二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.650 )
- 日時: 2012/10/07 20:54
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
あの日から三年が経過した。
僧侶団の真の目的を知っているとはいえ、それを指摘し食い止めるまでの力、
即ち身分を持っていなかったマイレナは、仕方なしに従うふりをして、密かに別事情を探っていた。
命じられていた生命学の勉強はざっと大まかに済ませた。そちらはあの『教科書通りのことを覚える天才』に
任せればいい。適当に覚えておいて、あとはアルカニアの他国から見た歴史や
マーティルとアーヴェイの昔からの関係性など、さまざまなことを探った。
先に述べたとおり、アルカニアは他との交流のない街、情報は限りなく少なかった。
だが、この三年で、四人の協力者を味方に付けた。
一人は法王の二十三番弟子(正しくは二十二だがマイレナは勘違いして覚えていた)の従兄の荒っぽい戦士、
一人は法王の何番か弟子のさらに三番弟子の親戚の軽薄気味の魔法使い、
一人はただの好奇心からアルカニアを調査しているという理由からわかるようにかなりズレた武闘家。
——そして、もう一人は。
そのもう一人と会ったのは、現在のカラコタ橋付近の大地だった。
マイレナがそのあまりの村町国のなさにいい加減疲れ始めていた頃見つけた、その無謀な女性。
マイレナと同じ闇髪、眸は海の蒼。以前どこかで見かけた外套を纏い、なかなか良い大剣を振るっていた。
——魔物相手に。
だが、その数が数である。三匹四匹の話じゃない。十匹、だろうか。もう少しいるかもしれない。
その剣の腕は素晴らしかったが、身を守ることは苦手らしい。
いろんなところから不意打ちを食らってはその外套を赤くしている。
(何つー無謀な・・・逃げりゃいいのに)
この頃魔物はそうたいした強さではなかったが、旅人はほとんどいなかった。いたとしたら商人の類だったが、
あの女性はどう見ても商人ではない——あ、また不意打ちを食らった。
(・・・大したもので)
マイレナは呆れたが、その逃げ出さない根性は慰労の言葉をかけてやりたくないこともなかった。
それに、このまま見逃すのも少々人が悪いように思える。さすがにそこまで無情ではない。
仕方ねぇ、ちょっくら助けてやっか——と思ったとき、その大剣がその場で円を描いた。
マイレナが目を見張る。あのぼろぼろの状態で、まだそんな体力があったのか。
お世辞にも綺麗な円だったとは言えないが、それは周りを囲んでいた魔物を切り裂き、
怯ませ、絶命させる。一発逆転。・・・勝ちだ。あの女性が、勝った。
(・・・凄っ)
素直に驚いた。あれでまだ立っている。凄い体力だ——と思った矢先から、背中からぶっ倒れた。
(・・・・・・・・・・あー・・・・・・・・・・・)
前言撤回。
ぶっ倒れたままその女性は自分の袋をあさっていた。多分薬草を取り出そうとしているのだろう。
いや、それ、薬草で治るような傷じゃないから—— 一応は僧侶、治療師であるマイレナは苦笑して、
治してあげようか? ・・・といきなりいうのもつまらないので——
「お見事−。よく逃げなかったものだね」
凄い形相で睨まれた。
「・・・アンタ何?」イヤそこ普通『誰?』じゃないのか? と思いつつ、マイレナは制するように両手を振った。
「まぁまぁ。・・・お客人、魔法の力は——まぁ、受けたことあるよね。旅人だし」
「アンタ何?」また言われた。『誰?』じゃなく『何?』と聞かれた場合——どう答えるべきなんだ?
「んー、言ってもいいけど、その前にパタンキュしないでよ?」
「・・・じゃあ話しかけるな」
お、この人ウチに似てるかも。気が合わなさそうだ。笑。
「まぁまぁ、せっかくタダで回復してやろーと思ってんのに」
「結構だ」即答かよ。
「んー、怪我の割に元気そうだね」思いっきり無視して、マイレナは傷に手を当てる。
あまり集中せずに言った——ベホイミ。 ベホイミ
マイレナの口から紡ぎ出されたその呪文を聞いた時、一瞬彼女の顔が再生呪文ごときで直るかよ——と
言いたげな風になったが、舐めてもらっちゃあ困る。マイレナが手を離す、傷を見る——完璧。
「・・・て、えぇえ!? な、なおで!?」
・・・多分『治った』と『何で』が混合したのだろう。
その後、あんた何者!? とかなんとか聞かれ、適当に答えて、そして律儀にも彼女は恩は返すと言った。
普通ならそんなもん必要ない、と返すような性格だ。・・・けれど、何故か、即答していた——
旅に付き合って、と。
彼女のあの時のこれ以上ないくらいの呆けた顔は今でも覚えている。
実はあんた詐欺師だろう、と呆れ気味に言われたのも覚えている。
名前は忘れない。何があったって、そう、たとえ死んだとしても。
闇髪、蒼海の眸。剣士。無謀な女傑。
——初めてできた、親友。
———その名は、チェルス。
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.651 )
- 日時: 2012/10/08 14:30
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
チェルスに出会ってからアルカニアへは三度、戻った。
チェルスに初めてで会ったときすでに入手していた情報に、彼女はかなり反応を見せていたのだ。
——それは大昔のこと——よくその頃のことが分かったなと思われるほど昔の話だ。
このアルカニアは一度、突如生じた暴風にて壊滅的な状況となった。
当時は風などの天候を読む力がなかったのか、その原因は一切不明。
その時の被害に対し復興に尽力したのはその頃の最高権力者の兄弟。
兄が魔術師、弟が治療師。人々を癒し、火を熾し、二人は少しずつ街をたてなおした。
二人が年老いてからはそれぞれに若者に魔術を教え込んでいった——それが発展したのが、
今のマーティルとアーヴェイだ。
そこまでしかわからず、なぜ今いがみ合っているのか——
その情報はつい最近、仮説としてなら出始めたのだが。
チェルスが反応したのは、『突如現れた暴風』のくだりだった。
その話をするまで気だるげでほぼ無言で話を思いっきり聞き流していてあくび満載だったのに(お前が言うな)、
いきなり眼の色を変えて食いついてきたのだから驚いた。今に至ってまだ共に旅をしているのは、
チェルスもマーティル調査の協力人となったから——だから『四人目の協力者』なのだ。
ルィシアはマイレナの話を聞いて、眉を少し上げ、だったら自分はアーヴェイに入ると言い出していた。
マイレナが驚いて彼女を見ると、そっちの方が情報交換しやすいでしょ、とにやりとした。
なんだかんだで危険なことが好きなのはマイレナだけではないようだ。流石姉妹である。
三回目の帰国では、ルィシアはなかなか興味深い情報を探り当てていた。
さすがルイ〜、と言うと鼻で笑われた。お前今馬鹿にしたな?
