二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: [銀魂] |_ くるりくるり。| ( No.114 )
- 日時: 2011/04/25 19:54
- 名前: 李逗 ◆8JInDfkKEU (ID: .qxzdl5h)
第七話 消えた烏の子
酷く掠れた、歪な烏の鳴き声が辺りに響く。
蔓延する血の臭い、立ち上る煙。既に命の無いモノと化した屍の山。地獄と言うに等しい戦場。
その中を、一人松陽は進んでいた。
戦場を訪れたのは何時振りだろう。最後に遣って来たのはあの時。
この屍の山の中で、白い子鬼を見つけた時以来だ。
此処を訪れた理由は、その時と大差無い。というか、そんな理由が無い限りこの地獄には近付かない。
噂を、聞いたのだ。
今朝村で、噂好きな村人達が声高に話していた。
——『攘夷の戦場に、屍を喰らう赤眼の烏が出るってさ』
——『俺が聞いた話じゃ赤眼の黒鬼だったが』
——『どちらにせよ、恐ろしいもんだ』
馬鹿馬鹿しい。そう思った。
所詮鬼だ物の怪だと言う物は、人の作り出した幻だ。そんな物よりも人間の方が余程恐ろしい。他人の噂に惑わされて、恐れて、貶めて。
現に、昔村人達が屍を喰らうと噂した鬼も、只の幼い子供だった。
それ程皆恐ろしいと言うのなら、自らの眼で確かめよう。
そんな事を考えている内、足は自然と戦場へと向かっていた。
其の時。
視界の隅に、何か動くモノが映った気がして、其方に顔を向けた。
其の先に見えたのは、屍に腰掛ける小さな子供の後姿。
気取られぬ様に気配を消して、その子供に近付いていく。
子供の直ぐ後ろにまで近付いて、ぽん、と黒い髪に手を置いた。2年前の何時かの日の様に。
其れに驚いたのか、振り向きざま自分を見上げた子供の眼は真っ赤だった。
ほら。やはり只の子供ではないか。普通の人間と違う色の眼を持つだけの。
松陽はふっと笑みを零すと、子供を見下ろしながら言った。
「最近は、可愛い鬼を拾う事が多いですね。いや……貴女は赤眼の烏、でしたか」
—————
「……んせい、先生っ!」
銀時の自分を呼ぶ声に、松陽は我に帰った。
声のした方を向けば、銀時、晋助、小太郎の三人が息を切らせて此方に走って来ているのが見えた。
「どうでしたか? 其方には……」
松陽の問いに、小太郎がゆるゆると首を横に振る。三人が探した村の中には居なかった、と言うことらしい。
松陽が今迄探していたのは戦場に一番近い山へ繋がる一本道。其の周りには田んぼが広がっている。
村塾から此の地点に来るまでの間、凪と思われる人物は見なかった。と言うか、遠い戦場を恐れて、此の辺りの田んぼや畑の持ち主以外にこの道を使う者は余り居ない。
「村の人にも聞いてみたんですけど、皆そんな子供は見てないと」
「そうですか」
此の村はたいして大きな村では無い。まして凪は普通とは違う赤い眼を持っているのだ。誰か一人が凪を見れば、噂はあっと言う間に村中を駆け巡る。
其れが誰も見ていないと言う事は、やはり凪は戦場へ行ったのだろうか。
「先生、あいつ村塾戻ってんじゃねーの」
右隣で晋助が言った。
「確かにそうかもしれませんね……。晋助達は一度村塾に戻って下さい。私はもう少し探してみます」
正直、戦場へ行くのは嫌だ。
きっと今日も侍と天人との戦が行われただろう。
そして地面に無造作に横たわる、侍、天人双方の死体。鼻につく血の臭い。考えただけで吐き気がする。
だが。もし其処に凪が居るのならば。
(あの子には幸せになる権利がある)
きっと今迄散々苦しんで来たのだろう。凪の口から直接聞いた訳では無いが、あの赤い眼がそれを物語っていた。
松陽はぐっと唇を噛むと、子供達に背を向ける。
夕暮れに染まる何処かの空で烏が鳴いた。