二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ __永遠の記憶を、空に捧ぐ。 ( No.732 )
日時: 2013/01/02 13:50
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

 天の箱舟にはアギロとサンディが残った。
サンディはマルヴィナについていきたいと猛烈にアギロに抗議したのだが、運転の仕方が違うだの雑だの
なんだのかんだのアギロに言われ、再び一から教え込まれる羽目にあっている。
マイレナはと言うと、来たはいいがウチはどーすれば? と言う尤もな質問を投げかけてきたが、
その旺盛な好奇心からついてくることになった。チェルスを除く天使三人が世界樹に祈りを済ませると、
彼らは階段を下り“癒しの泉”へと進んだ。
懐かしい。故郷の感覚。踏みしめる地。泉の周りに天使たちを寝かせる。と、中央から光が生まれ、
傷ついた天使たちに殺到した。少々ではあるが回復した天使たちが、うっすらと目を開け、起き上がる。
師匠の、天使たちの名を呼び、三人はそっと座り込む。
セリアスの師テリガンがセリアスの姿を認め、思わず目をこすった。
見違えるほどに立派になっている彼の肩をまだうまく開かない手で支えた。
キルガの師ローシャはまだ目を覚まさなかった。キルガは心配げに顔を曇らせたが、
ローシャが少々呻いているところを見ると大事無いらしい。キルガはそのまま待った。
まだ混乱中の天使たちに、事情を説明せねばならない。そこで二手に分かれることにした。
キルガとセリアスは師匠の身を案じ、この場に残る。もう一方は長老に報告をすると言うと、
シェナとマイレナはだったらこの場に残ると言った。
よって、泉に残るのはキルガ、セリアス、シェナ、マイレナ。
長老オムイの元へ行くのはマルヴィナとチェルスだった。



「…変わらないんだな。天使界ってのは」
 チェルスがぽつり呟いた。
「そうなの?」マルヴィナが問い返す。「そう言えば…チェルスって、いつの天使?」
「……………………」チェルスは黙った。「多分知り合いはいないだろうな」答える。
「…長老オムイ様、分かる?」
「いや。記憶にはない」
「相当昔なんだ…じゃあさ、階級は何だったの? 守護天使? …見習い?」
「…」一瞬、間があった。「上級天使だ。これでも上位だったんだぜ?」
「そりゃ失礼——」言って、いきなりドン引いた。
「っっっじゃあわたし、こんな気軽に話しちゃいけないじゃないかっ!!」
 チェルスはその反応に、苦笑を返した。
「よーやく気付いたか、って言ってやってもいいんだが。生憎そーゆー上下関係嫌いでね。
それにどーせわたしを知っている奴なんていないからバレやしない。てことでそのままでいな」
「…はぁ。……それなら」マルヴィナは恐縮した。
しばらく黙りこんで、マルヴィナは横目でチェルスを盗み見た。いつもの余裕の笑みはなく、
見慣れぬ緊張感漂う表情を続けている。…天使界から落ちた天使。…でも、なんか違う。
…上級天使だ。言葉の前の間は、一体何だったのだろう。気付いていた。チェルスは何かを隠している。
「…ここから落ちたって言っていたよね」聞いてはいけないような気がしながら、マルヴィナは聞いてしまった。
「どういう事? 事故だったの? …それとも、」
 …本当は、落ちたんじゃないんじゃないの? そう——いうなれば——

 突き落された、とか。

 ——何でいきなり、そんな考えが出てきたのだろう。マルヴィナはぞっとした。…これは記憶?
“記憶の子孫”の影響なのか。この考えが出てきたのは——…。
「マルヴィナ! 帰ってきたんだ!」
 はっと顔を上げた。上級天使だ。あまり話したことのない女天使。マルヴィナは慌てて笑顔を浮かべ、答えた。
「おかえり。オムイ様、待っていらっしゃるよ」
「はい、分かりました」マルヴィナは頷いて頭を下げ、横を過ぎた。
「…で、チェ——」質問の続きをしようとして、言うのをやめた。チェルスは先程より、深刻な表情をしていた。
「…わるいが、勘弁してくれないか」
「…あ…ご、ごめん」
 返事はなかった。
マルヴィナの姿を確認した天使たちは、口々に声をかけてくれた。が、最終的に皆、マルヴィナの横で
飄々と歩くチェルスに威圧され、語尾が怪しかった。
マルヴィナは少しだけ肩をすくめてチェルスをもう一度盗み見た。…やはり表情がわずかながら、強張っている。
何を考えているのかは、分からなかったけれど。