二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ __永遠の記憶を、空に捧ぐ。 ( No.703 )
- 日時: 2012/12/13 21:49
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
4.
…それは夜明け。
『情報通り牢獄の兵士は殆ど霊か面倒だなー。手加減することほどもどかしいことってないんだけどなー』
凄く軽い声がした。はっとして入口を守る牢獄兵が辺りを見渡した。
気付かない。否、知らない。この声の主が一体誰なのか。
牢獄を守る仕事を任されている程度の兵士では、縁のない声。
「なッ…き、貴様! 何者だ!」
『えー知らないの? ぶっちゃけ帝国には有名人になってたと思ったんだけどなー』
「答えろ貴様、何者だと問うている!」
『聞こえてるよ。あと、間違いね。貴様じゃなくマイレナ様。
—————“賢人猊下”マイレナでありんす』
今度は、答えの声はなかった。
それは帝国にとって最恐の名であり、最も求める者の名。
だがもちろん、それを認めるまで時間がかかり、気付いたら気付いたで簡単に動けるはずは——
「捕らえろぉぉぉぉぉぉっ!!」
『動けるんかーーーーーーいっ!』
叫んで、マイレナはくるりと踵を返して逃走開始。その場の兵士の一人が追い、一人が牢に急ぎ戻る。
夢の中にいた兵士たちは朝からのその大声に顔をしかめ(魔物の顔に表情があるのかと言われると
答えに窮するのだが)、そろって鈍重な動きで身体を起こしたが、“賢人猊下”の名で皆一斉に跳ね起きた。
武器も持たずに走るもの、鎧を着るか否かで悩むもの、それを急かすもの——
何も知らない囚人たちにはこれ以上ないほどの迷惑な騒ぎ用だった。…何も知らない者には。
(…来たようだな)
マルヴィナは狸寝入りをしていた。 マイレナ
おそらくこの騒ぎを起こしたのは、チェルスに自分がここに来たという合図を送るためだろうと予測する。
となるとしばらくすれば、チェルス本人から何かの指示が来るかもしれない。それまではしばらく寝たふりを、
「…っ?」
ふと、何か妙な感覚がした。どういえばいいのだろうか。何かに見られているような、というべきか。
根拠のない、曖昧な感覚だった。けれど——確かに。何かに、監視されているような気がする。
(…何だ…?)
寝返りをうったふりをして、マルヴィナは牢の外を見た。
少々わざとらしかったかもしれない。寝息を立てるふりもした。
目が慣れてくる。外の方が明るいので逆光になっているが——その影から特定できる。
兵士だ。
——武器を持った。
——外で。
スケスケのマイレナは、一体どこから集めてきたと言いたいほどの人数の兵士から
ちょこまかしゅたこら逃げていた。
『いえっさぁぁぁぁぁぁぁーーーーー』
とか叫んでいる。どっからどう見てもふざけていた。
当然のごとく後ろから、
「待たんか、“霊”がッ」
という声が飛ぶ。もちろん待てと言われて待つ馬鹿は
『りょーかーい』
ここにいた。
「!!?」
思わず驚いて一瞬動きを止めたのを見て、
『はい時間切れー。いえっさぁーーー』
再び妙な言葉を伴い逃げる逃げる。
「こっ、きっ、な、なめおって!」
頭に血が上り冷静さを欠き始める兵士に、
『美味しくないでしょーがー』
意図的に大幅にずれた返答をした。
適当に兵士に答えてやりながら、マイレナは脳裏で別の者と会話をするという、実に器用なことをしていた。
“ マイ、準備はいいな? ”
ばっちりね。マイレナは、マラミアに答えた。
“ できるだけ不自然にならないように——いいわね? ”
分かってるって。マイレナは、アイリスに答えた。
このためだけに、一体いくつの作戦を立てただろう?
ようやく、来る。待ち望んだ、この時が——
時 が ———————————
(——————————————————————ッ!!!)
