二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ __永遠の記憶を、空に捧ぐ。 ( No.668 )
日時: 2012/11/03 23:38
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

          2.




 一晩が過ぎた。
チェルスの言葉に従うなら—天使の掟より、従わねばならないのだが—、三人が動いて良いのは明日だった。
だが、今日は? この、ただ待つだけという状況を、どう乗り越えろと言うのだ。
キルガは宿の個室で、ベッドに腰掛け顔を伏せ、先ほどからずっと何かを考え込んでいた。
セリアスはバルボロスの襲撃により壊れた風車の修復作業を手伝い、時折手を止め天を仰ぐ。
シェナは自分の家で、空いた時間を埋めるように魔法の鍛錬をしていたが、結局は集中できずにやめた。

 ・・・その中でキルガは。考え込んで——混乱していた。
本当は、ひどく冷静さを欠いていた。

 聞いてしまった。里長ラスタバと、騎士ケルシュの会話を。
そこに紡ぎ出された、信じがたい言葉を。



「——どう思いますか。シェナさまのことを」
「・・・ふむ。まるで、時を止めてしまったよう——否。・・・実際に、止めてしまっておられたのだろう」
 人の会話を盗み聞くことの非常識さは、キルガは理解している。
けれど、こればかりは。思わず、反応してしまった。

「——シェナさまは、“未世界”より蘇られたのかもしれぬ」

 衝撃が走った。チェルスから聞いた話。ルィシア。
そう、ルィシアと、同じ。聞いた言葉と、同じ——

 ——まさか!

 キルガはつい、叫びかけた。だが——何故この二人が“未世界”を知っているのか、
そしてここでも“未世界”という綽名は同じなのか。そんな疑問を出すより早く。彼は叫びかけた。
 ・・・だが、できなかった。「そういえば」ラスタバの、次なる言葉によって。

「ご友人——マルヴィナ殿と言ったか。・・・彼女にも、“未世界”の陰が見える」



 ——声が呑み込まれてしまったかのようだった。
そして同時に、表現できぬ喪失感を覚えた。
 ・・・・・・  ・・・ ・・
 マルヴィナが、“未世界”の者?

 もし、そうなら。マルヴィナと、シェナが、本当にそうならば。



                                   ・・・
“ —本来存在する者ではない為、その身体が再び死を迎えたときその身体は消える— ”






(・・・っ嘘、だ!!)

 キルガは自分の膝に、拳を強かに打ち据えた。痛みなど感じない。心にうずく痛みのほうが、強いから。
 ・・・信じられる話ではなかった。だって、今まで、そんな予兆は、なかったじゃないか。
そんな根拠など、どこにもなかったじゃないか。何故、何故そうなるんだ!?
 ——まさか、“記憶の子孫”か?
“記憶の子孫”とは、創造神以外から生み出された者であり、未世界の住民である者を指すのか?
 めちゃくちゃだ。そんなことがあるはずがない。あり得ない。
マルヴィナとシェナが、“未世界”の住民。もしそれなら、二人は。
もう、既に一度、死んでしまっているという事なのだ。
シェナの境遇は、まだすべてを知らない。けれど、マルヴィナは。ずっと、ずっと一緒にいたのだ。
天使界で過ごすものとして。仲間として。
じゃあ、いつ——・・・
 根拠がない、予兆がない、あり得ない。信じられない。それなのに。

 ——何故。





 ——何故、これほどまでに、涙を流さずにはいられないのだろう。


















「—————っキルガ!!」

 やや乱暴な音を立て、扉が開かれた。はっと意識を戻し、声の主——セリアスを見る。
セリアスは息を切らせながら、用件を言おうとして——はっと止まる。
「・・・どうした?」キルガは慌てて、顔を伏せた。
「いや・・・何でもない」
「後で話せよ」セリアスは言った。放っておくと後で一人で抱え込む。
こいつは、そういう性格だ——思いかけてそう思って終了するわけにはいかなかったことを思い出す。
「キルガ、すぐ来い。言われたことどんぴしゃりだ、
ガナンが俺らを探して入口で騒いでやがる! 性懲りもない連中だっ」
「なっ」何だって——・・・キルガは何故か声にならない声で言い、立ち上がった。窓を見る。
 シェナがいた。彼女を守るようにケルシュや、里の民がいた。そして、その先に。

 ——いた。昨日、来たばかりなのに。
 どうにもならない悲しみと悔しさが、どうしようもない怒りに変わった。キルガは奥歯を噛み、槍を手にした。
「おいキルガ、何やってんだよ。さっさ——とぉぉぉぉお!!?」
 セリアスの声を最後まで聞かず、キルガはその窓を開けひらりと超えた。ちょっと待て鎧着ていないだろ!?
いつかのマルヴィナが起こした行動と全く同じそれを行ったことを、おそらく彼は気づいていないだろう。
キルガ、お前もなんだかんだ言って、マルヴィナの影響受けているぞ・・・!
セリアスは少々呆れ気味に思ったが、こうなったらご丁寧に階段を使うのも時間がもったいない。
んじゃ俺もそうするか、と窓の下を覗くが、今降りるとキルガの振るう槍が  ・
身体を突き抜けそうで降りられない。だがキルガもキルガで、窓から突然現れた敵に攻撃し始めた
ガナンの例によって魔物兵に対抗せねばならず、そこを退くことはできなかった。
が、突然——シェナが叫んだのだ。

「キルガ、槍下げてっ!!」

 この状況下、あり得ない言葉に兵士の視線が一斉にシェナに向いた。
キルガははっとして上を見る。槍をおろす。斧が降ってきた。びくりとして兵士は振ってきた斧を見、
そして次いで振って、いや降りてきたセリアスにみたび驚いた。
「うぃ。さんきゅシェナ!」
「よろしいことで。そっちは任せていい!?」
「了解!」キルガと、
「任されたぁ!」セリアスが、同時に叫んだ。

 ・・・今は、考えてはいけない。

 今すべきは、戦うこと。
自分たちの存在によって巻き込ませてしまった里の人々。

 戦わねばならない。
これ以上、迷惑と、犠牲を、増やさぬように。