二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 犬夜叉-刹那主義- ( No.58 )
日時: 2011/02/20 22:30
名前: 葵 ◆iYEpEVPG4g (ID: 4uYyw8Dk)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.cgi?mode

        
 
15 問い掛け
        
       
      
             
 
「やほー。久しぶり。何年会ってなかったっけ?」
 
「ええ………?どちら様?」
 
「忘れた?。むしろご存じないって?…あー、でも俺結構変わったしな。」
          
       
         
今私の目の前に居る人は何なのだろうか。凄い知り合いみたいに話してくれるんだけど全く覚えがない。何年、と言う事は古い親戚か何かだろうか。いずれにせよニット帽を被ったこんな男は知らない。
畳の上であー空は青いなあ、なんて言っていたら突然来た。誰だこいつという心の叫びの元にとりあえず居間にお通しした。他人様の家ではあるが今は少し不在なので良しとしよう。
        
 
「えーと、上中君?田中君?それとも近所で一緒に野球をした山田君かしらー。」
      
「誰だよ。ほんっと覚え悪いもんな昔から。成長したの背と頭の悪さだけだろ。むしろ尊敬に値するわ。」
 
「素敵なお言葉有難う。」

 
嫌味たっぷりで返す。当然だ。すると彼もどういたしましてだなんて、思ってもいない明らかな嫌味を口にした。
初対面の人に此処まで言われる筋合いは無い。当然のことながら多少は私もイラついているのである。

(だとしたらやっぱり、知ってる人だよねえ)
 
ニット帽から覗く少し薄い色の瞳を見上げると、私の中で何かがぽん、と音を立てて記憶を取り戻した。
              
           
 
「……もしかしてみどりにーちゃん?」
 
「当たり。」
 
「それにしては随分と変わってない?その、私の知ってるみどりにーちゃんと言うのはそんなチャラいオッサンじゃありませんでしたよ。黒縁眼鏡かけた真面目君だもん。人違いじゃないすか。」
 
「受験控えてたからなー、あの頃は。オッサンは酷い。まだ10代だし。」
 
「その癖遊んでた訳?よく私の所来てPS2を貸せだの何だの言ってたじゃん。もしかしてアレか、みどりにーちゃんも形から入るタイプか。」
 
「別に遊んでても受かるよ。」
     
「嘘でしょ。そんなんであんな偏差値高い高校受かる訳ねーわ。」
 
「つーか俺天才だから。」
 
「自分で言うな。ま、そんなんで受かっちゃうから悔しーんだけど。」
        
   
当時私は12歳。運動場で野球したりサッカーしたりとエキサイティングしていた頃だ。そんな時家に突然やって来たのがみどりにーちゃんであった。碧先輩って呼んでよ、と何かの時に言われた気がするのだが気持ち悪いと断った覚えがある。
とんでもなく遠い親戚らしい。どーりで、私の家族誰にも似ていない。毎週火曜日通いで私んちに来てゲームをして帰って行くのだ。
 
そんな彼が来なくなったのは11月の半ば。
突然来なくなった。小学生の私には遊び相手が居なくなってしまったようで少し寂しかったが、寒いのでもうやめとく、と書かれたハガキが来たのを境に、もうゲーム機の準備をすることは無くなった。
3月の終わりにもハガキが来た。俺天才という癇に障るメッセージを添えた合格の知らせだった。
                    
                 

「で?その某有名進学校にめでたく合格した碧君は、一体どーしてこんな所にいるんでしょうかね。」

「あー……、まあ。気付いては、いるんだけど。」
      
         
言葉が途切れる。不穏な空気が流れた。
如月まどか。鮮明に蘇るあの時の記憶は、私を少し不快にさせる。頭の中で響く声は、ただ現実を突き付けられている風で。
少女は言った。゛運命を変えない事が使命゛だと。
少女は言った。゛使命を果たせば元の世界に帰れる゛と。
その言葉に希望は持ったが、その使命は私かあの子か、どちらかしか叶う事のない夢だ。
不条理に決められた運命の中で、小さな物語の中で闘わせる。——まるで蠱毒だ。ただ一人に残るまで、決して光を見る事は無い。私はあの子を蹴落として足掻いて、そして初めて平穏を手に入れる事が出来る。そんな重みを背負う資格は私に無い、そうだけれど。
助かりたい、不条理な現実から逃げたい。また元の様に何事もなく毎日が始まったらどんなに良いだろうと、いつでも思ってしまう。
               
