二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ __永遠の記憶を、空に捧ぐ。 ( No.713 )
日時: 2012/12/22 23:02
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

              5.



         レンジャー
「——ふぅ。やっぱ然闘士の方が安心するかな」 ・・
 『職』が戻り、武具を纏いながら、マルヴィナはあの変態魔法戦士が聞いたら
即刻突っ伏して嘆きそうな言葉をさらりと言った。
「…奴は頭は悪いけれど、力は半端なモノじゃないわ。…気を付けて」
「分かった」
 頷く。集中する。
何でそんなことを知っているんだ? …そう、マルヴィナから聞かれるだろうと想像していたシェナは、
何の答えも返ってこないことをもう一度、妙に思った。
もしかして、彼女は知っているのか? 自分の——シェナの、本性を。





「なーチェス。あのクレスってやつ、人間だよね」
 マイレナが傷ついた人々に一人ずつ癒しの呪文を唱えながら言った。
「あぁ。…間違いないな。帝国、まだあの実験続けてんだ」
「人体実験——」呟く。「人間を魔物に変えるってやつだよね? …あーやだやだ。そんなに魔物が好きか」
「…そういう問題じゃないような」
 チェルスが呆れて呟いたとき、彼女たちがここに残った最大の理由になる者たちが、ようやく来た。
『チェス、マイ! やっとわかったぞ!』
『…良いとも悪いとも言える情報よ。心して聞いて』
 マラミアと、アイリスである。おっしゃようやく来たかと、チェルスは手をひらひらさせた。
「ちょ、ウチになんかかける言葉とかないの?」
 マイレナは、復活後初めて会う二人に身を乗り出して尋ねるが、
『アンタは復活しようがしまいが同じだろ』
 ちょいとそれどういう意味っすかすごくすごーく馬鹿にされた気がするんスけどどーゆー意味ですかーーという
マイレナの早口抗議は対応するのが面倒なので無視。
「で? いいとも悪いともいえないってのは?」チェルスが促し、アイリスが彼女にしては珍しく言いよどんだ。
それを見て、相当妙な話らしいと判断したチェルスは、幾分か姿勢を正した。
膨れるマイレナと、頬をかくマラミアの前で。アイリスは、言った。
『帝国の周りに張られた、結界についてよ』





 ばん、と。
 扉を開け、四人は突入した。
 早くも剣に手をかけ集中するマルヴィナ、警戒心を研ぎ澄まし続けるキルガ、
何が来ても戦闘に入れる体勢のセリアス、祈るように拳を胸に当てるシェナ。
「ネズミどもが」
 複数の兵士と共に、“強力の覇者”はいた。何ともご挨拶である。
「ネズミじゃない。わたしらは、——天使だ」
 早々のとどめの一言。
「天使…だとぉ!?」
 いきなり目つきが変わった。この男が探し求めていた存在。この反応は当然だった。
「そして、わたしの名はマルヴィナ。“天性の剣姫”マルヴィナだ!」
 堂々と、はっきりと。叫んだその名を聞いた兵士たちがたじろいだ。
この娘が…! あの、脅威の…? じゃあまさか、その周りの者は。
どよめきの起こる中、セリアスの背に隠れ気味だったシェナがゆっくりと、恐れるような足取りで進み出た。
ゴレオンの忌々しげな表情が、更なる驚愕に変化した。
咄嗟に二の句の告げられぬ将軍の前で、シェナは口を開く。
「…久しぶりね。“強力の覇者”戦士ゴレオン」
「なっ…んだ、とっ…!? さ、さ…さっ……」
 驚いて、キルガとセリアスがシェナを見た。マルヴィナも、視線を転じる。
「…ずっと隠していてごめんなさい。でも、これで本当に全部よ」
 シェナは心なしか震える声で、言った。


「私は三百年前、里の民の無事を条件に帝国に手を貸した者。三将軍の司令塔——
“才気煥発”シェラスティーナ・ヴィナウ」


 冷たい空気が、あたりを支配した。
「条件などいまさら言ったって、言い訳としか捉えられないことは分かっている。
だから、これはあくまで独り言で、ただの弁解——私は帝国が嫌い。強く憎んでいる。だから、歯向かう」
 強がるように彼女は言った。けれど、隠せない。腕が、足が、ひどく震えている。
あぁ、言ってしまった。…どうして今、こんなことを言ったの?
言うのは、戦いが終わった後でもよかったじゃないか。どうして、戦う前に、こんなことを——…。
「…ごめん。みんな——」
 呟いたとき、肩を叩かれた。びくりとして、勢いよく振り返る。マルヴィナだった。
「…関係ない話だよ。過ぎたものなんて」
 まったくの予想外の言葉に、シェナは目を見開いた。
 それは、認めた言葉。キルガと、セリアスと同じ答え。しかも彼女は、悩むこともなく、
さらりとそう言った。
 彼らは過去で判断しない。自分たちが共にあった時間を信じて。
 ——本当に、今更だった。
 彼らは仲間だ。何もかもを認めたうえで——自分を、『シェナ』として見てくれる。
自分は今まで、そんなことに気付かなかった。

