二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ __永遠の記憶を、空に捧ぐ。 ( No.674 )
- 日時: 2012/11/03 01:27
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
紅鎧を前にして、キルガとセリアスは打ちのめしたはずの兵士たちの気配を、背後に感じた。
なるべく、紅鎧を視界に入れるように。二人は、恐る恐る、振り返った——・・・。
「っ!!」
「っ!?」
想像できていたとはいえ、目を見張り、驚いてしまった。 ・・
鎧や盾などの傷を除けば、完全に回復してしまった兵士たち。自分たちよりも若く、
少数に負けたという屈辱が、兵士たちの歪んだ闘志を湧き上がらせる。
「なっ・・・ん、で」 ベホマズン ベホマ
唱えられた、その非常に高度な回復魔法——完治呪文全。完治呪文を全員に一気にかけるようなものだ。
ただでさえ完治呪文を習得できるのは大変だと言われているのに——これを使うものは、更に稀だ。
誰が? ——その疑問はすぐに解消された。
シェナが声を上げる。庇うように、ケルシュが立ちはだかる。
その眼の前に——ひとり、異様な雰囲気を伴った、先程まではいなかったはずの男が、いた。
そいつが唱えたところを見たわけではない。だが、それが容易に想像できるほどの異様さを漂わせていた。
だが、その眼に生気という生気はなく、まるで閉ざされたような、どこまでも、どこまでも無感情な眼だった。
「任せるぞ」
紅鎧が含み笑いをして、言った。答えもせず、男はただそこに突っ立っていた。
「・・・くそっ」
セリアスは悪態をつき、武器を構えなおす。仕返しとばかりに突進してくる奴らに抵抗する。
「本当に、諦めが悪い奴らだな・・・っ」
「その力、別の所に使えッ」
紅鎧に構う暇はない。二たび、攻撃。だが、わずかながらではあるが、行動パターンを読まれつつあった。
だが、それで不利になる二人ではない。いつもの鍛錬に比べれば・・・仲間たちとでの鍛錬に比べれば、
まだまだ兵士たちの腕は劣っていた。
迫りくる剣を余裕を持って躱しながら、確実に間合いを詰めてゆく。
「マルヴィナの剣に比べたら、とんだ腰抜けだっ!!」
セリアスがにやりと笑う。キルガは状況を見極め、そして叫ぶ、
「セリアス、頼むっ!」
「おうよ!」
先程と同じ。キルガが屈み、セリアスは頭上で斧を振り回す。生まれ出でる波動、斧無双。
不意を突かれ—尤も、そうなるようにキルガが見計らったのだが—、またしても兵士は余さず倒れる。
そして、次の攻撃に転じようとした時だ。
ベホマズン
・・・同じように、完治呪文全が、戦場に——敵に唱えられた。
「はや、い」
シェナが呟いた。「そんな——何で」
高度な呪文であればあるほど、祈りや詠唱の時間は長くなる。そうでなければ、魔法は失敗し、
疲労だけが代償として残ってしまうのだ。
術者であるからこそ、分かる。おかしい。こんなに早く、回復の最高位呪文が唱えられるはずがない。
「・・・このままじゃ永遠にこれだ」
「あぁ、どうにかしない、と・・・」
言いながら、二人は違和感を覚えた。回復した兵士たちは、先程のような闘志が見られなかった。
諦めたかと、一瞬思った。だが、そうじゃない。回復していながら——何故か、未だ疲労しているような、
そんな状況——・・・。
「精神的な疲労よ」二人のその考えに答えるように、シェナが言った。
「魔法は、送る方も大変だけれど、受ける方も少々疲労するの。だから、そんなに強くない者は
強い魔法を受けられないし、第一負った傷を一瞬で治すのを繰り返せば身体がもたないわ」
「な、なるほど・・・?」最初はともかく、後者は何とか理解したセリアスが不安定な答え方をした。
「じゃあ、回復させればさせるほど有利になると言う事か・・・?」
「お勧めしないわ。逆に耐性が付くかもしれない」
「・・・そうか・・・」
キルガは槍を握りなおす。「・・・なら、奴から、斃すしかないな」
「一撃必殺、ってか。厳しい相手だぜっ」
言いながら、セリアスは眸を険しくした。
(・・・だが)
キルガもそれに倣いながら、表情には出さずそっと考える。
(・・・場合によっては不利になりかねない者を、何故出した・・・?)
しかも、あの紅鎧の言葉。どうやら、自分たち三人を生かしたまま捕らえたいらしい。
何故。完全にお尋ね者となった自分たちを、何故殺さずただ捕らえようとする?
こんなに強力な魔法を使う者がいるのに——
(・・・考えるのは、)
だが、キルガはそこで思考を完全に外へ追いやった。
いつもより速く、いつもより正確に。鎧のない不安は既に、消えていた。
(———っ後だ!!)
