二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ __永遠の記憶を、空に捧ぐ。 ( No.708 )
日時: 2012/12/16 23:45
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

 駆け出したマルヴィナを庇うように、アギロとチェルスは後退りしながら結界に近付いた。
兵士はマルヴィナを警戒した。先ほどアギロに、その正体を知らされたからである。
後から彼はそのことを—この状況でマルヴィナの正体を叫んでしまったことを—謝ったが、
ともあれ兵士たちは彼女を狙おうとして、そこを囚人たちに逆に狙われていた。
「よし…行けっ」
 チェルスが言うより早くマルヴィナは、結界を通り抜けた。一瞬、どよめきが起きる。
囚人たちは、驚愕と歓喜。兵士たちは、驚愕と焦燥。
「とっ…止めろぉっ!!」
「させねぇよ!」
 彼女を止めるべく慌てて結界の方向へ走る兵士を、網にかかった獲物を見るような目つきで
アギロとチェルスの二人が迎え撃つ。
この二人の連続した攻撃を避ける者などまずいないだろう。アギロが対応しきれなかった敵は全て、
チェルスの前に倒れて意識を失う者ばかり。帝国本拠地の兵士に比べれば大したことのない奴らばかりか——

 そう思った。
たった一人、それを躱した者が現れるまでは。


「ッ!?」
 チェルスは思わず驚いた。自分の動きが読まれていた!? 重装備をしているとは思えぬほど
軽やかな動きをした兵士は、そのままチェルスの横をかいくぐり、結界へ走る。
 チェルスはすぐさま振り返ると、そのまま腰を落として足を引っ掛けようとする。
が、兵士はそのまま前へ飛んだ。つまり、再び躱したのである。
動きを見ていないと言うのに——そしてそのまま、
「しまっ」
 結界を越え、解除に走った彼女を追った。
マルヴィナの名に、最も反応していた、あの兵士だった。



キザハシ
 階を駆け上がり、マルヴィナは結界の装置を見つけた。
「うわ…」
 そして、思ったより複雑そうなそれに、ついため息交じりの声を上げる。
セリアスならこういうの得意そうだけれど、ここに来れるのはわたしだけだしなぁ、と考えるが、
それは思っても仕方のないことである。ともかく、早く解かねばならない。そして——
 仲間と、合流する。

(…よし。…じゃあまず、これがえっと、…ん? えーと…、…………)
 早くも挫折しかけるマルヴィナ。なんだこれ全然わからない。
どうせ作るなら脱獄者にもっと優しい装置にしろってんだ!
ツッコミどころ満載のことを考えるマルヴィナの横から剣がのびたのは、その時だった。

「っ!」
「…………っ、………、……………は、ぁっ……」
 しばらく息を吐くその兵士は。
チェルスの二度にわたる攻撃を躱した彼は。
「あなたは…あの時の」
 唯一の人間である彼は。
 昨日、あの神父に命を助けられた、あの青年兵だった。
 彼は兜をかぶってはいなかった。半壊したまま、使い物にならなくなったのだろうか。
 ——けれど、そんなことは、今はどうでもいい。
 マルヴィナは結界装置を背に、自分に突き付けられたままの剣と彼を交互に見やった。
感づかれぬように息を整える。相手の呼吸を探る、そして。
「ふっ!」
 器用にも相手の腕を蹴り上げ、剣を弾き飛ばす。落ちる前に拾ってやろうかと思ったが残念ながら
柄ではなく刃側がマルヴィナに向いて落ちてきたので、完全に落ちてから拾い上げる姿になってしまった。
少々格好悪いが仕方ない。ともかくマルヴィナは、その剣を突き付け返し、にやりと笑った。
「わたしの称号は聞いているだろう。“天性の剣姫”にとっちゃこいつはただの獲物だ」
「…くっ…!」
 青年兵は腕をおさえた。だが、その眼は変わらない。じり、と後ずさる。
「!」
 背後に、立てかけられた槍が見えた。この狭い部屋で槍を使われるのは避けたい。
考えるより早く、マルヴィナは動いた。その標的、槍。先に真っ二つに斬ってしまった。
 穂先から落ち、乾いた音を立てる。
「…これでもまだ、諦めないか」
 彼の答えは変わらなかった。間違いない、と思った。彼は武器を使って自分を脅そうとしているのではない。
 ・・・・・・・・
 命を奪う気でいる。
「…あなたは、救われた命をもつ」
 少しだけ祈るように、彼女は言った。
「けれど、もしあなたがわたしの…わたしたちの障害になると言うのならば、
わたしはあなたを斃さなければならない」
「私は」青年に似合わぬわざとらしくつくり上げた声色で、彼は言った。
だが、その言葉の続きは、出てこなかった。
「わたしを殺す気か」
 無言が肯定を表した。
青年兵がいきなり右の手でマルヴィナの首筋を薙いだ。驚き、身を引く。彼の手には短刀があった。
(…どこに持っていたんだ。意外と、油断も隙もないな)
 いつの間にかふきだしていた汗を指で払い、マルヴィナは剣を構えなおす——…。