「今は戦う。それだけ——だろ?   ・・・・・  ・・・
                 “聖邪の司者”、シェナ」

 マルヴィナに続いて、セリアスが声をかける。
「そうそう。今やることだけに、集中すればいい」
 キルガもまた。
「いつもの通り——任せていいな? シェナ」

 励ましじゃない。確認じゃない。これは、『言葉』。当たり前の、ごく普通の会話と同じ重みの、文章。
傍から見れば、綺麗事だと思われるかもしれない。けれど、そう思われても構わない。
シェナはゆっくりと、視線を前に戻した。
そして、三人の『言葉』の、答えを出す——


 頷いた。しっかりと、はっきりと。









                漆千音))ここで止めるとゴレオン空気化したように見える←

Re:   ドラゴンクエストⅨ __永遠の記憶を、空に捧ぐ。 ( No.714 )
日時: 2012/12/27 20:10
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

「なかなかの戯言だった」
 いきなりゴレオンのだみ声が邪魔をした。…こちらから来たのだから文句は言えないのだが、
ともかく四人は再び構えなおした。
兵士が動く。だが、ゴレオンがひと睨みすると、慌てたように引き下がった。
「第一貴様ら、どうやって結界を解いた? まさか、裏切者でもおったのか」
 マルヴィナは少々考え——クレスの存在を隠すべきかと思ったが、そういえば彼はあとから来る。
隠しても無駄だと考え直し、答えた。
「解いたのはわたしじゃないが、解こうとしたのはわたしだ。…見てみな」
 言うなりマルヴィナは、再びガナンの紋章を取り出した。
「助かったよ。これを奪われなかったのは幸い」
「貴様いつそれを!?」                               ・・
 遮られた。最後まで人の話聞けよと呆れかけたマルヴィナは、ふと疑問の言葉をなぞる。いつ?
 何故、ではない、いつ、と聞かれた——その意味は——…。
「それは俺のものではないか!」
「…え? 何これ、あんたのだったの!?」
「えーとマルヴィナ? 自分で出しておきながら問い返すって…」
「イヤこれ貰い物」
「貰った、だと…?」再び、ゴレオン。が、考えることは早々に諦めたらしい。
まぁよい、下らん反乱を捻り潰してから調べてやると言い、兵士に攻撃を命じる。
「う———っス!! じゃぁぁぁますんぜぇぇぇぇぇっ!!」
 が、それとほぼ同時に、ようやくアギロが突入してきた。一体何やっていたんだろう、と思ったが
今は関係のない話だと、早々に考えるのを打ち切った。
突然現れた囚人のまとめ役の大男に兵士は少なからず驚く。
加えて、その後ろからやってきた赤鎧のクレスからの不意打ち。さらに面食らう。
「き、貴様っ」叫んだ声には聞き覚えがある。昨日クレスに刃を向けていた者だ。
クレスは表情を変えず一瞥、別の兵士の攻撃をかわし、アギロがその兵士の腹に一撃を入れる。
「貴様が裏切者か」
 ゴレオンがゆっくりと立ち上がる。じゃら、と危険な音をたてて、鉄球を持ち上げる。
「揃いも揃って舐めたもんだな。よかろう、この俺様の力、思い知るが良い! ——はァァッ!!」
 自信ありげに叫んだかと思いきや、いきなりその鉄球を振り回してきた。
「っ!」
 鉄球は四人だけでなく、近くにいた兵士たちにも襲い掛かった。
集中していた四人でさえ辛うじてかわしたのだから、別の場所に気をとられていた兵士が
咄嗟に避けられるはずもない。その兜を吹っ飛ばし、数人は昏倒した。
「なっ」マルヴィナははっとそちらを見た。幸い、皆気絶しただけであったが、一歩間違えれば
そのまま死んでしまっていたかもしれない。
「味方もろとも攻撃するなんて…っ」
 マルヴィナがゴレオンを睨み、半歩下がった。
「「スクルト!」」キルガとシェナがほぼ同時に守備の呪文を唱える。と、ゴレオンが頭上で鉄球を振り回した。
「どんだけ力あんだよっ」セリアスが驚愕の声を上げたとき、回っていた鉄球が自分たちに襲い掛かってくる。
速い。マルヴィナはシェナを庇うようにかわした。セリアスが大きく二歩分下がってかわすと、
足が地面に着く間もなしにタッと前へ飛び込んだ。振り回しきった、その一瞬の隙を狙って——

「!?」

 無かった。
その隙は、無かった。

「うらァっ」
 振り回しきった後、休む間もなく、逆方向に再び振り回す。
隙を突いたつもりが、逆に突かれてしまったセリアスは、
避ける体勢をつくろうとしたところで重い一撃を喰らった。
「ぐ、がっ!!」
「セリアス!」
 兜が割れ、破片を散らばらせる。吹っ飛ばされたセリアスは三人の目の前に倒れ込んだ。
咄嗟に避けようとしただけでも幸いだったかもしれない。まともに喰らっていたら、
それこそ首の骨が折れるなどの重傷だったかもしれない。    ベホイム
そんなことを頭の端で考えながらマルヴィナは、呻くセリアスに再生呪文を送るべく集中した——


「危ないッ!!」
「——え」

 その後、マルヴィナは叫んだ——気がする。
気付いた時に見えたのは、すぐ目の前まで迫った鉄球の陰。





 ——と、咄嗟に飛び込んだ、キルガの背だった。