二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ __永遠の記憶を、空に捧ぐ。 ( No.672 )
- 日時: 2012/10/29 22:37
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
互いの背を守るように、キルガとセリアスは地を踏みしめた。
「そんな軽装で大丈夫か相棒」
「問題ない。いつもより動けそうだ」
言葉こそ冗談を言い合っているようだが、その内容は極めて重要だ。
キルガは聖騎士としての守りの役目を果たすのは厳しそうだ。となると、二人とも攻撃派となるか、
状況に応じてセリアスが守備にまわることになる。まったく無謀になったものだなと、
後ろで呆れながらセリアスは集中力を高めた。
——狙いは俺ら三人。セリアスは、チェルスの言葉を思い出した。
遠くに、ただ一人傍観する紅鎧がいた。おそらく奴が指揮者だろう。
「・・・奴と少し会話してみよう。そのためにまずは、ここを一掃する」
「了解」
二人は頷き、その手に込める力を大きくした。
「ごめんね。ケルシュ」
一方でシェナは、そう呟いた。「私たちのせいで・・・闘いばっかりになっちゃって」
「これが務めです」ケルシュは即答した。「無論、里の者たちも」
「でもっ・・・!」シェナは祈りの姿勢を崩さぬまま、言った。
「・・・三百年前は、比べ物にすらなりませんでした」遮るように、ケルシュは言った。シェナが息をのむ。
「あの時は、怪我人は当然、死者までもがでました—— 十人二十人の話ではありません。
あの日に比べれば、そう大したものではない・・・大した敵ではありません。
・・・グレイナル様を失ったのは確かに辛いですが・・・それは全てあの憎き帝国の所為」
ケルシュはシェナを肩越しに振り返り、笑って見せる。
「最早ドミールの民が魔帝国と戦うのは、宿命なのです。宿命には逆らえない」
「・・・」確かにここ最近の戦いで、軽傷者は出たものの、重傷および死者は出なかった。
かといって納得できる話ではない。シェナは曖昧に頷いた。
「とにかく、この戦いを終わらせるのが先決です。・・・終わったら昼御飯ですよ」
シェナは思わず吹き出しそうになった。「ひ、昼ごはんって・・・ケルシュ・・・」
似つかわしくないほどほのぼのとした言葉に、シェナは呆れながらも笑い、そして嬉しくなる。
小さいころからケルシュの手料理が好きだった。思えばケルシュの人柄全てが大好きだったように思える。
親のいなかったシェナにとって、彼は良き父であり、兄であった。昔の思い出がシェナの中に温かく蘇る。
「・・・うん。昼ごはんね。・・・でも、それはマルヴィナが戻ってきてからがいいな」
「了承いたしました」ケルシュは最後まで穏やかに言った。
キルガとセリアスの気合の声。倍以上の敵を相手に、互角、いやそれ以上の実力を誇っている!
紅鎧は苛ついたように、右手を振り上げた。
「——何をぐずぐずしておるか! 多少の怪我は構わん、ガキ三人ごとき、さっさと捕らえてしまわんか!」
キルガの目つきが変わった。何かを掴んだらしい。
表情は見えなかったが雰囲気でそれを感じ取ったセリアスは、流石だなとにやりとしながら、攻撃を続けた。
「こ、こいつら、見かけによらず強いっ・・・」
見かけによらずとは失礼な、と口中で言うセリアス。
兵士たちは鎧すら身に纏わず降って——降りてきたキルガに完全に油断していたらしい。
こんな行動に出たから馬鹿みたいに見えるけどな、こいつは俺らや多分お前らよりすげー頭いいぞ覚悟しな、と
今はあまり関係なさそうなことを一気に思ってセリアスは笑う。
キルガの合図、頷くセリアス。キルガが屈み、セリアスは斧を頭上で振り回した。巻き起こる波動、斧無双!!
生まれ出でたその強い波に、兵士たちは面白いようにバッタバッタと倒れて行った。
「おっしゃあ!」セリアスがふんと鼻を鳴らし、キルガが立ち上がる。傍観者紅鎧を見る。
この襲撃の意図を探る——そう思って、キルガがその紅鎧に向けて声を上げようとした時だった。
——べホマズン。
にわかには信じがたいほど、超高度な、絶大な回復魔力を施す呪文が、戦場に唱えられた。
————敵に向けて。