その時が。
今ここに、来た。
目の前に、雷が走る。身体が燃え上がるような感覚。
立っていられない。頭が締め付けられているような、痛み。その、煌き——…。
目の前の物がグニャグニャに溶け、紅い煙が立ち込める。天地ひっくり返ってんじゃないのか。
心臓ひとつ一回転させられたような気味の悪い感覚。吐き気。なにこれ。
駄目だ、さすがにこれは、耐え、ら——
「うっ…あぁぁああああああああああッ!!」
その声に。
自分の意識を、取り戻した。
その大地に、彼女は立っていた。
一人の存在として。
三百年の、時を超えて。
手も、足も。頬に触れた、短髪も。 ・・・・・
雷が鳴る。暗い帝国に、一瞬だけ差した光。足元に——影があった。
「……来た」
呟いた。声は間違いなく、はっきりと聞こえていた。
今ここに。
三百年前の伝説、“賢人猊下”マイレナが、復活した。
———と同時に、いきなり兵士に囲まれた。
- Re: ドラゴンクエストⅨ __永遠の記憶を、空に捧ぐ。 ( No.704 )
- 日時: 2012/12/16 22:46
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
「ちょ、もうちょっと格好つけさせてくれたっていいっしょーー!?」
もちろんマイレナの主張が通るわけはなく、四方向から槍が突きつけられる。
一瞬だけ不満げな表情になってから、マイレナは腰に手を当てた。
「手を上げろ」
「復活したばっかだってのに、武器なんか持ってるわけないじゃん」
「問答無」
「あーはいはい」
槍が少々近づいたので、全てを言われる前に答えた。
「…我ら帝国につけ」
「あのさー、それ分かって言ってるよね? ウチがそんなことするわけないじゃん」
「貴様に拒否権はない」
マイレナはじとっ、と気だるげに兵士を見る。
「…貴様の妹は我らの監視下にある——同じく復活した、あの娘がな」
マイレナは応えなかった。…待て。まだそれを、実行するな。
——もう少し、時間を稼がねば——
「もう一人、人質はいる」
その言葉に、マイレナは。
・・・・・・・・・・
驚いた表情をつくった。
「…貴様の戦友——“蒼穹嚆矢”だ」
「…どういうこと」思ったより棒読みになってしまったかもしれない。
演技は苦手だ。嘘のつけない性格なのだ。
「…何ならその目で確かめてみるか? あの牢獄にて」
(あ…マズイ)
マイレナは思わず顔に出した。
今ここを離れるのは、まずい。 ・・・
マイレナが立っている位置は、そろそろマルヴィナの仲間三人が到着する予定の場所に近かった。
なるべくそうなるように走り回っていたのだから当然だが——言われた通り今から牢獄へ移動すると、
彼らと合流できなくなってしまう。紛れもなく新天地、
更にお尋ね者の三人はなすすべもなく捕まってしまうだろう。そうすれば作戦は失敗、
その後に待つものは——
(…ちょ、マミ、アイ、何やってんの!? さっさと三人連れてこいっつーの、このままじゃ失敗するって!)
素直にその焦りまで表情にでる。
連行することが“賢人猊下”にとって何らかの不利があるようだ——そう読み取ってしまった兵士は、
右手を大きく振った。槍が動いて、手荒にマイレナを誘導する。
「…もう一度言う、我らにつけ」
(…く、ど…どうにか、ならな)
辺りを見渡して。そして——不意に、天を仰いだ。
いきなり止まった“賢人猊下”は——笑っていた。
「…遅かったね」
謎の言葉を呟いた——時。
————————————————
「むがっ!?」
「ふげっ!?」
「うぐっ!?」
三つ、珍妙極まりない声が重なった。
目の前で起こっている現象を、三十字以内で説明するなら。
『 空から落ちてきた二人の若者が、ひとり兵士を押しつぶした。 』
我ながら完璧な答え。と、あまり自慢できることでもないことを勝手に考えて、マイレナはにやりとした。
そう、即ち。
唖然とする兵士たちの前で——ひとり先陣切って歩き出した兵士の上に、ようやく到着した彼らが
運悪くも、あるいは良くも、落ちてきたのだ——
キルガと、セリアスの二人が。
マイレナはいきなり腰を落とすと、唖然とする一人の兵士の足を引っかけ、その手を鋭く蹴り上げた。
槍が天高く弧を描いて飛ぶ。別にその兵士一人に恨みがあるわけではなかったが、倒れかけたついでに
(ほんのちょっぴりだけ申し訳ないかもと思いながら)その背を踏み台に飛び上がる。
槍をはっしと掴み、兵士の輪の外へ着地、その間もなしに右腕を払って兵士たちの膝当ての上を一気に薙いだ。
誰がこの速さについて来ただろう。マイレナが攻撃を始めたのに気付いた時には既に、
太ももあたりに生じた傷の痛みに呻くことになっていた。
「答えがまだだったね」
槍をひとつ振って、マイレナはもう一度不敵に笑った。
「その誘い、——断る」
今度こそしっかりはっきりと決めると、マイレナは未だ困惑顔の二人の青年を振り返った。
「…ん? 一人足りないね」
「え、と…え? な、何が」セリアスはまだ座り込んだままだった。つまり当然、未だ兵士を下敷きにしていた。
