二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 学園アリス —記憶の在処— ( No.14 )
日時: 2010/11/27 23:18
名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)

棗達を中等部の設定にしたので、じゃぁ蜜柑達もと安易に決定しました。日下はイメージ的に高校生かな。遅生まれって事で。
柚香さんの登場予定は無いです。でも、あくまで予定なので、もしかしたら登場させるかも・・・。


第四話 —決意—

蜜柑の失踪から早くも二年の月日が流れ、棗達初等部B組の面々は、中等部に進学を果たしていた。
あれから蜜柑の行方不明は生徒達にも公表され、一時期学園内の噂の的になっていた。流された噂の大部分は中傷めいたモノであり、棗達が幾ら否定してもその数は一向に減らず、それどころか庇うほどに疑いの眼差しが集まるばかりだった。二年経ち、表面的には落ち着きを取り戻しつつあるが、疑いや悪意の視線は今もまだ残っていた。そんな中でも明るさを失わないのは、蜜柑と過ごした思い出が支えになっているからだった。

中等部A組の教室は、自習という事も有ってか騒がしく、監視役の副担任はその役を放棄したように、隅で泣き崩れていた。唯一この騒がしさを沈める事が出来るであろう棗は、一番後ろの席で流架と共にその光景を眺めている。

「棗、止めなくていいの?」
「やらせとけ。」

流石に副担任が哀れに思え、流架は棗に問いかけた。しかし棗は興味がないのか、制止の言葉すらも掛けはしない。流架も そう と言うだけで、膝に座らせている兎と遊びはじめた。

「ちょっとあんた達五月蝿いんだけど。」

突然後ろから声が響き、それまでの騒々しさが嘘のように教室は静寂に包まれた。全員の視線が、後ろのドアに向けられ、流架は あ と声を漏らした。

「騒がしいわ。廊下まで聞こえるってどうなの?」
「今井終わったのか?」
「えぇ、さっき。久しぶりに来てみたけど、あんた達初等部の頃と変わってないんじゃないの?」

教室中から注目を浴びている蛍は、当然のように流架の隣に腰を下ろし、呆れた顔を全員に向けた。向けられた生徒達は、蛇に睨まれた蛙の如く畏縮し自分たちの席にすごすごと戻っていく。

「流石今井。」

流架が感心したように呟いた時、今度は前のドアが開き担任教師である鳴海が入ってきた。副担任は救世主とばかりに鳴海に縋りつき、生徒達はそれを蔑んだ目で見ている。

「棗君。お呼びが掛かっちゃった・・・。」

いつもの様に戯けた仕草で話す鳴海を睨んでから、棗は席を立ち教室から出て行く。その後を流架と蛍が着いて出て行った。

「ごめんね、棗君・・・・」

鳴海は哀しそうに呟いてから、後の事を副担任に任せ入ってきたばかりのドアから出て行った。残された副担任の悲痛な叫び声に苦笑を漏らしながら。


「棗・・・大丈夫?」

あの時から棗は以前にも増して積極的に任務へ赴いていた。その理由は二人も解っている。
蜜柑を探すため。鳴海からZが蜜柑を誘拐したのかもしれないと情報を貰ってから、三人はそれぞれのやり方で蜜柑を探していた。蛍は、世界各国の大富豪達から。流架は動物たちから。そして、棗は任務を受け外に行く事で、蜜柑を探した。Zと戦う事もある棗は、接触する事で少しでも多く情報を得ようと、危険な任務にも自ら受ける。
それが二人には不安だった。あの時、蜜柑が攫われた原因に成った棗はずっと自分を責めた。外に行けと自分が言ったからだと。直接では無いにしろ、自分があの時言わなければこんな事には成らなかったと。流架や蛍が違うと何度否定をしても、棗は自分を責め続けた。今もまだ自分の責任だと思っている棗は、例え自分の命を賭けてでも蜜柑を取り戻そうとする。それが好きな相手なら尚更。

「棗・・・」
「俺は大丈夫だ。心配するな流架。」

蜜柑が攫われてから棗は、全くと言っていいほど笑わなくなっていた。この学園に来た当初でも、流架に対しては時々笑いかけていたが、今はそれすらもなくなり、初等部の頃よりも目が荒んでいる気がしてた。

「なつ・・・・」
「じぁな流架。行ってくる。」

棗は流架の言葉を遮ると、ペルソナの待つ部屋へ走っていた。

「今は・・・棗君を信じて待ちましょう。私達にはそれしか出来ないわ。」
「今井・・・・」

不安そうな流架の手を、蛍が包み込む。

蜜柑が行方不明と知った時蛍は大泣きした。今まで泣き顔など一切見せずに凛としていた蛍が、流架の腕の中で声を噛み殺しながら泣き続ける。蛍の涙を止める術も知らず、ただ安心するように抱きしめるしかなかった。
苦しい時思い切り泣けない辛さを、大切な人を失う辛さを流架は知っている。葵を失った棗をずっと見てきた。学園のせいで離れ離れにされ、牢獄のようなこの学園に入れられた。光さえも見失うほど深い闇の中でも棗は泣かなかった。弱音すらも吐かず、自分と葵の為学園の中で過ごす日々。そんな棗の隣に黙って居続ける事しか出来ず、傷は深まるばかりだった。
だからこそ、蛍には泣いて欲しかった。自分たちはまだ子供で、大声を出しながら泣いても許されるはずなのだから。しかし蛍は苦しそうに泣くだけで、自分はこうして抱きしめるしかできない。それが悔しく、歯痒かった。
そして、蜜柑を誘拐したのがZだと情報を受けると、蛍は流架に言った。蜜柑を見つけるまではもう泣かないと。その為なら、どんな苦しみも耐え抜くと。流架はそう言った蛍が強く思えたと同時に哀しく見えた。なら、自分はそんな二人を護ろう。他人のためなら、容易く自分を犠牲にしてしまう大切な二人を。そして、悲しくて仕方がない気持ちを一生懸命隠し、精一杯強がっているこの少女を。自分の全てを賭けて護ろう。そう伝えた流架に、蛍は『馬鹿ね』と言って微笑んだ。


「流架?」

心配そうに見つめてくる蛍に、大丈夫と笑いかける。それでも、まだ心配そうな顔を浮かべる蛍が堪らなく愛おしく想う。

「大丈夫だよ。俺は大丈夫だ。」

きっと、今まで以上の苦しみも悲しみも訪れる。でも、隣で心配してくれる大切な人をその全てから護りたい。これからも、大切な仲間と大切な人と変わらず笑いたいから。それを護れるだけの力が欲しい。

蛍に握られた手を強く握りしめた。
新たな決意を込めて。


つづく


棗君視点にしようと思って書いていたら、いつの間にか流架君に・・・・恐るべし乃木流架。。。。
でも、やってみると流架君の方がさくさく進みますね。棗君は感情が掴みにくい・・・・・。
次回は、やっとあの人の活躍を書けます!!やったよ。