二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 犬夜叉-刹那主義- ( No.54 )
- 日時: 2011/02/02 02:03
- 名前: 葵 ◆iYEpEVPG4g (ID: 4uYyw8Dk)
それは突然の出来事だった。否、必然の出来事だったのかもしれない。
皆と共に小屋に駆け込んでから数十分。結界を張ってある筈の壁が鋭利な刃物で破られた。
犬夜叉は弱っているのだろう。これ程の音でも目を覚まさない。なずなちゃんも眠っていた様だった。
静かな静寂の中だった。ひとしきり冷たい夜の温度に身震いした。
「良い事を教えてあげる。多分貴方がなあんにも知らないのは、その方が゛different gear world゛にとって都合が良いからよ。意味分かる?差動歯車ってやつ。まあそんなのはどうでも良いんだけど、私自身に目的と存在を貴方に口外しちゃ駄目なんて制約は課せられてない訳だし、別に良いわよね。」
「ひとつだけ聞くけど、君、川で倒れてた子だよね。」
「・・・そうよ。」
「私達は誰かによって能力と目的を与えられ、この世界でそれを全うしなければならない。何故?そんなの誰も答えてはくれない。誰か、とは誰なのか?そんな事すら分からない。
自分がそれをやりたいとかやりたくないとか意思の関係ないの。全部勝手に決められる。」
薄い笑みを浮かべながら少女は、大鎌を片手に揺らしながら優しく声を出す。
夜空に月は無い。光の無い暗闇の筈なのに、金属特有の、鈍い色の輝きが鎌を不気味に見せていた。
予期せぬ予定調和。私の想定だった未来が、大きく変わろうとしている。
突き抜けた寺の白い壁から風が吹き込む。頬に冷たく触れながら、髪が後ろに靡いた。
「私はこの世界に入る時に説明を受けた。生憎姿も見せてくれない連中からだけど。
まず元の世界から入った者は複数人居る。そんなに多くないけど。勿論日暮かごめは物語の人物だから違うわよ。だけど貴方の事だけは綿密に教えてくれた。
目的が対だからでしょうね。
私の目的、それは物語のストーリーを変えること。
進行を抑えても早めても誰かを居なかったことにするとしても、何かを変える。
そして、貴方の目的。
この物語のストーリーを変えないこと。何があっても、自分が介入する事意外に、大まかな話を変えない。かなりアバウトな目的だけれどね。双方とも。
つまり目的が互い違いなのよ。
最後に重要な事。
其処までして目的を果たさねばならない理由が無いわよね。
勿論それだけなら私もとっくに放棄して普通に諦めてる。
目的を果たすと、元の世界に帰れる。それと、何でも一つ。自分の身に起きる事でのみ、何でも叶えられる。言い変れば自分以外の他の人に関わる事は出来ないの。」
目的?元の、世界?当ても無く、ただ突然の出来事に生きていた私に、そんな物が在ったの?
分からない、分からない。
慎重に考える。けれど迷うだけ。答えは何処にも見つからないし、これまで私はどれだけ自由で幸せで何の心配事も無い世界に暮らしてきたんだろうって思うくらいで。
「・・・・・・そうなると、あんたは私にそんな事話すメリットが無いように聞こえるけど。」
「別に?ただの気まぐれ。」
気まぐれかよふざけんなコイツ。ツッコみ要素満載なのだがこんな場面で言うのもいささか危険すぎる。
空気を読みながらサラッと流すのが1番だと考えていると都合が良い。
にしても、この状況。なんとかする方法は無いものか。
「あんた、さっきからワケ分かんない事言ってるけど、何なのよ!」
かごめが言う。いつもより、強い口調だった。
「ねえ、だから、分かるでしょ?」そう言葉を途切れさせた刹那、少女が鋭い視線をかごめに向けた。
巻き起こった突風に何が何だか分からず目を瞑る。土埃の中で、声が微かに聞こえた。
助けなきゃ。それとは裏腹に怖いという気持ちが胸の奥で膨らむ。犬夜叉早く起きてくれよ馬鹿野郎、ふざけた思考回路だと自分でも思ったが、そう思うしか無い。
助けて助けて誰か。足は動かない。ただ恐怖して崩れ落ちた。
神様に願い事をしたのなんてこの方何年ぶりだろうか。それにしても、私にこの状況を打開出来る力が無いのが悔しい。
「馬鹿みたい。守る事すら、闘う事すら出来ないじゃない。」
「……っさいなあ!」
「喋ってる暇あるんだったら、隣に居るヒトの心配でもしてれば。どうせ怖くて立てもしないんでしょ?学校だったら、普通の日常だったら、何の事無しに笑いながら酷い事も出来る癖に。本当、私そういう人間が1番嫌い。」
案外自分の反応は冷静だった事に驚きながら、相手の反応に目を疑う。
試すような口振りだった。少女はすぐさま後ろに引いて煙の中に消えた。
「…気分が萎えた。今度会った時は殺すつもりでやるから。最後に教えといてあげる。あたしの名前は如月まどか。」
耳が可笑しくなる様な爆音だった。
目の前が光に包まれて、一瞬時が止まったかのような時間だった。