「…はいはい初めまして。元僧侶にして現在賢者、石頭の“蒼穹嚆矢”の唯一の戦友
“賢人猊下”マイレナと申す。…これくらいの説明で理解できるね?」
二人の青年は、その言葉でようやく現状を把握した。
もちろん、驚愕に叫びはしたけれども。
漆千音))ちなみに、あの珍妙叫び三連発は、兵士、セリアス、キルガの順。どうでもいいが((爆
- Re: ドラゴンクエストⅨ __永遠の記憶を、空に捧ぐ。 ( No.705 )
- 日時: 2012/12/18 18:19
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
シェナはいない。
彼女は、来なかった。
一瞬、目の前の景色が歪んだ気がして。
気が付いたら、この地にいた。
そして目の前に、『もう一人の伝説』がいた。
“賢人猊下”マイレナ。
宣言した。
彼女は、敵になるつもりはないと。
——自分たちの、味方に付くと。
「なんかそっちにもいろいろ事情がありそうだけど」
マイレナは一人足りないことをそう解釈すると、もう一度槍をびゅんびゅんと鋭く振り回した。
一見危なっかしい動き。だが、キルガの——槍使いの彼の表情が、大きく変わった。
…使い手だ。紛れもなく、相当の。
賢者だと言うのに。
「…まずはここを一掃するよ。それから、あの二人を助けに行く。異論は? 認めないけど」
「……それ訊く必要あるんスか?」
セリアスが尤もなことを尋ね、キルガは素直にありませんと答えた。
「はいはい。——あ、でも、死なせんなよ? さすがに復活早々戻りたかないしね。
…さぁーて、ひっさびさにかっとばすよ!」
最後の気合いの声はともかく、要するにこの兵士は全て、“霊”である。
そう言っているのが理解できて——彼らは、マルヴィナの存在を思い出す。
——待ってろ、今助けに行くから。
二人は武器を構え——
そしてその地を、強く蹴った。
不覚だった。
チェルスは、紅鎧と対峙しながら、一人の人質を見ながら、そう思っていた。
マイレナの存在が牢獄の兵士に知れ渡る。
兵士がマイレナを追う。捕らえて——帝国側に従わせるために、自分を人質にするだろう。
思惑通りだった。つい先ほど、自分は兵士のだみ声で起こされ(もともと起きていたが)、
兵士を三人後ろに、床に座って身動きをとらせられなかった。
だが、それでよかった。そのまま待っていれば、復活したマイレナは再びこの牢獄に来る。
兵士の予想に反した存在として。
・・・ ・・・・・・・・
三人の、マルヴィナの仲間を連れて——歯向かう者として。
その時が、勝負時のはずだった。戦力を大幅に上げたところで、反乱を起こす。そのつもりだった。
上手くいっていたのだ。そう、さっきまでは。
——まさかの展開となった。
マイレナは復活したらしい。そののち、抵抗をし、従わないことを宣言した——
・・・・・ ・・・・・・・・・・
その情報が、牢獄に入ったのである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そう、つまり。マイレナが従わないという情報を耳にした兵士に、戦友チェルスを人質にとる理由はもうない。
仕方がない。それならそれで、こちらも反乱を起こすだけだった。
戦力が不安だったが、こうなった以上やるしかないか——チェルスがそう思っていたときに、それが起こった。
紅鎧が、次にとった人質は——マルヴィナだった。
- Re: ドラゴンクエストⅨ __永遠の記憶を、空に捧ぐ。 ( No.706 )
- 日時: 2012/12/15 23:38
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
賢人猊下が従わぬなら、蒼穹嚆矢を従わせる。
そう考えた上での行動だろう。
モウロウ
マルヴィナは、じかに触れる邪悪に意識を朦朧とさせながら、意識をどうにか繋いでいた。
見覚えがある。この紅鎧、あの日ゲルニックと共に闇竜の様子を見にやってきて、
倒れているマルヴィナに槍を突き付けた——その時マルヴィナの真正面にいた、あの兵士だった。
だから知っている。マルヴィナが何者であるのかも、チェルスにとって重要な存在であるということも。
でなければ、こんな行動に出られるはずがないのだ。あくまでマルヴィナは、この牢獄に、
グレイナルと共に帝国に戦いを挑んできたただの旅人、として入れられた者だったのだから。
他の囚人たちが、恐る恐る顔を出していた。
間に入れば瞬時に見えない何かによって焼き払われる。そんな根拠のない考えが浮かぶほど、
両者の間には痛いほどの緊張が走っていた。
マルヴィナの、敏感に者に反応する能力が、ここで仇を成している。
あまりに敏感すぎて——邪悪が近すぎて、彼女は意識を失いかけていた。
動けなかった。こんな時に、いつか——遠い昔に交わしたとある会話を思い出しかける。
そんな場合じゃない。チェルスはその思い出を打ち払う。答えない。帝国に従えだと?
