二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ __永遠の記憶を、空に捧ぐ。 ( No.666 )
日時: 2012/10/20 10:40
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

 ごつごつした地面に裸足は痛い。
けれど、感覚が麻痺し慣れ始めればどうということはない。マルヴィナは階段を上がり、あたりを見渡した。
昨日見た景色。騒音、異臭、兵士、働かされる人々、そして何より——あの、断頭台。
恐らくあれは、人々に見せつけ恐れおののかせ、思い通りに働かせるだけの飾りではないだろう。
・・・きっと、あの犠牲になった人々も。
 マルヴィナは唇を結んだ。冗談じゃない。自分がここにいる以上、犠牲を出してたまるものか。
やるべきことがある。待ってくれている人がいる。
種類は違えど、それはここに捕まった皆に共通しているはずだ。
 ・・・絶対に、負けないから・・・!
マルヴィナは、その海の蒼の眸に、静かな炎を宿した。


 アギロだと、大男は名乗った。
その声からして、昨夜の声の主だろう。頑強な肉体を持ち、マルヴィナの約二倍ほどある逞しい腕の
そこんじょそこらの兵士よりよっぽど強そうな男であった。
「一応、ここの囚人のまとめ役をしている。・・・お前さんの名は?」
 マルヴィナは思わず男をまじまじと見てしまった。どこかで見たことがあるなぁと思ったのだ。
「わたしは、マルヴィナ。旅人だ」
「『元』じゃねえのか?」
「残念ながら、過去にするつもりはない」
 きっぱりと言い切ったマルヴィナに、アギロは肩を震わせた。笑っているらしい。
恐い笑い方をするなこの人は、とマルヴィナは少々引きながらもあきれた。
「・・・あぁ、こいつぁ驚いた。——おっと、気にすんな。じゃあまず、ここの仕事を教える。
鬱陶しいと思うかもしんねぇが、これも仕事でね。わりぃが、付き合ってくれや」
「了解した」
 大丈夫。この人は信用していいだろう。マルヴィナは頷き、アギロについて行った。
 立ち並ぶ墓と、黒ずんだ染みの目立つ壁、床。何が入っているかわからない袋の山。
ここに治療師はいないのだろうか。マルヴィナはそっと思った。
・・・もし、然闘士のままだったら、傷ついた人々を助けてあげられるのに。
「治療師? ・・・あぁ、いるよ。だが、かなりの歳でな・・・皆気ぃ遣って、治してもらおうとはしねぇのさ。
・・・治療してもらって生き永らえるのと、そのまま死んじまうのと・・・
どっちが楽かって、考え始めているのかもしれねぇ」
「そんなの」マルヴィナは言った。「・・・生きている方が、いいに決まっている」
「そりゃそうさ。だがな、皆が皆そう考えているわけじゃねぇ。自由の手に入る当てがねぇうちはな」
「手に入る」再び、マルヴィナは言った。「・・・そうしてみせる」
 アギロはマルヴィナを見た。冗談を言っている眼ではない。
もちろん、ここで冗談なんか言ったら、新入りであろうと娘であろうと、ぶん殴っていただろう。
「・・・変わったやつだな、お前さんは」
「え?」
 マルヴィナは思わず聞き返す。「・・・えーと。どういう意味で?」
「安心しな、悪い意味じゃねぇ」アギロはまたあの若干恐い笑い方をした。
「ここに来た人間ってのは皆、最初っから絶望に打ちひしがれてんだ。これからどうなっちまうんだってな・・・
お前さんは違う。最初っから脱獄する気満々だ」
 当たり前だ。マルヴィナは笑った。

Re:   ドラゴンクエストⅨ __永遠の記憶を、空に捧ぐ。 ( No.667 )
日時: 2012/10/20 10:41
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

