二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: [銀魂] |_ くるりくるり。| 第三章開始 ( No.131 )
- 日時: 2011/08/07 12:57
- 名前: 李逗 ◆8JInDfkKEU (ID: r9bFnsPr)
第十三話 それ、取り扱い注意品です。
道場は松陽の私塾を伴う家と同じ敷地内にあった。
それ程大きくは無い道場の中へ松陽の後ろについて入ると、ぱっと中に居た子ども達の視線が集まり、凪は思わず背筋を伸ばしてしまう。その子ども達の中には銀時、晋助、小太郎の姿もあった。
そんな風に凪を見つめる子ども達に、松陽が「集中しなさい」と言うと、皆慌てて素振りを再会する。
「凪」
道場の隅で松陽に袴を履かせられ、どこから持ってきたのか古い胴を着けさせられた。
初めて着ける、剣道用の胴。黒光りするそれを凪はしげしげと見つめる。初めてだからというのもあるだろうが、重い。よくこんな物を着けて竹刀を振れるものだと正直に思った。
「凪、こちらへ」
松陽に呼ばれて素振りをする子ども達の隣に並ぶと、松陽は凪に竹刀の持ち方やら足の運び方やら教えてくれた。
振ってみなさい、と言われて思い切り振り下ろした竹刀の空を裂く音が、なんとも心地良い。真剣を振った時とはまた違う音だ。それに軽くて振りやすく、凪は夢中になって素振りを繰り返した。
「凪は飲み込みが早いですねぇ。上手ですよ」
私が止め、と言うまで続けてくださいと言って凪の頭を軽く叩くと、松陽は凪のもとを離れて道場内を歩き回り始めた。
凪は軽く叩かれた頭がなんだかくすぐったくて、それを気にしないためにまたびゅん、と竹刀を振った。
そうして暫く経った頃、松陽が止め、と休憩の合図を出した。
ずっと素振りをしていたものだから、皆が皆汗だくだ。凪もその例外では無く、松陽に渡された手拭いに顔を埋めた。
「凪、楽しいですか?」
ふいに聞かれ、凪はぱっと顔を上げる。
「うん、楽しい!」
それを聞き、松陽の頬が緩み、唇が三日月形の弧を描いた。恐らく自分も笑っていた——と、思う。
「それは良かった」
凪はそれにうん、と頷くと、じっと手元の竹刀を見つめた。
これなら幾ら振り回しても誰にも何も言われないのだ。石を投げられもしないし鬼とか言われて罵られもしない。勿論追いかけられもしない。竹でできたなまくらを幾ら振り回したって(それが道場内であるならば)誰かが文句を言う権利は生まれないのだ。
その事実に気付いた凪は、にたりと頬を緩ませた。
「では、今から仕合をはじめます」
松陽の言葉に、子ども達からわぁっという歓声が上がった。
なんじゃそりゃと困惑する凪をよそに、松陽は次々と組み合わせを言っていく。その何番目かに晋助と小太郎の名前も挙がった。名前を呼ばれた二人はざっと立ち上がり、お互い近付いてメンチを切りあっている。
あの二人と銀時は実力が互角で勝ったり負けたり繰り返していると、隣にいた凪より一つ二つ年上の少年が教えてくれた。
「では銀時は——、」
「せんせー」
言いかけた松陽を遮ったのは、当の本人である銀時だった。
相も変らぬ気だるそうな死んだ魚の眼で松陽を見上げている。
「俺、あいつとやりてェ」
銀時の指先は、真っ直ぐに凪を捉えていた。そりゃもう寸分の狂いも無く。
「……は、」
驚いて素っ頓狂な声を上げた凪を見て、銀時はしたり顔でにたぁと口角を上げる。見た人をいらつかせる銀時独特の笑い方だ。
人を小馬鹿にしているようなその顔を見て、凪は眉間に皺を寄せた。なんだこいつ。
「凪、どうしますか?」
「やだ!!」
即効で拒否した凪を見て、松陽は苦笑いを浮かべる。
負けるからとかそんな事では無く、ただ面倒臭かった。勝とうが負けようがこの男、何かしら文句を言ってくるに決まってる。
やってみたらいいのに、という松陽の言葉にも頑として首を縦には振らないでいると、ふいに銀時が近付いてきた。あのしたり顔のまま。
「なぁ、お前俺に負けたら恥ずかしいからやりたくねェンだろ」
「……な」
にたにたと笑う銀時に対する苛立ちが募って、凪は思わず前に身を乗り出した。
あぁまた銀時の弄り癖が出たと呆れ顔の晋助と小太郎を尻目に、銀時はさも愉快そうに続ける。
「お前が俺に勝てるわきゃねーもんなぁ、可愛い可愛い凪ちゃんよォ」
ブツリと。
その微かな音はその場に居合わせた全員に聞こえた。
そして、
「こンの白髪ァ、私がいつお前に負けるって言ったよ。上等、その腑抜けたツラ二度と見られないようにしてやらァ」
どんと足を踏み鳴らし、下から見上げる形で凪は銀時を睨み付けた。
「やれるもんならやってみやがれ」
ばちばちと睨み合う二人を、松陽は止めようともせずに笑って見ていた。