二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 学園アリス —記憶の在処— ( No.36 )
- 日時: 2010/12/07 20:52
- 名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)
第十一話 —疑い—
よく晴れた朝。三人は通学路である街路樹の中を校舎へ向かい歩いていた。
玲奈が倒れた次の日には彼方も李麻も何事もなかったかのように零那に接していた。
あの時二人が見せた表情の事を零那は気に掛かっていたが、聞き出せないまま二人は与えられた自室に戻ってしまった。釈然としないモノはあったが、零那自身全てを包み隠さず二人に話しているとは言えず、二人が隠している何かについては言及しない事に決め、その日は眠りに就いた。
「零那・・・・平気・・・・?」
朝顔を合わせた時李麻はいつも以上に零那のことを気に掛けた。初めて零那に会った時以来、常に零那の心配をし気を回していた李麻が、ここ数日の間に二度も倒れる零那を見て、しかもその原因となっている学園に潜入している零那と彼方を心配しないわけがない。
李麻は普段全くと言っていいほど、気持ちを表に出さず、言葉を使わない。それは自分のアリスも関係するが、しかしだからといって心配しないわけではない。寧ろ相手の気持ちや考えが本人よりも正確に分かってしまうため、仲間である彼方や零那のことを人一倍気にした居るのだ。
「平気よ。大丈夫、ありがとう李麻。」
「なら・・・いいよ・・・・。」
大丈夫と言っても李麻は納得しない。強がっている事を知っているから。しかし、それでも『大丈夫』と言う零那にそれ以上追及しては来ない。零那にとってそれは有難かったが、少なからず傷つけてしまう事に罪悪感が増してくる。
「二人とも何してんの。遅刻したら零那のせいだからね。」
「ごめんなさい、今行くわ。李麻行きましょう。」
先を歩く彼方が遅い二人に振り向き、不満を漏らしながらも門の前で待っている。その優しさに嬉しくなりつつも、憎まれ口を叩く彼方に苦笑しながら李麻の手を引く。
「でも、一緒に話していた李麻はお咎めなしなの?」
「そうゆう分けじゃないよ。けど、俺が見た限りじゃ零那の話を李麻が聞かされていた風にしか見えなかったからね。」
「あらら、見抜かれちゃってたわけね。そう言えばあなたって李麻を叱った事無いでしょ?」
「無い訳ないじゃん。」
「本当に?」
「俺だって過保護って訳じゃないからね。李麻が危険な真似したら怒るよ。」
過保護でしょ と言う零那の言葉は、彼方の鋭い睨みによって飲み込まれた。
中等部校舎の二階に位置しているA組の教室に着いた零那達は廊下まで響く室内の声に呆れながらも教室の扉を開けた。すると、騒がしさから一変教室内は静けさと、異様な雰囲気が漂う。生徒全員が初日とは違い明らかに警戒した目で三人を見つめる。零那が目を向ければ逸らし何食わぬ顔で席に着く。ただ、棗だけが彼方を鋭い目付きで睨んでいた。
「は〜い。授業を始めますよ〜。」
相変わらずの空気を読まない鳴海の声ですっかり緊迫した空気が一気に緩む。
「零那ちゃん達も速く座ってね。」
促されるまま窓際を選び三人は並んで座る。
「はいは〜い。今日は親睦も含めドッヂボールを行いたいと思います。」
鳴海の提案にそこかしこからヤジが飛ぶ。それを、アリスを使い沈めた鳴海は、満面の笑みを生徒達に向けた。
「それじゃあ、校庭に集合してね。あっと、零那ちゃん達。」
鳴海は大人しく移動しようとした三人を呼び止め、屈んだ。声を落とし三人にしか聞こえないよう注意をはかる。
「何企んでるか知らないけど、好き勝手しないでね。」
驚いたように見つめる零那に、笑顔を崩さない鳴海は立ち上がり三人を見下ろした。
「僕の大事な生徒。怪我させたら幾ら君たちでも許さないよ。」
「許さないならどうするの?」
負けじと張り合う零那に、う〜と考える仕草を見せてから鳴海はぽんと手を打つ。
「君たちをアリスでメロメロにしてから、洗いざらい吐いて貰うことにしようか。」
「それは怖いわね。でも残念でした。企んでますって素直に言う子はいないわよ。」
「いや・・・居るよ・・・。」
「えっ・・・・・。」
「とっても素直で真っ直ぐな子が・・・。一人居たんだ。」
辛そうに言う鳴海は、直ぐいつものように笑顔に戻った。
「だからね。危ない事はなしだよ。」
そうウィンクを付けて、鳴海はいい逃げした。
「何だったの?」
零那の問いに彼方は、肩を上げる仕草で答えた。
「一応釘は刺したつもりだよ。」
鳴海は教室を出るや否や棗達に捕まり、校庭までの道のりを歩いている。
「あいつら何者だ。」
「それは分からないけど、少なくとも味方ではないね。」
「Zの奴らなのかな?」
「口ぶりからすると可能性はあるわね。けど・・・。」
「こんなことする意図が分からない。」
鳴海の言葉に蛍は頷く。
「可能性的には情報収集かしら?」
「スパイってこと?」
「飽くまで可能性よ。Zの奴らならやりそうじゃない?でも、何にせよ危害を及ぼすなら手加減はしないわ。」
不敵に笑う蛍を流架と鳴海は、Zよりも恐ろしさを感じた。
「スパイね・・・・あの子頭は悪くないようね。」
「バレた。」
「薄々と言った所ね。はっきりと確信は持てないって感じよ。」
棗達の後ろ姿を零那はくすくす笑いながら眺める。
「っかし、今回は超聴覚かよ・・・一体アリスストーン何個持ってんの?」
「今回は特別よ。不測の事態に備えて・・ね。」
彼方はため息を吐き、零那から棗達へと視線を移した。
「あいつらにバレたってこと、玲生には伝えた?」
「とっくに。彼方が馬鹿した時から疑われていたのは分かってたから、夜の内にしといたわ。」
「で、あの人は何て?」
「『任務継続。状況により決行日を早める。』だって。何かあれば連絡あるはずよ。」
零那はにっこりと笑った。
「楽しそうだね。」
「えぇ、嬉しいわ。学園に報復できる日がやっと来るんですもの。」
「あっそ。」
彼方は棗達から目を離し、李麻の手を握りしめ、安心できるように微笑んだ。
つづく