「アーヴェイもマーティルと戦う気満々よ。知能を上げる研究、なんてものがあるのだけれど——
ぶっちゃけ集中せずに魔法を唱えるようになりたいだけ。先手必勝って」
「似たよーなことやってんな」チェルス。「どっかで手ぇ組みゃ凄ぇ発展しそうだけれどな」
「同感」マイレナも。「根本は同じなんだし」
「しかも」ルィシアはそこそこに聞き流して続けた。「別の国が手を貸してるみたいよ」
これにはマイレナが眉をひそめた。「・・・アーヴェイが?」
何度も言うように、アルカニア自体他との交流を避けているために、これは珍しい話である。
・・・しかも、今——『国』と言わなかったか?
「・・・国なのか」チェルスも気づいたらしい。
現在世界に確認されている国はセントシュタイン9世を王とするセントシュタイン、
ホウレリウス王治めしルディアノ、
ガレイオウロス王を頂点とするグビアナ。
——そして。
「多分想像ついたと思うけど——魔帝国ガナンよ」
——四つ目は、皇帝ガナサダイの居城ガナン帝国。
「・・・あの国、国内戦争が起きたって今有名じゃん。・・・大丈夫なの?」
「じゃないでしょうね」ルィシアはあっさりと言った。「父王を暗殺した皇帝よ? まともなはずがない」
「で、そいつを背景に、戦う気満々と」再び、チェルス。「ここでも内戦を起こすつもりなのか」
「幸いにしてまだ、街には知られていないけれどね——内戦の気配は」
「そっちの方がいいよ」マイレナだ。
「まぁ、得られた大きな情報はこの辺かしらね。・・・姉さんがマーティルの人間だからって、
お偉方の偏見であんまり上の方行けないから情報集めにくいのよ」
「あー・・・なんかごめん」
「後からあたしが入ったんだから姉さんが謝る必要はないでしょ。
・・・ま、次までにはもっと位を上げておくわ」
助かる、とマイレナは言った。チェルスは初めてルィシアの笑った顔を見た——気がする。
——だが、『次』は訪れなかった。
最近世界に普及し始めた『キメラの翼』とやらを使って戻ってきたアルカニアは、そこにはなかった。
否、マイレナの知っているアルカニアは、というべきか。
身分証明書を見せるたびお疲れさまです、と元気に言った明らかに年上の門番が、いない。
いやそもそも、門がない。
あくまでも開放的に、とは言えない。破壊され、寂しげな風が吹き込んでいる——という雰囲気であった。
マイレナは目を見張り、チェルスを半ば置いていく形で故郷に入った。
崩れた家、焼かれた木、広がる毒の沼。座り込む人々。知り合いがいた。マイレナの姿を確認すると皆、
喜んだように顔を上げたが、その顔に生気はほぼ見られなかった。喜ぶことにさえ、疲れてしまったかのように。
「何があったの?」
マイレナがきくと皆、俯いて答えた、「敵襲だ」「戦争」「攻め入られた」。
ルィシアの姿を探す、だが彼女はいなかった。はっきりと、住民からも言われた——彼女は今はいないと。
何故いない、何故こんなことになった。マイレナは思わず感情的になった。
マイレナは、あの少女を——もう娘となったあの天才を、見つけた。
ティナ。
たまたま戻ってきていて、不運にも戦禍を被り、
だがその状況でも人々に癒しを施し、疲労し、横たわる彼女に、マイレナは問うた。
内戦が本当に起きたのかと。こうしたのはマーティルか、アーヴェイかと。
彼女は途切れ途切れに、答えた。
——どちらでもない。
攻めてきたのは、魔帝国ガナンだと。
故郷を、妹を失ったということに、悲しみはなかった。
あったのは、言い表せぬ怒り。
初めて、感情のままに動くことがどういう事なのかが分かった気がする。
ティナはそれを見て、言った。
目的を持ったのなら。どうしても叶えたいことがあるのなら、人を欺くべきだと。
あたしは、そうやってきた。いつもへりくだって、へつらって、欺いて信用を得た。
それが敵を油断させる。人を見極められる。あたしのやり方はそうだったと。
マイレナは頷かなかった。遺言みたいな話方をするなと言った。
ティナは笑った。最後に、マイレナにだけ見せた、あの小悪魔的な笑みを。
その後、彼女がどうなったのかは、マイレナは知らない。
けれど、
その言葉を胸に刻み。
戦友に協力を要請して。
力強く頷いた彼女と共に。
妹を探し、魔帝国を目指す。
マイレナの闘いは、ここから始まった。
サイドストーリー 【 僧侶 】———完