二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: [銀魂] |_ くるりくるり。| ( No.133 )
- 日時: 2011/09/25 13:23
- 名前: 李逗 ◆hrygmIH/Ao (ID: cebg9jtM)
第十五話 ゆらゆらゆらゆら、星海月
「それなに、晋助」
「……花火」
————
みーんみーんと、忙しく蝉が鳴く。どこかではヒグラシの鳴き声も聞こえてきた。季節は夏。西の空をくれないに染めながら日が落ちようとしている。
「ぎんときー、先生は?」
「何か用事があるから出かけるっつってた」
銀時の答えを聞いて、凪はそっか、と言った後に頬を膨らませた。銀時は卓袱台の上に置かれている饅頭に手を伸ばしながら、更に続ける。
「先生、帰ってくるの遅くなるぜ」
「っえーっ!!」
あからさまにがっかりした様な声を上げると、凪は不機嫌な顔をしてその場にすとんと腰を下ろした。
何故か、というと。
(今日は花火しようって言ってたのに)
それは松陽に連れられて、晋助、小太郎も共だって山一つ越えた町へ出かけたときの事。
その町はこのあたりでは一番の賑わいを見せている町で、凪たちも見たことのない様な品物も沢山並んでいた。その中で、凪達は見つけたのである。初めて見る、手持ち花火なるものを。
買ってくれと松陽に頼んだが、その日は既に用事を済ませて金も使ってしまっていたので、それは果たされなかった。
「あさっても私はこの町に来る予定があるので、その時に買ってきますね」
松陽がそう約束してくれたので、その日は泣く泣く家路に着いたのだ。
そして今日が約束の日。なのに勧進の松陽はまだ帰ってこないと言う。もうすぐ日も暮れてしまうというのに。
「晋助も小太郎ももう来るよ」
「いんじゃね別に。つかあいつら来るのやだよ俺」
気だるげな銀時の言葉に更に頬を膨らませると、それを見た銀時が行き成り吹き出した。
「お前それタコみてぇ!!」
げらげらとそう言って笑い転げる銀時。よくもまぁ飽きもせずにぎゃははと凪を指差すそいつを見て、ぶつりと凪の頭の中の何かが切れた。
—————
「貴様ら、何をしておるっ!」
ふいに聞こえた、耳慣れた声。
ぎゃあぎゃあと取っ組み合いの喧嘩をしていた二人は、お互いの顔やら髪やら腕やらを掴んでいた手を離した。顔を上げた二人の視界に映ったは、鬱陶しい長髪。
「「ヅラ」」
「ヅラじゃない桂だっ、貴様ら何を二人して暴れている。部屋がぐちゃぐちゃではないか! それに煩いぞ!」
「てめェが一番煩ェんだよヅラ」
喧嘩しているうちに縁側近くまで転がってきていたらしい二人を見下ろしていたのは、晋助と小太郎だった。夢中になっていたから気付かなかったが、すでに日は上部を残して完全に没していた。西の空は端だけまだ橙色をしている。見上げた空には星。どうやら今日は新月らしい。
「玄関から呼んでも返事がないから来てみれば……。松陽先生はどうしたのだ?」
「朝から出かけて、まだ帰ってきてない」
凪が答えると、小太郎はそうかと言ってちらりと晋助を見た。
それに釣られて見やれば、晋助の右の手には紙袋。
「それなに、晋助」
「……花火」
花火、という単語のところで、ぱっと凪と銀時の顔が輝いた。なんやかんやで——興味の無いそぶりをしていた銀時も、本当は手持ち花火をやってみたかったらしい。つくづく正直でない。
「何で花火なんかてめーが持ってんだ、高杉」
「家に来た客が持ってきた」
高杉の家はこの辺りでも有名な大地主で、所謂ボンボンである。珍しい品を手土産に持ってくる客も少なくない。
凪と銀時は縁側の下においている草履を突っ掛けて、ひょいと地面に飛び降りた。
「早くやろうよ、花火!」
凪の言葉に晋助は頷くと、花火の入っていた袋を開け、家から持ってきたらしい蝋燭に火を点けた。
一瞬の後、星空の下で子ども達の歓声が上がる。滝の流れ落ちるにも似た、花火の音と噴き出す光。
村塾脇の道を歩いて、遠くはなれた町から帰ってきていた松陽は、四人の声を聞いて少し微笑んだ。
お題提供:ひふみ。様