Re:   ドラゴンクエストⅨ __永遠の記憶を、空に捧ぐ。 ( No.709 )
日時: 2012/12/28 17:00
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

「おっしゃ効いたぁ!」
 雄々しく叫び、チェルスが指を鳴らした。
 彼女らの前では、魔法によって混乱した兵士たちが固まっていたり逃げ回っていたり叫んでいたりしていた。
     メダパニーマ
「ほぅ、混乱呪文改か。相変わらずの悪人だな」攻撃の手をようやく休められるようになったアギロが
その言葉に呆れたような、苦笑したような表情をつくるチェルスを見た。
「それは褒め言葉でいいのか? これでも対象を絞って呪文をかけるのって大変なんだぜ?」
「生憎オレはそういうのは分からんのでな。まぁお疲れさん」
「はいはい。…そろそろ来るかな」
 ん? とアギロが反応する。マルヴィナのことかと思ったが、違う。
すぐさまあぁ、と納得する。
 マ イ レ ナ
「あの天然娘か。…そいやぁ、“剛腹残照”と“悠然高雅”の二人は元気にしてっか?」
 相変わらずだよ、と返す。それ以外にあの二人は答える言葉がない。
「——ところで遅いな」
 ともかく、まだ解かれていない結界に目を移して、呟く。「…さっきの奴にやられていなけりゃいいんだが」
「おいおい、珍しく弱気だな。復活してちと昔よりは怯えるってことを知ったか?」
                    タチ
「残念ながら知らないな。怯える前に動く性質だってことは知っているだろう」
「お前も充分相変わらずってか。だがな、アイツなら大丈夫だろう。
ちゃあんとお前の強さを引き継いでっからよ」
「根拠のないものが嫌いなんだよ。…あいつだって完璧じゃない」
 そう、完璧じゃない。
彼女は、“霊”と同じ存在になってしまったのだから。




