二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ_永遠の記憶を、空に捧ぐ。【移転開始】 ( No.736 )
日時: 2013/01/19 21:22
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel7/index.cgi?mode=view&no=24342

 ——どれくらい帰ってこなかったのだろう。
天使界に住んでいた時間より、ここにいなかった時間は、ずっとずっと短い。
けれどなんだろう、この懐かしさは。

 …その短い期間に、あまりにもいろんなことがありすぎた。
その短い期間に、あまりにも天使界は変わりすぎてしまった。

 だからだろうか。長老オムイの前に立ちながら、マルヴィナはそっとそう思って敬礼をした。
 オムイはゆっくりと頷いて、まず初めに言った——「おかえり」と。
キルガたちが今共にいない理由を告げてから、マルヴィナは思わずオムイを見つめてしまった。
「どうかしたかね」
「…いえ、申し訳ありません」
「素直に言えばよい」
 オムイがもう一度頷いたのを見て、マルヴィナは失礼とは存じますが、と初めに言ってから、
言葉通り素直に感じたことを言った。
「少し…痩せられました?」
 痩せた、と言うよりは、やつれた、と言うべきか。好々爺らしい安心感をもたらしてくれたあの姿は、
少々見ていて心配になりそうなほど小さくなっていた。
「優しい娘じゃな」オムイは笑った。「自身ですらようやく気付いた…その通りじゃ」
「………………」辛い思いをしていたのは自分たちだけではなかったのだ。
今更ながらに気付いた自分が情けない。自分は優しくなんかない。こんなことを考えてすらいなかったのだから。
…それに、今から話すことは。
報告することは、更に彼を、否、天使界の住民皆を、悲しみに落とすかもしれない。
そう思うと、心苦しい。こんな時に、仲間たちにすぐそばにいてほしかった。けれど——
「所で——少々遅くなりましたが、貴女さまは?」
 オムイの目が、長老の前だと言うのに腕組みをしながら別方向を向いていたチェルスに転じる。
チェルスはぱっと気が付き、少々迷ってから、一つ敬礼をした。——天使界のものに似た、
けれど少しだけ異なった敬礼だった——オムイの目がわずかに開いた。
「遥か古代の天空の民。本名は事情があって控えさせていただきたい。敢えて呼ぶなら、チェルス、と」
「…………」オムイはしばらく黙っていた。
マルヴィナを含めた、そこにいる天使たちがオムイの様子に首を傾げる思いだった。
「…そうですか。貴女が——」オムイは誰に聞かせるわけでもない声量で言い、その場で頭を下げた。
「高い位置から申し訳ない。我々は貴女を歓迎いたしますぞ」
「……」今度はチェルスの目がわずかながらに開く。
互いに驚いていた——その間に、何の思いがあるのかは、皆にはわからない。
「…痛み入ります」チェルスはマルヴィナが聞く限りでは初めて敬語を使い、下がった。
報告を、とマルヴィナに言いながら。


 マルヴィナは話した。七つの果実。そして、ガナン帝国のこと——
魔帝国の名を聞いたとき、天使たちは顔をしかめた。
初めて襲われたとき。四つ目の果実を入手した後だ。カルバドと、エルシオン学院、そしてドミールにて
マルヴィナに接触した恐らく下っ端の兵士、恐るべき剣士ルィシア。先にガナン帝国のことから話し始めた。
三将軍のうち、一人目を斃したことも。
…そして。七つ果実を集めておきながら戻ってこなかった理由、
まだ旅を続けていた理由を、ついに言葉にする——



 ——師イザヤールに裏切られた、あの時の話を。



 ——が。その言葉に驚愕の波が広がることを想像していたマルヴィナは、訝しげに顔を上げた。
皆、困惑したような表情なのだ。イザヤールにではない。その対象は、マルヴィナに。
報告が終わったと認識したオムイは、まず一人、近衛天使をさがらせた。
そして、マルヴィナの名を呼ぶ。落ち着いて聞きなさい。そう言って。
「…天の箱舟で襲われ、果実を全て奪われた——間違いないな?」
「……はい」
 きっとあれは、誰にだってわからない悲しみだろう。初めて、絶望する、という言葉の意味が分かった。
「…そうか」
 杖を両手で持ち、ゆっくりと立ち上がる。近衛天使が支えた。
「…だがな」
 オムイはマルヴィナに、振り返るように無言で指示を出した。マルヴィナは言われた通り、振り返る——

 声を失った。
 戻ってきた近衛天使の手にある、七つの輝き——紛れもない、女神の果実に。

 チェルスでさえ、驚いていた。初めて見る、果実の姿に。
だが——その眼には、驚愕以外の何かも、含んでいた。
「…女神の果実は、全てこのように戻ってきておるのじゃ。——そして」
 動けないマルヴィナの背中を見ながら。オムイは、言った——

「これらを届けたのは、他でもない——イザヤールなのだ」













               漆千音))(映像)へのルーラがあまりにも時間がかかりそうなので
                   終わるまでこっちでもちょいちょい更新続けまする