 案内されるままに歩き、やがて二人は妙な物体の前に立つ。
 雷電の音をたて、壁の間に薄く張られたそれは、結界だった。
「入口に兵士が見えるだろ」
 アギロは牢獄の入り口を指した。言おうとしていることが分かった。
入口を塞ぐ兵士のさらに向こうに、同じ結界が張られていたのだ。
「お前さんも連れてこられたとき、あれを通っただろう。・・・あの痛さは、半端なかっただろ」
「・・・いや・・・多分既に、気絶していたと思う。
意識が戻ったのはここを牛耳っている奴の目の前に突き出されていた時だから」
「およ・・・そうなのか。そりゃ幸せだったな。ありゃあほんとにひでぇぜ。
あれに触れたときはオレすら意識が飛びかけた・・・要するに、兵士をブッ倒しても、あの結界がある限り
オレらはこっからでられねぇのさ。これが、一度は言ったら出られないと言われている理由だ」
 マルヴィナは頷きかけ——止まる。アギロですら意識が飛びかけた結界。
アギロの体力はまだどれほどのものかわからないが、それでもそれほど酷い結界を通り抜けて
よく自分は無事だったな、と思った。・・・確かに、意識が戻った時は、満身創痍だったけれども。
でもそれは——ゲルニックに捕まった時から既にそうだった。となると——
「アギロ、これは本当に誰も通れないのか?」
「あん? ——いや、ここの兵士とかは普通に通ってやがる。なぜかは分からんが、
おそらく兵士が通った時にゃ結界が作動しねぇ仕掛けがあるんだろう・・・何だお前さん、
もしかして疑ってんのか?」
「うーん・・・・・・」
 はっきりしない物言いは嫌いなのだが、さすがに今回ばかりははっきりさせられなかった。
そんな様子を読み取ってか、アギロは—少々人が悪いとは思いつつも—「じゃあ試してみるか?」と言った。
「は?」
「だから、実際に通ってみるかってことだ」
 まぁまさかそうするとは言わねぇだろう——

「そうするか」

 肯定かよ!
「いやいやいやいやいや、マルヴィナちょっと待て。そりゃいくらなんでも——」
「あなたが言い出したんだろう・・・」マルヴィナは少々呆れて、進み出た。
アギロの慌て止める声が聞こえたがもう遅い。
マルヴィナはその速度を速めることも遅くすることもせず——最初から最後まで同じ速度で、





 ——そのまま、通り抜けた。









「なっ!?」
 アギロが思わず叫び、咳払いで誤魔化す。「お、おいマルヴィナ、戻って来い早く!」
 マルヴィナは振り返り、再び結界を通り抜けた。無事。二たび、驚くアギロ。
「待て、おま、何で——ん? ・・・心当たりでもあんのか?」
「ん。——まぁ」
 曖昧に頷き、マルヴィナはしゃがんでスパッツの裾を上げる。
手に落ちてきたのは——マルヴィナが咄嗟に隠した、ガナンの紋章だった。
 アギロの目つきが険しくなり、マルヴィナは慌てて誤解される前に説明した。
「あ、誤解するなよ? もらったんだ。『空の英雄』に」
「『空の英雄』? ・・・あーあの老ドラゴンか。
・・・成程ねぇ、ってことは、奴らが結界にはじかれねぇのはこれのおかげってか」
 得心いったように頷く。
マルヴィナの表情が変わった。何かを思いついた顔だ——そのあとに言われることが大いに想像できたアギロは、
ちょっと待て、と制し、声をさらにひそめた。
「・・・おい、このこと、まだ誰にも言うな」
「え? ・・・何で」
 やはりこの紋章を利用して結界を抜け、敵を攻めるつもりでいたのだろう。
不満たらたらな声を出され、その無謀さに呆れ—どこかで、あぁやっぱりこいつは、・・・と思いながら—、
アギロはぽん、とマルヴィナの肩を叩いた。
「今はまだその時じゃねぇ。・・・いいな、まだ駄目だ。無駄死にしたくなかったらな」
「でも」
「いいな」
「・・・」
 反論は瞬時に封じ込まれ、マルヴィナは不承不承でも頷かざるを得なかった。

 彼女の初仕事は円盤に生えた棒を持ってその円盤をただひたすらに回していくという見たこともない装置を、
言った通りただひたすらに回していくという本当に訳の分からない仕事に就かされそうになっていた。
 ・・・未然形なのは、その仕事を見たマルヴィナが、何故か激しい拒絶感を覚えてしまい、
それを見たアギロが代わってくれたからだった——
何故この仕事をあんなに拒絶したくなったのかは、分からなかったけれど。












  漆千音))ふぎゃあさっそく配分間違えた!
      1.たった四話しかねぇ!!