 だがチェルスのその考えとは逆に、マルヴィナは少々辛くも勝利を飾っていた。
「ここまで攻撃が通用しなかった敵は初めてだ」マルヴィナは息を吐き、剣を持つ手をおろした。
それでもなお殺気を放つ青年兵に、「…っと。悪いけれど、ここまでだ」剣と弾き飛ばした短刀を
自分と青年兵の二人から遠い位置に放り投げた。
「帝国に連れてこられさえしなければ今よりずっと幸せに過ごせていた命を奪いたくない」
「!」青年兵が顔を上げた。
言葉は発さなかったが、分かりやすい表情をしていた。驚愕。『何故それを知っている?』——そう言っていた。
「大体あなたの考えは想像ついているつもりだ。大方、わたしを亡き者にして、
願いとして帝国を抜け出す許可をもらいたいんだろう? ——あたりだな」
 ハイリーと同じだった。彼もまた、帝国の兵士に強制的につれてこられた、人間。
「それにしても、何でこんなことしているのかね…わたしには分からないな」
「…一体」青年兵が、声を上げた。
「何なんだよっ…。何なんだ、君は!? 何故、こんなところに来て、こんな状況で、ずっと平気でいられるんだ!」
「そうだな」ようやく年相応の話方をした青年に、マルヴィナは素直に答えた。
「これより辛い絶望は既に体験したから。…だから、どうってことはない——それだけかな」
 元から理由など何も想像していなかったが、この答えはあまりにも想像から外れていた。
答えに窮するが——最早自分には関係のないことだった。終わりだ。自分は負けた。情けなどかけてくれるな。
「…抜け出したいんだろ。ここを」
 完全に彼が諦める前に、マルヴィナは確認するように言った。
「…何もその好機を、無理矢理作らなくたってもいいじゃないか。
訪れた好機に乗って見るのだって一つの手だ。たまにはさ——この意味分かるよね?」
 青年兵がゆっくりと顔を上げる。今度は、呆れたような、驚いたような眼で、黙っていた。
「結界が解ければ、あとは自由。どさくさに紛れて逃げてしまえばいい。…ほら。一緒のことだろ?」
「そう考えるほど、簡単なことじゃない」きっぱりと、どこか吐き捨てるように言った。
「奴らにはわかるんだ。誰が抜けだしたか…そいつがどこにいるのか…簡単に抜け出せるのなら、
とっくに逃げ出しているさ」                      ・・・・
 マルヴィナは黙った。少し考えて——あぁ、と納得した。思い出した、その仕組みに。
「それなら」マルヴィナは髪を耳にかけ、どこか小悪魔的に笑って見せた。「交換条件だ」
「な」何のことかわからなくて、問い返した。
「わたしがあなたが無事にここを抜け出せる方法を提供する。その代わりに、この結界を解いてほしい。
わたしじゃこの仕掛けは解けないからね」
「そんなこと、できるはずが」言いながら、その表情は期待と希望を表している。本当に分かりやすいなぁ、と
マルヴィナはそっと思った。
「…頑固だね。じゃ、質問を変える。味方になるか、ならないか」
「………あまり変わっていないじゃないか」
「あなたがうじうじ考えているからだろ。——あぁもう、煮え切らない人だな…っ」
 そろそろ時間が勿体ない。マルヴィナは先ほど放り投げた短刀を握りなおすと、「失礼」青年の背後にまわり、
首の後ろを軽く突いた。
「かはっ!?」
 バランスを崩した隙にマルヴィナは彼の耳のピアスを少々手荒に取った。
本当に軽く突いた程度なので、目の前が少々チカッとした程度だった青年の前で
マルヴィナはそのピアスを固定、柄を思い切り叩きつけて粉々にしてしまった。
「…悪かったな。けれどこれで、提供終了だ。…こいつが、どこへ行っても帝国には居場所が分かった理由だ。
…『発信機』ってやつさ」
「…は?」
 やはり知らないか、とマルヴィナは肩をすくめた。しかし、説明している時間はもうない。
マルヴィナは幾分か厳しい目を彼に向けた。
「いつまで悩んでいる。間違った帝国に従うのは嫌なんだろう。ならば決断しろ。
自分で機会が作れないのなら、最初だけは訪れた機会を利用すればいい。
決断すらできぬものは、いつまでも自分で好機をつくることなどできない」
 一体彼女は何歳なのだろう。今は関係ない考えが頭をよぎる。
彼女は一体何者なのだ。その歳で、帝国から恐れられる剣士。
けれど、彼女が強いのは、剣の腕だけではない。その眸が、その心が、計り知れぬほど強い。

 …賭けても良いだろうか。
彼女の、その強さに。



「答えを聞こうか。あなたの」
 もう一度、マルヴィナが言った。

「…クレスだ」

 ようやく、彼は答えを出した。
「俺の名は——クレス」
 少しだけ驚いた彼女の前で——彼はようやく、答えを出した。
 その結界装置に、手をかけて。

Re:   ドラゴンクエストⅨ __永遠の記憶を、空に捧ぐ。 ( No.710 )
日時: 2012/12/22 14:01
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

