二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: [銀魂]   |_ くるりくるり。|  ( No.132 )
日時: 2011/08/20 14:16
名前: 李逗 ◆8JInDfkKEU (ID: r9bFnsPr)


第十四話   馬鹿と阿呆の二重奏


道場の中央で、凪と銀時は対峙していた。
二人を取り囲むように周りには大勢の塾生達。その中には勿論晋助や小太郎もいる。

「仕合は一本勝負。胴、小手、面のうちどれか一本取った方の勝ちです」

凪、銀時の真ん中で静かに松陽が告げ、二人はお互い頭を下げる。本当は銀時に対して頭を下げるなどくそ食らえだが、それは向こうも一緒だろう。礼をしたあと座り、剣先を近づける。
松陽の初め、の合図がかかったとたん、二人はほぼ同時に立ち上がった。
凪は立ち上がった瞬間竹刀を振り上げ、銀時の頭目掛けて振り下ろす。ところが銀時がひょいと左に避けたために、凪の竹刀は床に直撃してしまった。手に衝撃が来てびりびりする。

「うおらぁあッ!!」

凪の動きが止まった瞬間、銀時が凪の胴を狙って竹刀を振ってきた。慌てて後ろに飛びのき、銀時が竹刀を振り切った瞬間を狙って前に踏み出す。

「銀時と張ってやがる」

独り言の様に呟いた晋助の声は、勿論ふたりには聞こえない。
再び面を狙った竹刀は銀時の竹刀に塞がれ、つばぜり合いになった。歯を食い縛って押し合いをするものの、銀時は男。子供同士であってもやはり力の差があって、次第に凪が押さえ込まれる形になっていく。
その時、ふっと銀時の竹刀の力が緩まった。
そのせいで凪の腕が伸びてしまい、それを狙って銀時が胴を打ち込む。竹刀で抑える事も逃げる事も間に合わないと判断した凪は、思わずその場にしゃがみ込んだ。凪の頭上を銀時の竹刀がかすめ、今度は凪が銀時の胴を狙い竹刀を打ち込もうとした。
その瞬間。
頭に衝撃が来て、ぱぁんと言う軽い音が響いた。
直後に道場内にわぁ、と歓声が上がる。

「面あり、一本」

松陽の声が凛と響く。凪は立ち上がると中央に戻り、互いに礼をした。

「っぁぁああ゛っ!!」

頭を上げた直後凪はその場に座り込み、防具を外して叫んだ。

悔しい。
あと少しだけ早く竹刀を打ち込んでいれば、勝ったのは自分だったかもしれないのに。
今迄同い年位の子どもにも、大人にも負けた事はなかったのに。

座ったままその場を離れようとしない凪に、松陽は何も言わない。凪も何も言って欲しくなかった。
歯を食い縛っていないと涙が出そうになる。凪は生来あまり泣かない性格だった。何だかそれも腹立たしくて顔を上げられない。

「おい」

ふいに銀時が声をかけてきた。
でかい口叩いて負けてんじゃねーかとでも言うつもりなのかと、思わず睨んでしまう。

「明日もまたやろーぜ、凪」
「……ぇ」

初めて“あいつ”でも“お前”でも無く“凪”と呼ばれた。
驚く凪に、銀時はンだよ見てんじゃねーよと悪態をつく。

「おい銀時、明日は俺が凪と仕合すんだよ」

後ろから乱入してきた声の主に、凪は思わず振り返った。そこに居たのは晋助と小太郎で。まだ驚いたままの頭で、ああ次はこの二人が仕合するんだと考える。

「シャシャってんじゃねーよチビ杉」
「何だと、後少しで負けてた癖に」

銀時と晋助の間に、一触即発の険悪な雰囲気が流れる。直後、二人は互いの胸ぐらを掴んで睨みあっていた。

「凪、お主練習すれば銀時など簡単に倒せるようになるぞ!」
「……まじでか」
「今ものっそいムカつく台詞聞こえたんだけども!!」

どうしたらいいのか対応に困る塾生達を見てか、松陽はようやく四人に静止の声を掛けた。座り込んでいた凪に手を貸し立たせると、銀時と二人隅に避けるよう促す。

「凪、どうでしたか?」

ふいに訊かれて、凪は松陽を見上げる。柔らかな笑顔がそこにはあった。

「————楽しかった」

その答えを聞いて、松陽は満足したように大きく頷いた。
戻りなさい、と背中を押され、凪はそこをどく。道場の隅に戻ると、銀時が死んだ眼でこちらを見ていた。ふたつの赤い眼がかち合う。

「……次は」

凪はにたりと口の端に笑みをうかべた。


「次は、私が勝つから。——銀時」
「てめーが俺に勝とうなんざ兆年早ェんだよ」


翌日の再戦では、凪が押しはしたものの銀時が勝ったという。