 
「アイツらから聞いてるだろ。多分。」
 
「…あいつ?」
    
「うっとおしいサラリーマンみたいな。名前なんだっけ。前多?間川だったかな。あのぴっちり固めた七三分けの・・・・・・。」
        
「知らない。聞いたこと無い。」
   
「見るからにマジあいつカツラだから。見たら爆笑すると思う。—んじゃ、別のから聞いたの?」
 
「それはつまり、この世界の事とか、目的の事とか、そういう一纏めな感じを言ってる訳?なら聞いたよ。如月まどかっていう女の子から。」
     
「全然何も知らなかったらどうしようかと思ってた。つーか何でお前敵からそんな事聞いてんだよ。」
   
敵。そう表現することに抵抗が感じられた。
  
 
「俺の目的は、簡単に言うと補助だよ、頭の悪いお前向きに言うと。」
 
「ふーざーけーんな。補助って誰の?まさか如月さんでーす☆とか言ったら殴るぞ。」
 
「すまんすまん。繊細とか難しい事言うと、お前を死なない程度にボディガードするけど、邪魔しちゃ駄目っつー事なんだよ。ふつーに、な。」
 

「何その他人行儀。別に守って貰わなくても良いけどなあ。」

 
相槌を打ちながら話を頭に入れ込む。もう許容量は遙かに超えているのだ、そのせいで隙間風の如く私の頭から綺麗さっぱり重要な記憶が飛んで行く。
     
単純な例として未だにクラス全員の顔を覚えていない。第一印象で覚えてしまったことが多々あるので出会い頭に「眉毛!」だの「ハゲ!」だの、仕舞いには牛乳を吹き出したクラスの結構可愛い女の子に「えっと、牛乳の…」なんて言っちゃってそれは大ブーイングだった。でもさ、なんだよそれって思わない?差別はんたーい。皆平等だからさ!
 
 
「オイ何浸ってんだよ。」
 
ぼけーっとしていたら突っ込まれた。何たる不覚。
相変わらずこの村のほのぼのした雰囲気も現実味を沸かせない原因の一つとなっている。
何処か懐かしみを感じる温かい場所だった。この楓さんの家は。
 
「いやあ、そー言えばみどりにーちゃん、簡潔に言うと私はどうすりゃ良いの?頭の悪い私向きにお願いしますー。」
 
「…性格の悪さも3割増したなー。いやはやあの頃が可愛く思えてくる不思議。」
 
随分放置されているように感じる伸びた髪を搔く仕草は昔と同じだ。
つーかニット帽は家の中では普通脱ぐんじゃないかな。蒸れるぞみどりにーちゃん。暑いぞみどりにーちゃん。
 
「はははは。またご冗談を。………早く答えろやおっさん。」
 
「おっさんじゃねえし。んーとあれだな。とりあえず一行に付いて回れば?その方が早く異常にも気が付けるだろうし、あっちから仕掛けてくるとすればメインメンバーに介入するを得ないんだから。
つまる所目を離すなっちゅー事。この物語はあいつらを中心に置いてんだ。雑魚だのモブキャラだの若干のストーリーの変わりなら気にならないから意味が無い。」
 
「難しいなそういうの。騙してる気がして気が引ける。」
    
私がそう返すと彼は口を閉ざした。
この言葉は本心からだ。…本心からでこそ気が重くなる。ついさっきまで何気なく話していた相手を騙しているという罪悪感が自身の心に窺えた。けれど容易く許されるのだ。
    
「凛はどうする?お前の出方によって俺の立場もかなり変わる。自分としては両方の目的が叶う方向で行きたいんだがな。」
   
 
「じゃあ、」呟きは小さかった。身体の奥から色んな物が混じり合ったものが晒されていくような気がして。
 
「私は帰りたいんだ。元の場所に。居るべき場所に。
だから何でもする気があるし、出来ない事なら何をしてでも成功させる。—これが答えだよ。」
      
「お前らしいや。」
              
 
はは、と彼は笑って言った。釣られて私も口元を緩めた。
本当は、迷っていたのだ。
このままこの世界で生きて行くのか、目的を達成して元の世界に戻るのか。危険は両方付き纏う。でも結局、逃げたって何も無い。出口の無い迷路に家を与えられただけのような物だ。
糸口は手探りで、まだ確かな物は無いけれど、その日私は、確固なる意思を手にした。