二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: [銀魂]   |_ くるりくるり。| 第二章開始 ( No.118 )
日時: 2011/04/17 10:58
名前: 李逗 ◆hrygmIH/Ao (ID: .qxzdl5h)

第八話    夕空ゆらり


「晋助達は一度村塾に戻って下さい。私はもう少し探してみます」

そう言って、松陽は自分達に背を向けた。
あぁ此の人は戦場に行くつもりなのだと理解するのに、そう時間は掛からない。少しでもあの戦場に凪が居るという可能性があるのなら、迷う事無く其処へ行く。この人はそういう男なのだ。この、吉田松陽と言う男は。
きっと自分の時もそうだったのだろう。村人達の噂を聞いて、迷う事無く戦場へ向かったのだ。
そんな彼の姿を見て、銀時は時々不安になる。彼の其の性が、いつか彼の命取りになりはしないだろうかと。

「……先生」

銀時の呼びかけに、松陽はくるりと身体を捻り此方を向いた。

「どうしましたか、銀時」
「戦場、行くつもりだろ」

銀時が言うや、松陽は僅かに目を見開いた。其れを見て、やはりそのつもりだったと心の内で呟く。
此の人はいつだって、自分ひとりで何でも解決してしまおうとするのだ。自分にも——いや、自分達三人にも少し位もたれかかってくれたって良いのに。一人では無理だが、三人でなら松陽一人支える事は出来るのだから。

「先生、本気ですか!?」
「何であんな所に……!」

小太郎が松陽の羽織の袖をぎゅっと引っ張った。晋助は小太郎の様にはしないものの、その翡翠色の瞳は行かないでくれ、と懇願している。ふたりにとって松陽があの戦場に行く事は、恐怖以外のなにものでも無いのだ。
当然だ。自分だって出来ればそんな所行って欲しくないのだから。

「もしも凪が戦場に居るとしたら……迎えに行ってあげなくてはならないでしょう?」
「もう少しこの辺りを探してからでいいだろ、戦場に行くのは!」

声を荒げ、噛み付くように言う晋助。小太郎は其の手を決して離そうとはしない。
そんなふたりを見て、松陽は困った様に笑った。

「ほら、空を見て下さい。今はまだ日はありますが、もうじき太陽は沈み夜が来ます。そうなれば凪を見つける事は難しくなっていしまう」

見上げた空は真っ赤な夕焼け。何度も何度も見た景色。
気のせいだろうか。
この光景をいつか見た事のある様な気がした。いや、正確に言えば。
現実こことは違う、例えば“夢”と名付けられた様な世界で見た様な気がしたのだ。いわゆるデジャウ゛と呼ばれるものである。
例えば空の色であったり、掠れ声で鳴きながら飛ぶ数羽の烏であったり、日の光を受けて橙に染まる、細長くたなびいた雲であったり。
そういったものを、遠くは無い何時かに見た気がした。

(……あぁ)

記憶の糸を手繰り寄せれば、それはすぐに見つかった。
世界の全てが儚く、触れれば消えてしまいそうなそれ。

(さっき、昼寝した時見た夢だ)

確かに自分は見たのだ。この夕焼けに染まる黄昏時の景色を、あの村塾の縁側で。
一度解ってしまえば後は簡単なもので。つい先ほど見た夢が、銀時の脳裏に色鮮やかな極彩色の映像となって蘇ってきた。


夕暮れ時の風景だった。
銀時は一人、川沿いの土手を歩いていた。見上げた空は赤く、数羽の烏が飛んでいた。そして太陽の光で橙に染まる、細長くたなびいた雲。
自分でも良く解らぬまま、そうしてひたすら歩いていた。
と、其処で銀時の眼が見慣れた人々をとらえる。向かい側から歩いてくる、松陽と晋助、小太郎の三人だ。それを見た銀時は三人に駆け寄った。
傍らの小太郎が何か話しかけてくる。だが声は聞こえない。
もう一度、と言う自分の声も小太郎には聞こえないらしく、ぽかんと口を開いて自分を見つめてきた。
と、その時。
ふいに松陽が立ち止まり、視線を川に移した。それにつられて銀時もそちらを見る。
空の色に染め上げられた川沿いに座り込む、一人の子供の後姿。
松陽がその子供の名を呼ぶ。

「———」

勿論その声も上手く聞き取れなかった。
そしてその子供が、此方を振り返る。その子供の眼は赤。



「銀時、どうしましたか」

松陽は銀時の様子のおかしい事に気付き、そっと声を掛けた。
銀時はそれを聞き、はっと顔を上げる。

「先生、」

今思い出した夢に出てきた場所。あれはこの村唯一の川で。自分達が唯一探しに行かなかった場所で。
そしてあの川岸に座り込んでいた子供は。



「多分あいつ川にいる」



紛れも無く凪だった。