隣の戦友に頷き、頷き返され、二人は標的を変更する。
再戦開始。
漆千音))ある意味中途半端ー(((
帝国の企みとは一体何でしょうか?((もっとわかりやすいヒントを出してから言えbyセリアス
- Re: ドラゴンクエストⅨ __永遠の記憶を、空に捧ぐ。 ( No.675 )
- 日時: 2012/11/04 00:23
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
若干精神的に疲労しているとはいえ、身体的には完全に回復してしまっている。
ベホマラー
シェナの再生呪文全を受け、気を引き締めた二人は、そんな敵たちを注意深く見た。
さすがにもう斧無双は通用しないだろう。動きは読まれつつある。やはり兵士、ただの馬鹿ではないらしい。
加えてキルガは言った通り、武具を何も身に着けていない。兵士は主に彼を狙った。
やはり殺すつもりはないらしく、腕や足を狙われた。致命傷にはならないものの、思うように動けなくなる。
キルガは防戦一方となり、セリアスは先ほどよりも動くことが多くなった。 イオナズン
長期戦は不利だ。一撃必殺で、終わらせられないだろうか——シェナが気合を込めて爆破呪文を唱える。
それに倣い、里の民たちも風や氷などの呪文で全体攻撃をはかる。
怒涛の勢いで降りかかってくる魔法の数々に、兵士は怯んだ。誰かが倒れた。行ける! 攻めの手を緩ませるな。
さらに追い打ちをかけようとした。だが—— 一瞬の差。
ベホマズン
先に唱えられたのは全治呪文全だった。
「・・・くっ!!」
シェナが悔しげに叫ぶ。次いで、キルガも短く声を上げた。——剣が、その腕に深く傷を刻んだのだ。
「キルガっ」
急激に力が失われ、槍を取り落す。追い打ちの仕返しとばかりに連続攻撃を繰り出してくる兵士を、
セリアスがキルガの背から辛うじて止めた。今の連続的な呪文の詠唱で、シェナたちの疲労も募っていた。
・・・形勢が逆転した。現状は、紛れもなく不利だった。
「よぅしそのまま、ひっ捕らえてしまえ!!」
兵士が吠える、民たちや、戦士たちに襲い掛かる。増える傷、動かない手。焦燥が増した、その時だった。
ベホマラー
シェナではない誰かが、民たちに向かって、再生呪文全を施したのは。
はっと目を見開く。目が覚める。焦燥が消える。冷静さを取り戻す。
誰もが弾かれたように自分のすべきことを思い出し、兵士たちの攻撃を辛うじて避け、受け流し、止めた。
セリアスは敢えて武器で受けずしゃがみこんで攻撃をかわし、キルガは前転してその場から離れ、その中途で槍を手にし、その場で弧を描き敵を攻撃する。
そして、その呪文の発生地を、見る。逆光でよく見えなかった。だが、彼女は。
「まったく・・・お仲間を必要とするならパーティ構成にはもっと気を遣ったら?」
眼だけは鋭く閃かせ、その腰に剣を携えるその娘は。
「・・・ルィシア・・・!?」
思わず、名を呼んだ。
ルィシアはうんざりしたような表情になり、流れた髪を耳にかけた。
「どうして——」
「何よ? ——ふん、頼んでいないとはいえ、一応助けてもらったしね。義理は返さないと、気が済まないわ」
助けた本人はここにはいない。けれど、協力してくれた。その意味するところは——・・・。
「“漆黒の妖剣”!!」紅鎧が、初めて悔しそうな顔をした。「貴様寝返ったのか!?」
「ばか言わないでよ。もともとあたしはあんたらに忠誠も何も誓ってないのよ」
「抜け抜けと・・・!」忌々しげに顔を歪ませ、紅鎧は右手を振り上げた。
「構わん、“漆黒の妖剣”は我らの敵だ! 遠慮なく始末してしまえ」
「どっちの言う台詞だか」ルィシアは小馬鹿にしたような笑みを浮かべると、自身の剣を抜いた。 ・・・
音もなく、キルガとセリアスが戦っていた兵士たちに近づく。それだけで十分だった。年若い、しかも人間の
小柄な女剣士に——思わず、圧倒されて、兵士たちは後退りした。
が、ルィシアは興味なさげに一瞥したのみ。二人の前に立ち、簡潔に言った。
「あいつを担当して」 ベホマズン
あいつ——というのは、全治呪文全の使い手——ではなく、紅鎧をさしていた。
「・・・え」
「あいつさえ倒れれば、奴は(と、今度こそ使い手を見た)動かなくなるわ」
そのまるで機械のような扱いの発言に、キルガは眉をひそめた。
「・・・何を知っているんだ? 奴は・・・いったい、何なんだ」
相変わらず無感情に立ち続ける男。だが、若干ではあるが——その身体が、ふらつき始めつつあった。
そんな様子を見て——ルィシアは、珍しく・・・ほんの気まぐれのように、しっかりと答えて見せた。
「試作品よ。“賢人猊下”マイレナの成りかわりという名のね」