二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ __永遠の記憶を、空に捧ぐ。 ( No.679 )
- 日時: 2012/11/17 00:19
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
試作品。
人間の扱いをしないその発言を咎めるより早く、その意味を考えてしまった。
「キルガ、考えるのはあとだっっ」
こんな時だと言うのに早速意識が別方向に飛びかけたキルガをセリアスが大声を出して止める。
この状況で闘いすら忘れ物事を考えるのを優先してしまうその(恐らく)本能にはいっそ称賛したいほどである。
ルィシアはそのやりとりにさして興味を示さず、最低限の情報を与えた。
帝国は更なる力を得たがっている。
そのために——三百年前から、さまざまな実験を行ってもいた。
・・ ・・・・・・・・
人に、魔物の力を与える。
当時魔物はそう大した強さではなかった。だが、成長は早かった。
確かに脅威になるほどの力ではなかったにしろ、短期間で飛躍的にその力は増えていた。
例えるなら——小さな蟻が短い期間で犬の牙と爪を手に入れた、と言うようなものだろうか。
これなら犬の力を手に入れた蟻が、虎の、象の、否——本当に人ひとり簡単にあしらえてしまうほどの
力を持つのは、遠い未来ではなさそうだった。その進化の速さに目を付けた帝国の学者は、
人間の兵士に魔物の力を与える実験をした。
「こいつらもそれよ」
ルィシアは血を横に払って独特の構えを見せた。火炎斬りの体勢である。
・・・・・・・・・・・・・
つまり、この兵士たちは、人間の姿をした魔物ではない。
・・・・・・・ ・・
魔物の姿をした、人間。
だが、それだけでは新たな敵には対抗できなかった。
そう——突然現れた、あの四人には。
まだ年若い者たち。天使だという者たち——すなわち、マルヴィナたちには。
何を差し向けても、ことごとく返り討ちにしてしまう四人を下すためにと、
学者たちは皇帝に苦渋の決断を強いられた。
更なる力を宿す兵士を作るか。 ・・・・・
それとも——あの四人以上の力を持つ者を、甦らせるか。
「“蒼穹嚆矢”と“賢人猊下”か・・・!」
「そういう事。甦らせて、もし帝国に従えば学者は楽になる。でも従わなかったら——帝国自体の脅威が増える」
「だが、結果的に後者になった、と」
「そ」魔物の足を狙い、動きを鈍らせてルィシアは後ろを振り返った。
二人は紅鎧に若干の苦戦を強いられていた。まぁ、紅鎧は将軍に残念ながらなれなかったあたりの実力者だ。
適当に頑張ってくれればいい。とりあえず、ここで暴露しきってしまおうと、
ルィシアは再び手と口を動かす。もう、帝国は完全に敵なのだから。
“蒼穹嚆矢”はともかく、“賢人猊下”は一度帝国に従わざるを得なかったことがあった。
恐らくそれを思い出して、悩んだ末に甦らせることを決断した。
だが、(案の定)“蒼穹嚆矢”は脱走。すると“賢人猊下”にも同じことが予測される。
学者はそれを恐れて結局、前者——更なる力を持つ兵士を作る方を選ぶことになってしまった。
「——前置きが長くなったわね」
「理解した」キルガが言った。「それで、“賢人猊下”の力を持つ兵士を『作った』——それが奴という事か」
「・・・キルガ。俺にもわかるように説明をくれ」
セリアスが情けなく言った。攻撃の勢いはそのままだが——妙に器用である。
「・・・“賢人猊下”の力は欲しいが、脱走されては困る。
だから、“賢人猊下”の力を宿した兵士を『作った』んだ。そいつなら逃げ出すことはないから——
それがあいつ、ってことだ」
セリアスはそこでようやく理解をする。「そういう意味か」
「“漆黒の妖剣”、それ以上言えば——!!」
紅鎧がわめくが、ルィシアは聞かない。
「じゃあなぜ今度はあんたたちを狙うか——それは直接聞かないことにはわかんないけどね」
「ちっ」紅鎧が舌打ちをした。ちなみに先程だけではなく、ルィシアの説明中ずっと、