「なぁるほどね」
 兵士を一掃、難なく牢獄前に着いたキルガ、セリアス、マイレナ。
そこまでの道のりから今にかけて、何故二人しか来なかったのかをマイレナに説明した。
 マイレナはシェナのことを知っていた。『賢者』の知識として——『真の賢者』たる彼女の存在を。
「…となると。ウチと同じ、ってことだね」
「同じ?」セリアスは思わず聞き返した。
「ん。——ウチもさ。従っちゃったこと、あるんだよね。奴らに」
 ルィシアから聞いていた。かつて、“賢人猊下”は帝国に従ったことがあると。
そして帝国は自分を——“賢人猊下”の人質にしたということも。
「…シェナも」キルガが呟く。「里の人たちを、人質とされたんだろうか」
根拠はなかったが、おそらくそれで間違いないだろう。セリアスが拳を固める。
「…でも、結局来れなかったってことは、やっぱり厳しかったのかね」
「来る」そのままセリアスは、鋭く言った。
「シェナは来ます。…自分で、決意したんだ」
 その答えに、マイレナは少しだけ眉を持ち上げた。視線を前に戻す。
「…そんなことがあったって言うのに、なかなかの信頼だね。ある意味で尊敬するよ」
「起こったことなど関係ない」キルガも、口を開いた。「過去で彼女を評価したくない。…それだけです」
「あー、皮肉ったわけじゃないのよ」マイレナは苦笑気味に補足をいれた。
「…あんたらは無駄に友情ごっこしてるわけじゃないみたいだし。それを尊敬したってこと」
 伝説に尊敬され、二人は曖昧な嬉しさを覚えて礼を言った。
…結界は未だ解かれていない。手こずってるなぁ、とマイレナはうずうずした。
「…装置が三百年前のままなら、そう難しくもないはずなんだけど」
「てか、強行突破しないんすか? そっちの方が早そうだけど」
「言うは易く行うは難しって言葉知ってる? ——なんならやってみ」
 意地悪にもそう言い、まぁまさかやらないだろうと視線を転じて

「ほぎゃ—————」

 その妙な叫び(がいきなりぷっつり切れた)声を聞いて視線を元に戻す。
 そこには口をかっぱあと開け、白目で仰向けにひっくり返っているセリアスがいた。
「おい」とキルガ。
「本当にやったんかい!!」とマイレナ。
もちろんセリアスはマルヴィナと違いガナンの紋章を持っていないので、
普通に結界のびりりを喰らったわけである。
「…どうします?」
「起こす。おまかせあれ」
 マイレナが指をさし、とある呪文を唱えようとしたとき——
何ともタイミングよく、セリアスを撃沈させた結界が姿を消した。ようやく解かれたわけである。
「「——あ」」
 二人は同時に呟き——




「おっしゃ入れる!」
「先にどうにかしてください!!」




 セリアスのことを忘れて入ろうとしたマイレナを必死にキルガが止めたのだった。









          漆千音))短っ

Re:   ドラゴンクエストⅨ __永遠の記憶を、空に捧ぐ。 ( No.711 )
日時: 2012/12/22 13:59
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

  ザメハ
 覚目呪文というらしい魔法で強制的に起こされたセリアスは(この呪文はセリアス起こしに使えるな、と
さりげなく考え込むキルガであった)、呆れ顔のキルガと共に牢獄内へ走って行ってしまったマイレナを追った。
血と、死の臭い。けれど、今は混乱したように意味のない動きを繰り返す兵士たちと
希望に満ちた表情の薄汚れた服装の人間たち大勢が目に入る。
「これは…どういう状況だ?」セリアスが呟き、キルガが目を細める。
「チェス、一体これどういう状況?」
 そして、久々に実体で再会した二人の伝説は、それに感動——するわけでもなく
現状況についての話し合い。まったくここまでさばさばしていると却って清々しい。
「やースンマセン。最後の最後で予想外が起きやした」
「作戦ミスか…現実ってやっぱ厳しーねぇ。…あ、マルヴィナだ」
 まいっか、と言おうとして、先にマイレナは“子孫”に気付いた。チェルスの向こうを見る。
その名に反応したキルガとセリアスが、ようやく表情を緩めた。走ってきている。無事だ!
それに安堵しかけ——はっと、後ろを追っている兵士の存在に気付く。
「時間かかったなぁ…で、誰あの男? 人質?」
「イヤどう考えてもマルヴィナを狙っているだろっ」チェルスに、セリアスが間髪をいれずツッコんだ。
マルヴィナの様子からして、彼女は後ろに兵士がいることに気付いていない。
マルヴィナ、後ろ——走りながら叫ぼうととびだしたキルガより早く、大きな声が飛んできた。
「マルヴィナっ! 兵士だっ! 危っぶねぇぞぉぉぉぉ!!」
 マルヴィナはきょとんとする。後ろを振り返り——理解。              クレス
兵士、即ちクレスもまた、状況理解のために固まった。あーそれ誤解…と言う前にアギロが兵士に体当たりすべく
身体をひねり突進。が、相手はチェルスの攻撃を二度にわたって躱したうえ、マルヴィナの剣技がなかなか
通用しなかったほど身躱し術に長けた青年、難なく避けた——が、もともといた位置が悪い。
クレスが避けたとなると、アギロの前に立つのはマルヴィナと言うことになる。
互いに慌てたが時すでに遅し、綺麗に吹っ飛ばしてしまったマルヴィナを、


