二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: [銀魂]———*。くるりくるり*。 ( No.28 )
- 日時: 2011/04/25 19:30
- 名前: 李逗 ◆hrygmIH/Ao (ID: .qxzdl5h)
第一話 銀と白に光る、
(遅ェなァ、松陽先生)
大勢の子供達とたくさんの長机に埋め尽くされた広い和室。一人で教本を読んでいる者もいれば、数人で集まって何やら話している者もいる。
その和室の一番後ろの隅で、銀時はぼんやりと空を見上げていた。足を崩し、体を後ろの壁に預けて座っている。両手にはしかと刀を抱えて。
つい先程まで空を蔽っていた筈の厚い雲は、雨を降らすことなく少しずつ何処かへ移動して行っている。
雲間から差し込んだ光が、銀時の真っ白な髪を照らした。
(遅ェーなァァ)
銀時が目を覚ましたとき、師である吉田松陽は既にいなかった。朝にふらりと居なくなる事はよく有ったから、特に気にしてはいなかったのだが。
(もう巳の刻じゃねーか)
時刻はとっくに巳の刻(午前十時頃)を回っていた。
松陽は何処かへ行っていても必ず辰の刻(午前八時頃)には帰ってきて、塾生達に勉強を教えてくれる。
しかし今日、塾生達が全員集まってからとうに半時(一時間)が過ぎていた。
何かあったのではとも考えたが、松陽はそこらの連中にやられるほどヤワでは無い。それは銀時が一番良く知っていた。
「おい、銀時」
ふいに声をかけられた。よく聞き慣れた声だ。
銀時が視線を声のした方へ向けると、其処には晋助と小太郎がいた。
晋助の紫がかった黒髪と小太郎のさらさらの髪が、日に照らされてきらりと光る。
「松陽先生、まだ来ねーの?」
「もう全員集まってたっぷり半時は経ったぞ」
二人の問いに、銀時はあくびをしながら答える。
「知らねーよ、起きたらもういなかった」
「お前が寝坊するからだろうが馬鹿」
「ンだとコラチビ杉!! 俺今日は何時もよりずっと早く起きたんだぞ!!」
晋助がああ言えば銀時はこう言い返し、ついに二人はお互いの胸ぐらをつかみ合った。大喧嘩の始まりそうな勢いだ。
見かねた小太郎はべりっと二人を剥がし、
「今ここで松陽先生が来たらどうする! 貴様等忘れたのか、ついこの前の事!」
小太郎のその一言で、二人の顔色がぱっと強張る。
三人の脳裏に浮かぶのは、つい一、二週間程前の或る出来事。
理由は忘れたが、何かがあって三人で取っ組み合いの大喧嘩をしたのだ。丁度其れを松陽に見つかり、その後まぁ、思い出したら即効で泣き叫びそうになる目にあったわけで。
「あれはもう嫌だ」
「……同感だ」
「俺も」
珍しく三人の意見が一致する。
それ程恐ろしい体験をしたのだ。
じゃーなと呟くと、晋助と小太郎はふらふらと自分の席へと戻って行った。
銀時は腰を下ろすと、再び空を見上げる。その時、何処からか風に乗って、桜の花びらが飛んできた。
何処からやって来たのだろうか。この辺りの桜は皆散り、新しい葉が芽吹き始めているというのに。
雲の切れ間から差し込む、温かな日差し。
この日差しの所為なのか、それとも今日珍しく早起きしたからなのか、銀時の瞼は次第に重くなっていく。
初めのうちは其れに抵抗していたが睡魔には勝てず、銀時は重い瞼を下ろした。