余計な情報が渡らぬようにとキルガたちの注意をそらすような動きをしたり騒いでみせたりしていたのだが、
全て無駄な努力に終わっていた。
「・・・どうやら本当に、貴様は用済みのようだな」
紅鎧はルィシアに向かって低く唸ると、捨て身でキルガに体当たりした。
何度も言うように、一切の防具を身に纏っていない彼はその力の差に耐え切ることはできず、後ろに飛ばされる。
「キルガ!」
紅鎧の表情は兜で見えなかったが、おそらくその下で最初からこうすればよかったとほくそえんでいただろう。
セリアスの咄嗟の攻撃を間一髪で避け、紅鎧はルィシアに向かって剣を振り上げた。
ルィシアは余裕の表情をつくり、軽く剣で剣を打ち払い、軽やかに身をかわし——
「っ!!?」
・・ ・・・・・・・
そしてその刹那戻ってきたあの痛みに、魔法の後遺症に、その膝を折った。
漆千音))小説においても脚本においても、物事を長々と説明するというのはよくないことだよね
今回は説明回になってしまった。動きが殆どない・・・あぁ小説書く能力が欲しい。
- Re: ドラゴンクエストⅨ __永遠の記憶を、空に捧ぐ。 ( No.680 )
- 日時: 2012/11/18 21:56
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
魔法に撃たれた横腹が悲鳴を上げている。痛い——戻ってきたその痛みは、致命的な隙を生み出した。
否、隙どころではない。完全に、意識は戦闘から別方向へ向いてしまった。
紅鎧は一度馬鹿にしたような笑みを浮かべ、体勢を崩したルィシアを無理矢理引き上げる。
キルガが、セリアスが短く叫んだ。紅鎧の剣がルィシアを狙う——
「——さて」
——だがその剣は、ルィシアの首もとで止まっていた。まるで、人質にとったように。
後ろは崖。下の見えない、高い場所。
斬りつけるか、突き落とすか。どちらでもよいぞと、紅鎧が邪悪に笑ったのが、セリアスには見えた気がした。
「回復せよ」 ベホマズン
紅鎧の命令。またしても全治呪文全が使われる——シェナが悔しげに短く叫んだ。
だが。男は唱えたのち、大きくぐらりと揺れ——そのまま、天を仰いだ体勢のまま、仰向けに倒れた。
魔力の限界か! 民たちははっと顔を上げた。だが、だからと言ってすぐに動けるわけではなかった。
遠くに見える、人質の存在があったから。
「・・・役立たずめ。やはり試作品は、試作品か」
紅鎧は戦力を失ったことに悔しがるわけでもなく、ただ無情にそう言ってのけた。
「ルィシア!」
セリアス、と言ったか。あのお人好しは。 オヒトヨシ
ルィシアはどこかで、そっとそう考えた。仲間のために懸命になる馬鹿。
——この前まで、敵だったのに。
「・・・さて貴様ら、動くかね? それとも——小娘の命を優先するかね?」
紅鎧はどこか楽しげに言った。「敵だったものを——どうするか?」
シェナが荒く息を吐きながら、呪文体勢をつくった。
「やめろシェナ!!」セリアスの叫びに、シェナはその集中力を途切れさせた。
「何で——あいつは敵だったのよ!? この期に及んでまだ、天使の掟に従うと言うの!?」
「関係ない」セリアスは言った。「今は味方だ」
「・・・っ」シェナは先ほどより悔しそうに歯ぎしりした。「じゃあどうするっていうのよ!」
セリアスもキルガも、動かなかった。動けなかった。民たちも、今のやりとりで
迂闊に動けない状況になってしまった。
「・・・そうか。動かぬか。・・・ならば奴らを捕らえよ!」
セリアスは動かない。シェナは動こうとしている。キルガは、どうすればよいかわからなかった。
自分たちの身の安全と、ルィシアの身の安全——秤にかけて、重いのはどちらか。
個人的な問題だったら。ルィシアを助ける義理はほぼないに等しい。
彼女は敵だった。ハイリーを殺し、仲間を狙った、憎き敵だった。いきなり立場を真逆にしたところで、
シェナのように彼女の存在を認められるはずがなかった。
だが、セリアスの意見も正しい、確かに先程は、自分たちを助けてくれた。
——秤は、どちらに傾くのか?
