二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: REBORN!短編小説【コメよろしくお願いします!!】 ( No.49 )
日時: 2010/10/08 17:47
名前: ひろ ◆j6drxNgx9M (ID: floOW.c4)

骸は、声が出なかった。
リビングの床は一面血で覆われていた。
骸はゆっくりとその血の大本おおもとを辿っていく。
辿り着いた先は、父の体だった。
父は血の池の中にうつ伏せに倒れていた。
背中からは赤い突起物が突き出している。
しかし、その突起物は赤く染まってもなお、ギラリと鈍く光り、おのれの存在を主張していた。
「・・・っと、父さんっっ!!!!」
骸は父へ駆け寄る。
足に血が纏わり付いたが、そんなのどうでも良かった。
駆け寄り、父の体を仰向けにする。
腹には、やはり何かか深々と突き刺さっていた。
「・・・包丁だ」
骸はポツリと呟く。
それは母がよく使っていた包丁だった。
いつも美味しい料理の為に使われていた物が、時と場合によっては凶器と化す。
骸は自分の神経が逆立った気がした。
父の腹からはまだドロドロと血が流れ出している。
包丁はあのたくましかった肉体を貫き、皮膚を裂いて背中に到達している。
どうやったのかはまだ幼い骸には理解し難かったが、とにかく敵が強い、という事だけはしっかりと理解した。
「・・・」
憧れの父の亡骸なきがらを目の前に、骸はただただ沈黙を守るしかなかった。
———その時。

ズリ・・・ッ

「な」
骸は勢い良く振り返る。
するとそこには———壁にもたれ掛かった母の姿があった。
恐らく立っている時に襲撃されたのだろう。
壁には筆で雑に塗ったように血が付いていた。
しかし驚いたのはそんな事ではない。

母が、動いたのだ。

骸は父を丁寧に寝かせると、母の元へ駆け寄った。
「母さん!!」
母はその声にぴくりと反応すると、ゆっくりと顔を上げ、半開きの瞳で骸を見つめた。
「・・・むく、ろ」
「・・・っ!!」
スッと骸の冷め切った心の中に、暖かな何かが入り込んできた。
きっとそれは、母の声。
骸は思わず抱きつきたくなったが、ぐっと堪え、母に問う。
「母さん、大丈夫ですか!?」
「父さん、父さん、は?」
「・・・あ」
骸は言葉を濁す。
それで理解したのか、母はニッコリと微笑んで骸に言った。
「そうですか・・・。・・・骸、今から母さんの言うことを良く聞いて。いいわね?」
こくり、と頷く。
「母さん達の事は誰にも言わず、忘れて、お前はただひたすら逃げなさい。・・・“奴ら”の目的は“お前”です!必ずお前の前に現れます。・・・さぁ、早くお逃げなさい!」
「でも、母さんも、」
「いいから!母さんの言う事を利いて頂戴っ!!」
母は骸の言葉を遮る。
骸の心の中は葛藤していた。
———父さんと母さんがこんな目に遭ったのは、お前のせいだ。
(・・・僕のせい??)
———そうだ、お前のせいだ。だからお前には母さんの言う事を利く価値も無い!ここで死んだほうがいい。死んで罪を償うといい・・・!
(———死んで、つぐな、う)
———そうだ。お前は生き残る価値も無い。
(でも、)
———死ぬ事は怖くなんかない。
(でも———)

がしっ!と頬を掴まれた。
骸ははっ、と我に返る。
見ると、母の手が、血だらけの母の手が、骸の頬を包み込んでいた。
母は笑う。
にっこりと、この世の全てを浄化するような、満面の笑み。
母の手に付いた血さえもが、温かく、愛おしく感じた。
母の口から一筋の血が、つぅ、と流れる。
それは母の綺麗なあごを伝い、床に落ちた。
いつの間にか、骸は泣いていた。
「か、かあさ、う、くぅ」
ポロポロと骸の頬を転がったと思えば、床に落ちていく骸の涙。
母は静かに言った。
「・・・自分のせい、なんて、思ってはいけませんよ。私達の為に、骸は生きなければならないという義務があるのです。私達の為に・・・さぁ、振り返らず、走って生きなさい。それが母さんの———父さんの願いです」

気付くと、骸は走っていた。
母の腕をすり抜け、涙を流しながら家を出た。
振り返らず、立ち止まらず、ただ、骸は走った。
———母さん、ごめんなさい。
———父さん、ごめんなさい。
ただ、骸は走るしかなかった。


息子の行き先を見届けた母は、ダラリ、とだらしなく腕をほうった。
母は父を見やり、悲しげに笑いながら、もう喋るはずの無い夫に語りかけた。
「・・・何ででしょうね。こんなに痛いのに、こんなに血で染まっているのに、もうすぐ死んでしまうのに、こんなに清々しいんでしょうね」
夫は無言だった。
「———これで、良かったんですよね?」
そよりと入ってきた風が、母の頬を撫で、体温を奪い去っていく。
母は目を閉じた。
「———せめて、あの子が大人に成るまで、一緒に居てあげたかった———」


(カゼハ、カナシソウニホホエンダ)