二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: [銀魂] |_ くるりくるり。| ( No.126 )
- 日時: 2011/06/12 14:41
- 名前: 李逗 ◆8JInDfkKEU (ID: .qxzdl5h)
- 参照: お題(サブタイトル)提供/ひふみ。様
第十話 光を見つめて、影を哀す。
もうじき人の時間が終わる。
日は沈み、闇に生きるものの時間がやって来る。
凪はこの時間が一番嫌いだった。一人で居ても、昼間は太陽がある。だが夜は月や星の僅かな光以外、何も無い。今迄息を潜めていた獣たちが行動をはじめ、その度に凪は高い木に登り、朝が来るのを待っていた。
そう、今朝までは。
今、何故か自分は来た事の無い村に居て、何故か一人川辺で夕日を眺めている。全てはあの男が——松陽が、戦場で自分を見つけたからだ。
急に後ろから声を掛けられて、自分でも訳の分からぬまま着いて行ったら、この村の松陽の私塾に着いた。そこで久しぶりに自分に向けられた笑顔に驚いて、何も答える事が出来なかった。
(だけど、)
凪は抱えていた脇差をきつく握り締めた。
脳裏に浮かぶのは松陽の微笑と、自分とあまり歳も違わぬあの三人の子供たち。
(やっぱりそれだけだった)
また一人になるくらいなら、初めから人の温かさなど知らなければ良い。
そう思っているのに、心の隅には誰かの迎えを待っている自分が居た。
只の我が儘だと、自分でもちゃんと分かっていた。だがどうしても、迎えを待たずにはいられなかったのだ。
『人でなしと呼ばれたからには、人でなしとして生きるしかないさ』
一年程前、一人の戦場稼ぎの男に言われた言葉がふと蘇る。その男は自分を蔑むでも可愛がるでもなかったが、気付いた時には何時の間にか自分の隣に居た。しかし、男はそう言って三日と経たずに死んだ。山で戦が終わるのを待っていた時、野党に襲われ殺されたのだ。
凪がその事を知ったのは、それから一日後の事だった。
「人でなしは、人でなしとして」
ぽつりと呟いてから膝頭に頭を押し付ける様な仕草をすると、凪はすっくと立ち上がった。
もう一度山に戻り、一人になってから今朝まで続いたあの生活に戻ろうと、凪は至って平静にそう思った。
男に渡された脇差はどうしようかと思ったが、何故だか掴む手を離す事が出来ず、そのまま持って行こうと両手で抱える。
土手に上がるため、振り返ろうとしたその時、
「凪!!」
聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。気のせいかと思っていれば、もう一度。
「凪!!!!」
更に強く名前を呼ばれ、凪は思わず振り返った。がさがさと草を踏み分け進む音が聞こえたと思うや、次の瞬間。
強く、身体を抱き締められた。
「……え、」
突然の事に驚いて固まる凪の眼に映ったものは、息を切らして土手を駆け下りてくる三人の少年の姿。それは村塾に居た三人だった。確か銀時、小太郎、晋助と呼ばれていたなと、ぼんやりと考える。
と言うことは、今自分を抱き締めているのは。
「無事で良かった……!!」
その絞り出すように紡がれた声の主は、まさしく松陽だった。
沈みゆく太陽を見た時、もういいと思ったのだ。
人間の身でありながら化け物と呼ばれた自分など消えてしまえばいいと、心の底から思ったのだ。
あの温かな、遠いいつかの日と同じ温もりを持つあの場所に居てはいけないと、そう思ったのだ。
そう思えたのに、決心がついたのに、何故。
「本当に良かった……!!」
何故そんな事を言う。