「——————ばかじゃないの?」
兵士が近付くより早く。
ルィシアは、そう言って、嗤った。「なに考え込んでんのよ」
はっとして、訝しげな顔をする紅鎧。
思わず動きを止める兵士と身構えた里の民たち。
何十もの視線を受けながら、ルィシアはまるで、世間話をするかのように、さりげなく話し始めた。
「——復讐したかったのよ」その内容に合わない口調で。
「あたしが帝国の騎士になった理由。あたしを“賢人猊下”の人質にした帝国のクサレ皇帝に、
あたしのプライドを傷つけたあいつに——復讐するために」
いきなり何を言い出すのだろう。おかしくなってしまったのか。民の中には、そう考える者もいた。
だが、ルィシアはおかしくなってなどいなかった。あくまで、どこまでも冷静なだけで。
「——あたしは、自分の存在が誰かに迷惑をかけるのを嫌う」
ゆっくりと、笑みを浮かべて。
「——邪魔な存在に自分がなるのを嫌う」
その眸に、危険な色を映し出して。
「——つまり」
その腕に、力を込めて。
「あたしを人質にしたことで——お前は復讐の対象者になったってことよ!」
「————————————————————っ!!」
——声を上げる暇はなかった。
ルィシアは叫ぶなり、その恰好のまま、地面を強く蹴った。
————後ろへ。
そこにいたすべての人間と、すべての魔物の表情が一致した。
驚愕。それ以外に、なかった。
後ろ、即ち、崖。
紅鎧もろともに、
———————————崖下へ、転落した。
- Re: ドラゴンクエストⅨ __永遠の記憶を、空に捧ぐ。 ( No.681 )
- 日時: 2012/11/18 22:50
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
それは一瞬の出来事で、永遠の時間だった。
なすすべもなく、その場にいた全員が凍りついたままだった。
だが、誰かが、魔物が、鋭く吠えた。ルィシアに憤るように、あるいは、紅鎧を弔うように。
ケルシュが素早く反応し、未だ動けないシェナを守った。
完全に自由になったセリアスが、意味がないと分かっていながらも、崖に走り寄った。
もう、影はなかった。
「・・・なんでだよ。なんで、自分からっ・・・!」
叫んで、セリアスは、はっと身を強張らせた。
・・・・・
覚えている。
・・ ・・・・・・ ・・・・・
俺は、この悲しみを、知っている。
——何故?
何処で?
目が見開かれる、流れ込む映像、高い崖、見える、立っていた、馬鹿みたいに突っ立って、何もできなかった、
目の前で落ちてゆく誰か、ただ茫然と見ている、見える、立ちすくむことしかできなかった者、
炎髪、菫色の鋭い眸、それは。
その人の名は。
「—————セリアス!!」
鋭く名を呼ばれ、強く別方向に引き込まれていた意識が戻ってきた。
戻ってきて、いきなり眼を見開いた。崖を背にしながら、兵士が襲いかかってくる!