だが、それでは。
それでは———…。
「しっかりしねぇか、“蒼穹嚆矢”チェルス! “天性の剣姫”マルヴィナっ!!」
鋭く響いた、低い声。
チェルスの頭に重く響く。
マルヴィナの後ろにいた兵士が、彼女ごと吹っ飛ばされる。が、そうなる前に——がっしりと、支えられた。
——アギロである。
「な、…ッ」思わず驚いて言葉を発せないチェルスに、アギロは視線を転じた。
「…ったく、お前さんらしくもねぇ」マルヴィナをしっかり立たせて、アギロは言う。
ばちんと彼女の目の前で手を叩く。マルヴィナははっと顔を上げた。
「あ、アギロさん…っ」囚人たちが青ざめて、彼の名を呼んだ。「な、なんてことっ…」
「問題ねぇよ」アギロは答えた。「ちと、突然になっちまっただけだ」
「てことは、まさか…?」
ぽつぽつと上がり始めた、困惑と、恐怖と、少しだけ入り混じった期待の声。
「あぁ」答えるように彼は言った。「ようやくだ。オレたちの自由を勝ち取るときは、今を置いて他にはねぇ!!」
「で、でも、結界は、どうするんです!?」
「そいつも問題ねぇ」
意識を取り戻そうと頬を叩くマルヴィナに(若干見ていて大丈夫かと思うほど強く叩いていた)視線を転じ、
アギロは力強く叫ぶ。
「こいつはあの結界を通れる」
どよめきが起こった。不信の声も上がる。けれど、アギロはもう一度言った。
「オレたちは囚人じゃねぇ、奴隷でもねぇ。ひとりの、人間だ! 今こそオレたちは、自由を掴みとるんだ!!」
そのいきなりの状況に。
予想だにしていなかった、反乱の始まりに。
囚人たちは、戸惑いを見せたのち——それを払うように、叫びあがった。
今まで散々虐げられてきた、憎き帝国兵に立ち向かうべく。
「大丈夫か、マルヴィナ」
声をかけられて、マルヴィナはようやくアギロを見た。
「あ、あぁ、大丈夫…すまない」
「なに、いいってことよ。チェスがちんたらしてっからこういう事になったんだ」
「…面目ない」
チェルスは意外にも素直にそれを認めた。マルヴィナは驚いて彼女を見た。
「まぁ、ともあれ、計画は始まったんだ——マルヴィナ、わりぃがいっちょ、頼まれてくれや」
「結界」マルヴィナは確認するように言った。「…だな?」
「あぁそうだ。頼んだぜ」
マルヴィナは頷くと、だっと駆け出した。
(——あれ?)
そして、その途中に思った。
(何で、わたしの称号を——)
先程のアギロの言葉に疑問を覚えながら。
(あれが——)
そして、もう一人。
(あれが…“天性の剣姫”っ…!!)
その称号に、反応した兵士がいた。
漆千音))緊張感ある雰囲気ってどうやったらうまく書けるんすか。
難しいよぅ←