 …がしっ、


 と、走り込んでいたキルガが咄嗟に抱き止めた。

 が、何分突然の話。
状況を再び理解するのに数秒を有し——…。

「ひゃわわぁわっ!!?」クレスが頭を下げ、アギロが手を合わせ、セリアスが石化、
マイレナがくつくつくつくつと笑い始め、チェルスがそんなマイレナに半眼を送っていた頃にマルヴィナは、
ようやくその状況を理解した。
慌ててキルガから離れ、「ごっごごご、ごめふっ!!」と何故そこを噛む、と言われそうな場所を噛み、
マルヴィナは真っ赤な顔で謝った。が、キルガもキルガで、
「あ、いやそうじゃなく! なっ何分急で! えっと、」
 傍から見て若干哀れになるほど慌てていた。
(…あれ? マルヴィナ)
 ようやく石化が溶けたセリアス、そんなマルヴィナの様子を見てにやりと含み笑いをする。
(ほほ〜う。…春)
 若干台詞がオヤジくさかったかもしれない。
「あっ、そ、そうだアギロ、違うんだ。この人、クレスっていうんだけど、味方だから!」
 未だ心臓がすごい速さで動いている。どうしたんだ、自分。
ただ驚いただけじゃない。緊張? 何故? 違う、緊張でもない。じゃあ、今のは——。
「んあ? 敵じゃねぇのか? …一体どーいう?」
「平たく言えば、クレスが結界を解いてくれたんだ! とととにかく、これで準備完了だし、
そろそろ——あれ? シェナは?」
 ようやく周りを見渡せるほど落ち着いたマルヴィナが、はっとして言った。セリアスの表情が曇った。
「…そのことなんだが」
 だが、それだけ言って、マルヴィナに、
シェナを何も知らないまま信じる彼女に言える言葉が見つからなかった。
どういえばいいだろう。彼女が、実は敵の一員になっていたことを。
自分たちはそれの過去を認めた。だが、マルヴィナは、どう反応するだろう——そう思って。
「…来なかったものは仕方ない」だが先に、チェルスがその空気を打ち払った。
「そろそろ奴もこの騒ぎに気付いているだろう。ここに出てくる前に攻めに行く必要がある。話はあとだ」
「……」異議を申し立てることはできなかった。キルガもセリアスも不承不承頷き、黙った。
「…じゃあここからは、三手だ。将軍“強力の覇者”の元へ行く者、奴の周りにいる兵士を一掃する者、
ここで待機、監視する者——悪いが将軍の所にはあんたたち三人に言ってもらいたい。
わたしはここに残る必要がある。だからかわりに回復役として、マイ、あんたが———」







「———私に行かせてください」

















 ——待っていた。
 その声を、その言葉を、
 その眸を。


 解かれた結界の外に立っていたのは、強い決意に瞳を閃かせ、
堂々と、しっかりと唇を引き締めた——シェナだった。

Re:   ドラゴンクエストⅨ __永遠の記憶を、空に捧ぐ。 ( No.712 )
日時: 2012/12/22 15:20
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

 シェナ、と。
 三人の声が、重なった。
 頷く彼女は、熱で溶かされたからこそ打たれて強くなれた鉄そのもの。
その意思が、心が、強くなっていた。

「ごめん。勝手に、ふさぎ込んで。…もう、大丈夫。だって」
 戦ってくれるのでしょう? 一緒に——恥ずかしくて言えなかった。けれど、伝わる。
キルガが、セリアスが、強く頷いた。マルヴィナがシェナの前まで走ってきた。手を握る。笑う。
シェナは変わらない彼女を見て、強く、けれど少しだけ哀しく——笑った。
「…シェナ。ようやく、来てくれた——…」        ・・・・・・・・・
 マルヴィナが呟いたその言葉に、シェナは違和感を覚えた。ようやく来てくれた?
だが、それに首を傾げる間はない。シェナは手を握り返し、静かに言った。
「…マルヴィナ。聞いてほしいことがあるの。…あいつの——“強力の覇者”のところで」
 マルヴィナの表情は変わらなかった。疑問に目を見開くことも、深刻な様子を訝しむこともせず、ただ頷いた。
「分かった」





