二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 爆想サザエさん ( No.216 )
日時: 2011/04/17 21:54
名前: ACT ◆ixwmAarxJ2 (ID: 91b.B1tZ)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.cgi?mode

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「もー無理だぞ、磯野ォ。待てねえ。家売り払ってもらうぞ」
「そ、それだけはご勘弁を!!」

 俊敏な動きで波平は土下座をした。何度も何度も頭をコンクリートの床に叩きつけた。
 そんな波平を見た金井は、凍りそうなほど冷たい目で睨みつけた。

「お前のよぉギャンブルで貯めた借金やろ?自業自得やないか。お前も大人や、そのくらいの事はその小さい脳味噌でもわかるやろ。そうや、家を差し押さえすろぞ、差し押さえや」

 「大人」という言葉に波平は特に反応した。ここ数年、彼の生活はギャンブルだらけだった。毎日毎日パチンコ、競馬、そして金井達が経営する違法カジノ。大人らしき事は殆どしていなかった。
 カツオ……ワカメ……タラちゃん……サザエ……そしてフネ……、ごめん。
 改めて俺は最低な人間だった。
 バラバラになった磯野家。
 一家の大黒柱として、家だけは守らなければ。
 そんなことを考えていると、金井が立ち上がった。ここを出るらしい。波平は扉近くで金井に回り込み、頭を下げた。

「家だけは!家だけは止めてください!お願いします!何でもしますから!!」
「うるさいんやッ!さっさと退けェ!!」

 ブチッ!
 波平の中で何かが切れた。

「馬ぁ鹿ぁ者!!!!」

 波平は唾を撒き散らしながら怒鳴った。
 まるで昔カツオやサザエを叱ったように。

「誰に向かってそんな口聞いとんじゃ!」

 金井は渾身の力を込め波平を横から蹴った。
 波平がよろける。
 ここから起こることは何万分の1の確率の偶然が一致したからである。
 波平の老い。
 金井の蹴りの位置、強さ。
 そして磯野家の惨劇。
 波平がよろけた先には机があった。
 波平がバランスを崩し転倒する。
 そして、『偶然』にも机の角と波平の後頭部が重なる———。
 いや、偶然でなく、必然だったのかもしれない。
 ゴッ!っと鈍い音が室内に響く。
 波平はゆっくりと床に倒れ込んだ。

「か、金井さん……動きませんよ」

 神谷が戸惑う。金井は波平の後頭部に手をあてがった。脈は無い。

「チッ死んだか。しょうがない、臓器バンクにでも売っとけ。ちょっとは金の足しになる」
「磯野の家はどうしますか?」
「一週間後、差し押さえだ」
「はい!」


 こうして磯野波平は人々の記憶に残る事も無く、生涯を終えた。
 最期、一家の父としての威厳を取り戻したにも関わらず、その勇士が誰にも知られることはなかった。