二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 学園アリス —記憶の在処— ( No.31 )
日時: 2010/12/05 18:08
名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)


第九話 —声—

「僕は飛田祐。このクラスの委員長なんだ。分からない事があったら何でも聞いてね。」
「ありがとう飛田君。」

伸ばされた飛田の手を零那は笑顔を作り、握った。
鳴海は零那達の紹介が終わると、高らかに笑いながら軽い足取りでその場を後にした。残されたA組の生徒達は我先にと零那達に質問を投げつけようとしたが、まず委員長が挨拶するのが礼儀というパーマの計らいで、何とか質問攻めには発展せずにすんだのだ。

「このクラスは何かと騒がしいけど、みんないい人達なんだ。」

人のよい笑顔を向けられ、彼方は気付かれないように舌打ちをする。

「委員長の挨拶はそれ位で良いでしょ?」

飛田の背後から聞こえた高飛車な声に三人は顔を少し歪めた。

「私は正田スミレ。ダブルよ。あなた達のアリスと星階級は?」

押しのけるように前へ出て来たスミレは、自信と誇り、そして好奇心を含んだ顔で三人を判定するかのように見つめる。

「星階級って?」
「鳴海先生に言われなかったの?」

馬鹿にした目で李麻を見るスミレを彼方が鋭い殺気を向ける。

「五月蝿いね、あんた。どっかの馬鹿と良い勝負。」
「な・・・・!!」
「彼方!!!・・・ごめんなさい正田さん。私達三人はダブルって言われたわ。私のアリスは結界で、彼のは創造のアリスって言うの。彼女のは言霊ね。私達先生に呼ばれているから行かなきゃ。」

スミレと彼方の間に割って入った零那は、まくし立てるように説明をすると、慌てて案内役を買って出た飛田に謝罪し、彼方を引っ張るように教室から出て行った。

「正田さん何もあんな言い方しなくても。」
「仕様がないでしょ。だって・・・・・。」
「気に入らないわね。」
「今井さん?」

全くの予想外の場所から声が聞こえ、スミレは飛田から発信源であり自分の台詞を取った蛍に視線を変える。

「あの人達気に入らないわ。特に零那って子。私達の事気にも入れてないわよ。」
「そんな・・・きっと、転校して来たばっかりで緊張してるんだよ。」
「俺も今井に同感だ。」
「流架君・・・。」
「零那って子のことはよく分からないけど・・・・彼方って奴の方は明らかに俺たちとは違う気がするんだ。何だか・・・危険な感じがする。・・・棗はどう思う?」

いつになく強い口調で批判する流架に正田達だけでなく、蛍も目を見張った。ここまで確信じみた言葉で相手を、しかもよく知らない赤の他人を強く否定などしない流架が危険だと判断し、棗に意見を仰ぐ。流架が質問を振った棗に自然と全員が意識を向ける。棗が出す答えを待ち焦がれるかのように、押し黙った。

「・・・俺は・・・流架の意見に同感する。あいつは・・・俺と同じ匂いがする。」
「それって・・・・」

流架の声は波紋のように教室の中に広がった。
棗の言葉の意味を流架と蛍は嫌と言うほど分かっている。何かしらの戦闘訓練を受けた者ということを表しており、それは一般人が必要としないモノの類である。つまり、三人少なくとも彼方は、戦い慣れた戦闘員だと棗は感じたという事。

「やっぱり、気にくわないわ。」

蛍の雰囲気に、もう誰も彼らを庇う言葉を言う者は居なかった。



誰も居ない廊下に零那は彼方を引きずりながら連れてきた。最初は暴れていた彼方も零那の一喝で大人しくなり、されるがままに引きずられていた。

「何考えてるの貴方は!!!!」

零那は人がいないのを確認してから思いっきり怒鳴る。彼方はもちろん、隣にいた李麻すらもその迫力に圧倒されていた。

「私達の任務は最低一週間学園内に潜入し情報を得る事です。なのに、なに最初から険悪な雰囲気を作って居るんです!!!!任務を失敗させる気ですか!!」
「・・・零那・・・落ち着いて・・・・怒るの・・・怖い・・・・。」

彼方を庇うように零那を宥める李麻に、落ち着きを取り戻した零那が小さく謝罪する。

「・・・俺はただ、李麻を護りたかっただけだ・・・。」

言い訳する彼方に零那は少しだけ優しい目を向けたがすぐ呆れを混ぜた顔でため息を吐く。

「・・・貴方は、李麻の事になると冷静でいられないんですね。」
「・・・・五月蝿い・・・。」
「貴方のそんなところは好きですが、時と場合を考えるように。そうしなければ、護りたい者も護れなくなりますよ。」
「・・・分かってる・・・。」
「なら結構。」

先程の迫力が嘘のような零那の穏やかな笑顔を見て、李麻は小さく笑いを漏らす。

「あれぇ〜玲奈ちゃん達?」

いつの間にか彼方の後方から鳴海が手を振りながら歩いてきていた。

「鳴海先生・・・。」
「こんな所で授業サボって何してるの?」
「あ・・・いえ・・その・・。」

『蜜柑ちゃんのおかげだ・・・』

「え・・・・・」

突然聞こえた声に零那は頭が真っ白になっていった。

『ようこそ。アリス学園へ。』
『仮入学試験合格。おめでとう』
『心配しないで。何があろうと君は僕が絶対守るから』

誰・・・・?

『大丈夫。』
『一緒に外の世界に逃げよう。』

誰なの!!!!

「零那・・・?零那!!!!」

次々に聞こえる声に耐えきれなくなり、零那はその場に倒れた。

つづく


今回はいつもより短いです。すみません。
何故か予定より展開が速いような気がしてきました。なんで?????