうエレベーター、というものを使い(円盤に乗り、上下を移動する仕組みだった)、人々は水を得た。
その魔力で火を起こし、光をつくり、生活をしていた。
そう——いわば、魔法都市。
ここはとある有名な二つの魔法組織の本部が構えてあった。
一つは、その知識で魔術を操り、生活から護衛まで幅広くその力を発揮する魔法組織。
聖魔術師_ホーリーウィザード_・センディアスラを頂点とする、『魔術団アーヴェイ』。
もう一つは、その精神で癒しを施し、傷の治療だけでなく人の寿命まで研究を続ける魔法組織。
法王・ルヴァルディスタを頂点とする、『僧侶団マーティル』。
——・・・僧侶マイレナの所属する、団体である。
「・・・む。ぐぅ・・・・・・ふむぐぐぐ」
初めて聞く人だったらまずそのうち全員が何の音だと考えるだろうが、この音——否、声は、いびきである。
真横から日差しがまぶしく射し、その顔を容赦なく照らしているのに、一向に起きる気配のない姉を、
妹・ルィシアは冷めた目つきで眺めていた。
じりじりじり、と耳元のベルを鳴らす。起きない。鳴らす。鳴らし続ける。じりじりじりじり。
起きない。鳴らす。じりじりじりじりじり。近所迷惑になり始める。鳴らす。じりじりじりじ
「起きんかいっ!!」
遂に折れて、というかキレて、横を向いて寝ているために上になった脇腹に両手チョップを叩きいれる。
ほぎゃー、とベル以上に近所迷惑な大声を上げて姉・マイレナは起きた。
「わ、ルイ、何でここに」
「自分の家ですから」
「あーそっか」
納得するのかよ。
言うだけ言ってまたふらふらぽてんと寝そうになるマイレナを、今度は殴って止めるルィシア。
「遅刻する新人なんて即首飛ぶよ。いくら頭いいからって」
「なー・・・? ・・・今何時!?」
「紅玉と橄欖の間——よりちょっと過ぎたあたり(7時半過ぎ)」
いきなりガバリと起きるマイレナ。「さんくすルイ、助かったぁ!」
危ない危ない、今から準備すれば何とか間に合う!
こんな時間に起こしてくれるなんて本当に良くできた妹だ。なんせ物語のよくある話では大抵、
親族や友人は遅い時間にしか起こしてくれなくて、主人公が「遅刻だー!」って叫んで痛い目に遭うじゃないか。
瞬時にして起き上がり支度を始めた姉を見てルィシアは、呆れかえりながら床に落とされた布団を拾い上げた。
僧侶団マーティルの入団試験が行われたのはつい八日前。
合格発表があったのは一昨日で、出勤は今日からである。
一昨日渡された法衣を身に纏う。新人の証。大抵の者には絹のローブが与えられるが、
入団試験上位通過の者にはそれより少々上等なものが与えられる。マイレナは二位通過で、纏うのは
ヒュプノスガウンと呼ばれる眠りの神を冠した法衣である。
二人暮らしゆえに、行ってきますの言葉をルィシアだけにかけ、マイレナは外へ出た。
今日も魔法都市は活気がある。
おはよう諸君今日から君たちは誇り高き聖者マーティル様に仕え法王ルヴァルディスタ様の下で
聖職に就く素晴らしき僧侶たちださぁこれより僧侶団についてをうんたらかんたら、うんぬんかんぬん、
聴いていてうんざりするほど長ったらしい司祭の言葉をマイレナはほぼ聞き流していた。
隣の娘はかなり真剣に聞いている。頷いてさえいる。勉強熱心なこってと、肩をすくめる思いだった。
だらだらとした話が終わり、組織内部の案内に入った。上位から二十人ずつ五つの集団に分かれる。
そうか、合格したのは百人程度か——そうちらりと思って、マイレナは案内について行った。