この不安定な格好で、避けることなど——
「——っドルモーア!!」
シェナのかすれた、痛々しい声が響く。過たず兵士を撃ち、転落させる——先程のあの二人のように。
「シェナ、お前っ・・・」
思わず咎めるように叫んでしまい、はっと口をつぐむ。だが、遅かった。
「——なんなの?」シェナはまるで心外だと言うように、頬を強張らせる。
「何なのよ、セリアスはどっちに味方してるのよ!」
「こっちに決まってるだろ、でも——」
「どうせは同じ運命じゃない!」ぴしゃりと、シェナは言った。
すれ違いが生じ始めた。
思えば、こんなことは、初めてだった——
「シェナさま、セリアス殿、とにかく今は集中です!」その空気をケルシュが払った。
「・・・話はあとだ」キルガも、言い辛さはあったが、とりあえずそう言った。
「相手は回復手段を失った。もう、勝てる」
互いにもやもやとした思いを抱えながらも、戦いに戻る。限界が近づいていた。
言い表せぬ複雑な思いを、自棄気味の闘志に変えて。
——回復できなくなった兵士を一掃するのは、それほど時間はかからなかった。
最後の一人が倒れ——闘いは終わった。
勝利に喜ぶ気力すら尽き、人々は壁や地面に身を預ける。キルガとセリアスは座り込み息を吐き、
シェナは頭をぐらりとさせて再びケルシュに支えられる。それだけで安心感があった。
非戦闘員たちが負傷者を宿屋へ運び込む。キルガが座り込んだまま、天を仰いで息を整えるセリアスへ訊ねた。
「——さっきはどうしたんだ?」
「え」
「いきなり意識が飛んでいただろ。・・・何かあったんじゃないのか」
セリアスは言いよどんだ。一瞬視線を彷徨わせて——「見えた」——小さく言った。
「何かが、見えたんだ。誰かが落ちていくんだ。でも、俺は——違う、俺じゃない。見ているだけなんだ、
何もできなかったんだ——俺じゃなくて—————マラミア、が——・・・」
「マラミア?」キルガが短く言った。「マルヴィナが言っていた——」
キルガは驚いて声のトーンを上げた。「・・・セリアスも、なのか」
「え」再び、問い返した。「・・・どういう事だ?」
キルガもまた、言いよどむ。だが、セリアスは話したのだ。こちらも話す義務がある。
「・・・最近、夢に見た」やはり小さな声で。
「ただ、僕の場合はマラミアじゃない。恐らく——アイリスという人だ。
会ったことがないのに——直感的にそう思った。・・・何で、僕らにまで、見えたんだ・・・?」
「・・・て、言われても」
セリアスはそう返すしかなかった。キルガに分からないことが自分にわかるはずがないだろと。
キルガが曖昧に返事をした。額の汗を拭う。セリアスは目を伏せた。
先ほどの言い合いが、すれ違いが、重くのしかかってきて——
「————————————がっ!!」
——そして二人は。
否——そこにいた、皆が。
・・・左胸を血に染めたケルシュの叫びを、聞いた。
漆千音))このあたり急展開多いな・・・
- Re: ドラゴンクエストⅨ __永遠の記憶を、空に捧ぐ。 ( No.682 )
- 日時: 2012/11/18 23:46
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
もう、瞬時には思考がついて行けなかった。
「・・・・・・・・・・・・っ!!」一番初めに状況に気付いたシェナでさえ、反応はかなり遅れたのだ。
支えられていたシェナの真横に伸びていたのは、剣。
戦いは終わった、だが、幕を閉じたわけではなかった。
ベホマズン
もう動かなくなっただろうと思われていたあの全治呪文全の使い手が、起き上がっていた。
その手に、剣を握りしめて。
その剣の先に、ケルシュという標的を捕らえて——
シェナは叫んだ。叫んだつもりだった。実際に声になっていたかは、分からなかった。
今度こそ本当に力尽きた使い手が、後ろに倒れた——同時に剣が抜ける。
刹那、血飛沫が舞い、シェナの顔を赤く染めた・・・。
「っケルシュ!!」
同じように頽れるケルシュの手を、シェナが強く握った。その名を呼び、双眸に紅い涙をためて。
「ケルシュ、ケルシュしっかりして!! ケルシュっ!!」
叫んで、奥歯を噛み、シェナは集中した。
だが、ケルシュにそっと握り返された手に、力が入らなくなる——