「あの子。話すつもりらしいね」
 マイレナが呟いた。そして、当然返ってくるだろうチェルスの反応が——なかったことを訝しみ、
視線を転じる…そこにいたチェルスは、驚愕に目を見開いていた。
「…チェス?」
 目の前で手を振って、ようやくチェルスはマイレナの声に気付いた。
「うわ」
「…何? どーかした?」
 チェルスは答えに窮した。
「……」少し黙って、答える。「…思い出したくないことを思い出した」
「忘れな」マイレナは言った。「終わったことだよ。やな思い出をいつまでも覚えてる必要はない」
「それ、何回目だっけな」チェルスは自嘲気味に笑った。
 マルヴィナの声が聞こえる。
次に頷いたとき、チェルスの表情は、いつも通りに戻っていた。





「——嫌な風だ」
 本拠地の、城の頂上で。
 三人目の将軍が、まだ年若き剣士が、呟いていた。
虎の如く鋭い眸。鎧と、剣のみしか携えていない。
(…来るのか。あの女が)    ブルーオーシャン
 覚えている。同じ剣士。闇髪に、蒼海の眸を閃かせ、
互いに数え切れぬほどの傷を負いながら剣を交えた一人の女傑。
待っていた。再び戦う日を。着かなかった決着を、着けるために。
そう、戦う。そして、勝つ。
自分のために。そして、己が守るべき主のために。





「…妙な予感がしますね」
 同じころ、将軍“毒牙の妖術師”ゲルニックが呟いた。
「いつまで“賢人猊下”を追っているのやら——そろそろ復活したはずでしょう」
 使えぬ猫たちめ——捕らえるべき者、獲物と言う意味で、天使たちや二人の伝説を『鼠』、
それを狩る者として、帝国の兵士を『猫』と呼ぶゲルニックは、嘆息しながら毒づいた。この男の称号は
ある意味ここからきているのかもしれない。いつまで待たせる気なのか。苛立たしげに考えていると、
猫が一匹、戻ってきた。
「しょ、将軍! ごほ、ご報告、申しあげます!」
 その言葉に、既に不機嫌さを出しながら、妖術師は耳を傾ける。
「か、カデスの牢獄にて、反乱がおこった模様——結界は解かれ、“賢人猊下”も——だ、脱走——」
 言葉がだんだんと、小さくなってゆく。将軍と呼ばれる男の、痛いほどの殺気に圧倒されて。
「…やってくれましたね。“天性の剣姫”…!!」
 やはり、殺しておくべきだった。まさかここまでやるとは。
めりめりと、触れた杖が音を立てる。
「…仕方ありませんね」
 口調からはとても想像できぬほど凶悪な表情と声で、妖術師は言った。
「次にあいまみえたときは——このわたくしが、直々にその息の根を止めてみせるとしましょうか——!!」
 その指先から、杖が音を立てて、二つに砕け折れた——…。






「——とりあえず、作戦立て直しだ」      メダパニーマ
 チェルスが周りの状況を確認。少し眉をひそめ混乱呪文改をかけなおして言った。
「アギロ、将軍の周りにいる兵士を一掃するのに行ってほしい。それから、——クレス」
 指を鳴らしながら、チェルスは半眼で、ちょっぴり危険に笑って見せた。
「マルヴィナが信用してんだ。——裏切ったら、ひどいぜ?」
 クレスは少し嗤った。「承知した」あの口調に戻って、答えた。
「ここの兵士を監視、及び待機するのはわたしとマイレナ」
 マイレナがりょうかーい、と気の抜けた声で言った。
「…そして、親玉を斃すのが」
 少々格好つけた物言いで、チェルスはにやりと笑った。


「“聖邪の司者”シェナ、回復及び補助、余裕があれば攻撃に転じよ」
 シェナが答える。

「“豪傑の正義”セリアス、終始攻撃に集中」
 セリアスが拳を握る。

「“静寂の守手”キルガ、守備重視、状況に応じて攻撃」
 キルガが頷く。

「そして——“天性の剣姫”マルヴィナ、攻撃及び回復——以上四人」
 マルヴィナが笑う。


 異議は? ——聞かれて、誰も答えない。
チェルスはいつもの、あの余裕の笑みを浮かべる——






「——作戦…開始っ!!」

 チェルスの号令のもと、八人の戦士は走りだした。