二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 学園アリス —記憶の在処— ( No.42 )
- 日時: 2010/12/11 21:25
- 名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)
時間が飛びます。
前回から一日経って、夜です。
第十三話 —決戦前夜—
そこには暗闇の中にモニターの光で男の影が映し出されていた。椅子に座り、画面を見つめている。
「ボス。」
呼ばれた声に『彼』は憂鬱そうに顔だけを部屋に入ってきたレオに向ける。その表情は逆行により判別できず、玲生は眉をひそめた。
「どうした。玲生。」
「何故、零那を学園向かわせたんですか。」
「理由が知りたいと?」
『彼』の声が部屋に響く。それは、楽しんでいるようにも試しているようにも聞こえる。気圧されながらも、玲生は『彼』を真っ直ぐに見据える。
「知っているでしょう。零那_いえ、佐倉蜜柑は学園に強い想いがある。前にも日向棗に接触した事で記憶が戻りかけた。幸いその時はレイズが間に合い事なきを得ましたが、学園となればレイズでも簡単には処理できません。」
「あいつを学園に侵入させるべきでなかった、と?」
「もしまた記憶が戻るような事態になりでもしたら、作戦全てに支障が出るかもしれません。それなのに何故です。この大事な時に不確定要素である佐倉蜜柑を関わらせるんですか。」
「・・・分からないのか?この時だからだよ玲生。」
「この時だから・・・・?どう言う意味ですか。」
「すぐ、分かるさ。」
『彼』の言っている意味が分からず聞き返した玲生に『彼』は楽しそうに笑い、モニターに映し出されている零那へと目を戻した。
玲生からの連絡を受け、零那達は各自準備を進めている。と言っても学園内での行動は限られており、目立たないよう最低限の準備しかできない状況に、零那は少なからず焦りを覚えていた。
「大丈夫・・・・?」
「心配しないで。私は大丈夫よ。」
ぎこちなく微笑む零那を心配そうに見つめる李麻。その二人を彼方は、窓に寄りかかりながら見つめていた。
ノックの音が聞こえ、三人は素早く部屋を整えた。
「誰?」
「今井よ。開けてくれるかしら?」
緊張が向こうに伝わらないように注意しながら聞こえるように声を出すと、予想外の人物の声がした。警戒しながらも、ここで追い返すのは為にならならいと判断し、零那は蛍を招き入れた。
「何か用?」
「話をしに来たの。」
「一人で?一緒にいた彼らは?」
「女の部屋に男を連れてくるわけ無いでしょ。」
「一度、疑いをかけた人物なのに?」
意外にも落ち着いている蛍に、零那は驚く。もちろん悟られないように内心でだが。
「勘違いしないで。今も信用していないから。」
「残念。」
「・・・馬鹿に付き合う気はないの。間接に答えてくれる?あなた達はZの人間?」
挑発とも取れる蛍の言葉に零那は一瞬考える。
「・・・だとしたら、どうするの?」
「もしあなた達がZなら、聞きたい事があるの。」
「何?」
「・・・・・佐倉蜜柑という少女を知らない?若しくは毛利零那でもいいわ。」
零那達の反応を伺うように蛍は三人を見つめる。
零那の手が少し震えているのを李麻は感じた。蛍が『蜜柑』と口にした途端に懐かしく切ない気持ちに駆られる。何かを口走ってしまうのを押し殺した。
「わ・・・」
「知らないよ。例え知っていても、あんたに話す理由がない。」
零那が答えようとした時彼方が割り込み、蛍を睨む。李麻が後ろで悲しそうに俯くのを、蛍は見逃さなかった。
「・・・・そう。ならいいわ。邪魔して悪かったわね。」
蛍は簡単に引き下がった。扉の奥に消えていく蛍に対し、零那は不思議な気持ちで見送る。
ドアが完全に閉まり蛍の気配が消えると、力が向けたように零那が座り込む。体が震え、蛍を追いかけたい衝動を全身全霊で押さえ込む。それでも涙が溢れてきた。止めどなく流れる涙を不思議に思いながらも、止める術を零那は持っていない。李麻と彼方もただ流しきるのを待つしかない。
「ごめ・・・・ね・・・。わか・・・・な・・・くて。ご・・・め・・・・ん。」
途切れ途切れに紡がれる謝罪は、痛々しいほど切なく響く。背中をさすりながら李麻は何度も首を振り、悪くないと訴える。
「どう・・・・して・・・こんな・・・切ないの・・・・。」
零那の呟きに似たか細い声が届いた李麻の顔は、悲しそうに歪んでいた。
「どうだった?」
「繋がっている可能性は大きいわ。Zって見た方が良さそうね。蜜柑の事も聞き出せたらよかったけど、流石にガードが堅いわ。」
いつものように棗の部屋に集まった流架達に、蛍は悔しそうに報告する。
「こっちもだ。それとなく聞いてみたんだが、なかなかしっぽを出さない。」
「お手上げってこと?」
流架が翼に聞くと、翼は肩をすくめる。
「情報が足りないからな。鎌かけるにしても、相手の出方が分からないんじゃしょうがねぇ。」
「・・・零那って子。蜜柑の名前を出したら動揺してたわ。何か関係してるのかしら。」
「そう言えば、棗が佐倉にあった時零那って名乗ってたんだろ?同一人物の可能性は?」
「低いわね。連中が易々と学園に蜜柑を連れて来るとは考えにくいわ。暗示を掛けているなら尚更解きやすくする場所に連れて来る?」
「可能性はある。Zの奴らが学園で何か事を起こすなら蜜柑を連れてきても不思議じゃない。」
棗の言い分に蛍は納得できないと首を振る。
「だけど、奴らは蜜柑の暗示が解けるのを嫌がって居るんでしょ?なら・・・・。」
「レイズは『まだ』と言っていた。もしかしたら・・・。」
「木城零那が蜜柑って事?」
「分からない・・・?」
疑問は増えるばかりで、解決しない。そのことが棗達は悔しかった。
つづく
やっとここまで来ました。
次回は、作戦決行です。