二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: [銀魂]——— くるりくるり。/ ( No.103 )
日時: 2011/04/25 19:50
名前: 李逗 ◆hrygmIH/Ao (ID: .qxzdl5h)

第六話   夢は儚く


「銀時、起きて下さい銀時」

松陽は縁側で眠る銀時をゆさゆさと揺さぶった。
銀時の寝起きはかなり悪い。いくら体を揺すっても、耳元でいくら大声を出そうとも、それこそ嫌がらせのように起きようとしない。二十回に一度位であれば直ぐ眼を覚ましてくれるのだが、起きても暫くぼーっとしているのだ。
どうしたら銀時が直ぐ眼を覚ますか。
共に棲む松陽は何時も其れに悩まされていた。

「銀と——」

松陽が再び銀時の体を揺らした、その時。
がばぁっと凄まじい速さで、銀時が起き上がった。普段は絶対見ない様な速さで。

「珍しいですね、こんなに直ぐ起きるなんて」
「先生——」

ぱっと顔を上げ、銀時が自分を見上げる。赤い瞳とばっちり眼が合う。
どうしましたか、と言いながら、何処か銀時の様子が普段と違う様に感じた。

「何か……変な夢見た」
「夢、ですか?」

でももう覚えてねーや。
半ば独り言の様に呟き、ボリボリと頭を掻く銀時。松陽は時々、本気で此の子は将来どんな大人になるのだろうかと不安になる。こんなに幼い頃からこんなオヤジ臭い行動をして、というか一日中眠りっぱなしで大丈夫だろうか。
もしかしたら十年程先の未来、ほとんど仕事も入ってこないような仕事につきはしないだろうか。だらだらと一日を過ごす大人の彼を想像して、松陽は思わず苦笑いをした。

「どーせお前の事だからサラサラヘアーになった夢でも見たんだろ」

何時の間に来たのか、松陽の隣には晋助が立っていた。何時もと変わらぬ不貞腐れた顔で、じっと銀時を見下ろしている。

「だから忘れたっつてんだろーが。つーか絶対ンな夢見てねェ!!」
「忘れただけで見てたかもしれねーじゃねーか」
「見てませェん。其れを言うならテメーこそ……」

瞬間、ぴたりと銀時の言葉が止まった。部屋の中が静寂に包まれる。
三人の耳に、ダダダダという誰かが走る様な音が聞こえたのは、其れから一瞬後の事だった。

「先生ェェェェェ!!!!」

襖と勢い良く開け、何か黒いものが部屋に飛び込み、松陽にがばりと抱きついた。
その松陽にしがみ付く“黒い何か”は小太郎だった。余程全力で走って来たのか、小太郎の息は上がり、肩も上下している。ただならぬ様子の小太郎に、松陽は不安を覚えた。

「どうしたんですか、小太郎。落ち着いて話して下さい」
「あいつが……凪がいません! 家の中の何処にも!」

其の瞬間、部屋の中の空気がぴんと張り詰めた。何時も柔らかな松陽の表情も険しいものへと変わる。

「どっかに隠れてんじゃねーの?」
「其れは無いぞ高杉。家中周ったし——それに」
「それに?」

小太郎は松陽から離れ、松陽の正面に移動する。

「凪の草履がありませんでした。あの脇差も」

其の瞬間、松陽の眼が大きく見開かれた。
草履も脇差も無いとはどういう事だ。まさか……まさか。

戻ったのだろうか、あの血煙る戦場へ。

松陽は浮かんだ嫌な考えを打ち消す。あの子はそんな事望んでいる筈が無いのだ。此の村塾へ連れて来る時、確かにあの子はこう言った。

———来ても、良いの?

だから必ず村の中に居る。
早く見つけなくては。日が沈んで夜が来る前に。

夢は儚く
(どうせ忘れてしまうのに、)
(何故人は夢を見る?)