二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: [銀魂]———*。くるりくるり*。 ( No.77 )
日時: 2011/04/25 19:47
名前: 李逗 ◆hrygmIH/Ao (ID: .qxzdl5h)

第四話   白と黒と紫と、


つい先程まで空を蔽っていた厚い雲は、すでに何処かへ行ってしまった。真っ青な空からは温かな日差しが差し込んできている。
松陽は、庭に面する自室で、凪がやって来るのを待っていた。

(遅いですね)

もともと、銀時達が凪を連れて来れるかどうか、少し不安があった。もしかすると松陽が凪を呼んでいる、という事を伝え切れていないかもしれない。
ほんの少し考えた後、行ってみますかと呟くと、松陽は腰を上げた。
と、その時。

「……せんせ」

襖がすっと開き、小さな子供が現れた。そう、凪である。
凪は襖を閉め、松陽にトコトコと近づいた。しかし、松陽まで後二,三歩といった所でピタリと歩みを止める。其れを見て、松陽は苦笑いを浮かべた。

(まだ慣れるまで時間がかかるようですね)

凪とは今朝出会ったばかりだ。焦る必要は全く無い。
気長に行けば良いのだ。

「丁度良かった。凪に渡したいものが有るんですよ」
「……渡したいもの?」

凪が上目遣いに松陽を見上げる。
松陽はそうですよと言うと、部屋の隅の箪笥たんすから或る物を取り出した。
凪と同じ目線になるようにしゃがみ、其のお目当ての物を渡す。

「これ……」

「この村塾の教本です。貴方の物ですよ、凪」
「私、の」

松陽はそうですよ、と言う様頷いた。
凪は其の若草色の真新しい教本をまじまじと見つめている。しばらくそうした後、ぱっと顔を上げた。

「ありがとう」

その言葉を言った最後の一瞬、凪がほんの少しだけ笑みを浮かべた様な気がした。
瞬き程の一瞬ではあったが、松陽の眼には笑ったように見えたのだ。

(いつか——近いうち、本当の笑顔を見せてくれれば良いのですが)

そう、かつての銀時の様に。
銀時の事が引き金になったのか、三人に凪を呼んで来てくれ、と頼んでいたのを思い出した。

「凪……」

銀時達には会いましたか、と聞こうとした時だった。

「先生!」

襖を開けるすぱぁんと言う音と共に、聞き慣れた声が響いた。
見ると、そこには銀時、晋助、小太郎の三人。その三人の姿を見るや、とたんに凪の表情は豹変した。
眉間に皺を寄せ、見るからに不機嫌そうな顔である。

「あ、お前……!!」

銀時の台詞はそこで中断された。
行き成り走ってきた凪とぶつかりよろける銀時。凪は一瞬赤い眼を見開いてこちらを見たものの、直ぐに踵を返して部屋を飛び出して行ってしまった。

「おいっ!!」

凪の其の態度が頭に来たのか、今にも部屋から出て追いかけて行きそうな晋助の肩を、松陽がぐっと掴む。

「先生!」
「いけませんよ、晋助」

松陽は優しく微笑むと、晋助の紫がかった髪を撫でた。

「其の様子だと、やはり凪は聞く耳持たずだったんですね」

松陽の問いに答えたのは小太郎だった。

「先生が呼んでいると言おうと思って声をかけたんです。そうしたら急に触るなと言われて、それで」

小太郎に続いて銀時と晋助も口を開く。

「先生、あいつ何?」
「何であんな奴連れて来たんだよ、先生っ!」

晋助は不機嫌度がどんどん上がって来ているらしい。
彼の元々目つきの悪い目が、何時もの非では無い位釣り上がっている。
其れを見て、松陽は少し困った様な表情をした。

「三人共。人の外側ばかり見てはいけませんよ。表面ばかりが其の人の本質ではありません。人の本質というのはもっともっと奥に有るものです。分かりますか?」

死んだ様な魚の眼で見上げる銀時。相も変わらず不機嫌そうな晋助。まっすぐに松陽を見る小太郎。
松陽もまた、三人それぞれの眼を真っ直ぐに見つめた。

「表面だけでは無い、もっともっと奥の部分を見ようとしなければいけません」

「……はい」

三人同時に素直に返事をする。
しかし、此れは此の三人だけではなく、凪にも言わなければ意味の無い事で。

(さて、どうしますかねぇ)

この三人の隣に凪が並ぶのは、何時になるのだろうか。
心地良い風が、縁側から吹き抜けた。