二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: [銀魂]   |_ くるりくるり。| 第二章完結  ( No.130 )
日時: 2011/07/26 10:27
名前: 李逗 ◆hrygmIH/Ao (ID: q4MzvCIN)

第十二話      はじまりの朝


目が覚めたときは布団の上だった。
凪は寝転がったまま二、三度瞬きすると、赤い瞳をきょろきょろと動かして辺りを見回した。

ここはどこだろう。

寝ぼけて靄のかかった様な頭でぼんやりと考える。そして一瞬後、物凄い勢いでがばりと起き上がった。それと同時に昨日の出来事が一気に脳裏を駆け巡る。凪はすっくと立ち上がると、白くてふかふかの布団をじっと見つめた。
寝かせて貰ったんだから、布団くらい畳まないと失礼だろう。そう思い、凪は小さな体で布団を畳み部屋の隅に置いた。その時、視界の隅に何か長いものが映り、凪はそちらに視線を移す。部屋の柱に立て掛けてあるそれは、松陽に貰った脇差。凪はとことこと近付くと、それを持って部屋を後にした。

所々破れた後のある襖を開けると、庭に面した縁側に出た。暗いところから明るいところに出た所為か霞む目で空を見上げると、既に太陽は空の高い位置にあった。
初夏の温かな日差しで、今起きたばかりだというのに欠伸が出そうになる。
縁側から見える縁側は、其れほど大きくは無いが良く手入れされていて、家主の性格が現れているようだった。庭の隅にある樹は桜だろうか。若い葉を青々と茂らせて、風にざわざわと揺れている。幹の太い立派な樹だ。その近くでは牡丹が白い花を咲かせていた。

それを見ながら、自分の家にも桜と牡丹の花があったと、ふと思い出す。火事で燃えてしまいはしたが、美しい花を咲かせた姿は今でも鮮明に思い出すことが出来る。
そんな事を考えている内、何時の間にか昨日教えられた居間の前に来ていた。開け放たれた襖から顔だけを覗かせて、そっと中を見てみるが、ちゃぶ台が一つあるだけで他には誰も居ない。中に入っても良いのか考えていると、

「凪?」

後ろから声を掛けられた。
驚いて振り返ってみると、そこにいたのは松陽だった。

「丁度良かった。そろそろ起こしに行こうと思っていたんですよ」

松陽はそう言って凪の頭をぽんぽんと軽く叩くと、朝餉の用意をしますからね、と言って台所へ消えた。残された凪は、小さな子供の様に扱われて(実際子供なのだが)、少しだけ頬を膨らませた。


「凪。凪は剣術に興味はありますか?」

松陽がわざわざ暖めなおしてくれたみそ汁を食べているときだった、休にそんな事を聞かれたのは。
御碗をちゃぶ台に戻してから見てみると、松陽はさも楽しそうににこにこと笑っている。凪は剣術、と呟いて考えた。
生前、凪の父は幕府の人間——いわゆる幕臣で、確か「ほくしんいっとうりゅう」だとか言う流派の「めんきょかいでん」だった。まだ両親健在の頃は何度か竹刀を持たされ、足の運び方やら竹刀の持ち方やら教えられたが、もう三、四年前の事だから覚えていない。

「実は今、道場の方で剣術の稽古をしているんです。凪もやってみませんか?」
「でも私、どうやったらいいか覚えてないよ」

正直にそう答えると、松陽は大丈夫です、と言って優しく笑った。

「全くの素人から始めた子も沢山いるんですよ。それに」
「それに?」

凪は白飯を口に運びながら松陽に訊いた。久しぶりに食べる真っ白なご飯が美味しくて、正直松陽の話よりもそちらに意識が向かってしまう。

「道場には銀時や小太郎、晋助もいます」

ぴた、と凪の箸を持つ手の動きが止まった。
心の内で銀時、晋助、小太郎と名前を繰り返す。脳裏に浮ぶのは昨晩の出来事。

「どうしますか?」

松陽がもう一度、凪に訊いた。
どうしても行きたい、わけでもなかった。どうしても行きたくない、わけでもなかった。

凪は顔を上げると、真っ直ぐ松陽を見つめる。



「行って……みる」



凪の答えを聞いてなのか、それともあの三人に接触するであろうほんの少し先の未来を見据えてなのか、松陽はにこりと笑った。