マホトーン
シェナの呪文が、『真の賢者』の魔力が、ケルシュの呪封呪文に抑えられて。
「な」シェナが驚愕した。「何やってるのよ!? 早く、早く回復、し、な・・・っ!!」
・・・
「・・・シェナ」
ケルシュは、うまく開かない唇で、そっとその名を呼んだ。
呪封呪文の影響は強かった。そこにいた皆が、呪文を封じられていた。
故に——誰も、回復の呪文を施せなかった。それを、シェナは分かっていながら、信じようとしない——
「これ、以上・・・魔法を、使ったら、貴女が、死んでしまう——」
「だからって、何で、何でよ、やめて、これ以上、失わせないでよ! こんなんじゃ、私——っ」
「貴女は」無理矢理笑って、ケルシュは言う。「——希望なのです。あの方にとっても、私にとっても」
微笑する唇が、徐々に動かなくなってゆく。シェナはかぶりを振った。
「・・・昼ご飯、作ってあげられなく、て——申し訳、ありま——」
「いや! ケルシュ、死なないで——何で・・・まだ、私に、失わせるのっ・・・!? ——そんな、の・・・
・・・・・・・・・・・・・・ケルシュ・・・・・・・・・・・・?」
ケルシュの手が、重みを増した。揺すっても揺すっても、動かない。
もう、動かない。
———またひとり、命が消えた。
キルガやセリアス、皆が絶句する中で——
「いっ・・・いやぁぁぁぁぁぁあっ!!」
——シェナは、悲痛と、絶望を込めて、叫んだ・・・。
「何とも——お疲れさまでした」
割り込むように、冷徹な声が空気を裂いた。
動くことすらできなかった皆が、はっとその声の主を見た。
現れた影、この話し方。もう、誰だか分かる——ゲルニック!!
「ってめ・・・っ!!」セリアスの叫びは、最後まで言えなかった。
「さて——これらは回収していきますよ」ゲルニックはあくまで非情に、冷酷に言った。
倒れていた兵士たちの周りに魔法文字が生じる。移転。シェナがゆっくりと、顔を上げた。
その眸には強い怒りが炎となって揺らめいていた。何か別の者がシェナの中に現れたようで、
ゲルニックを除いたその場にいた者たちが思わず息を呑んだ。
ゲルニックは嗤う。蔑んだような、面白がるような眼で。
「——怒りますか。怒るでしょうね。何とも、無責任なお方だ——自分の過去を棚に上げて」
その言葉が出てきた時、シェナの火は一瞬にして消えてしまった。代わりに、次に生じたのは——恐怖。
「どういう意味だ!」セリアスが叫んだ。キルガは感覚のない手で、無言のままに槍を拾い上げた。
「やめて」だが、シェナはそう言った。セリアスに言ったのか、ゲルニックに言ったのか。
それは定かではなかったが、確かに彼女はそう言った。
「おや・・・ご存じないのですか?」だが、ゲルニックはそれを無視した。
「あぁ、それはそうですね。もしご存知でしたら、今頃あなた方と肩を並べてはいなかったでしょうから——」
「やめて」先程より大きな声で、シェナは言った。
「何——?」困惑して、キルガは思わず言った。「シェナがガナンに捕まっていた話か?」
「えぇ、そうですよ」ゲルニックは言った。「・・・そのあとが抜けているようですがね」
「やめて」
「その娘は」
ゲルニックは楽しそうに——決定的な発言をした。
「その後帝国の人間になったのですよ。帝国兵の司令塔の役割を担った、ね」
場が凍り、時が止まり、喪失感を覚える。
いつの間にか、ゲルニックの言葉を、なぞっていた。
シェナが、帝国側の、人間。
敵、に————————————————・・・
シェナが何かを叫んだ。言葉では表せない叫びだった。ただ覚えているのは、何かを刺したような、
何かを割ったような、何かを貫いたような——凄く、凄く痛みの強い叫びだった。
叫んで、彼女は、意識を失った。ゲルニックは嗤っていた。
何にも例えられない、その場にいた者たちの表情を見て。
「さて——わたくしの役目は、奴らの回収」
最初と同じ口調で、ゲルニックは言った。
「目的は果たしました——そうそう、忘れていました」
言った傍から訂正を入れる。そして、動かないキルガとセリアスを見て、更なる追い打ちとなる事実を言った。
「——“蒼穹嚆矢”は捕らえました。残念ながら——もうあなたたちに勝算はないでしょう」
——本当の絶望とは、どこからをそう言うのだろう。