二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- ☆参照500突破!! “冬の温泉旅行記” ( No.119 )
- 日時: 2011/04/03 17:04
- 名前: 凪 (ID: M8vlMd6.)
第一章 悲劇
(2)後半
「きれいでしょう?冬になると一層美しくなるんです」
橋田は微笑んだ。微笑んだが—すぐに元の顔に戻った。
「では女将を連れてまいりますので、その間ごゆくりとお過ごし下さ
い」
林田は、そう言うなりさっさと部屋を出て行った。
*
晴香と八雲は林田が部屋を出ていくとくつろぎ始めた。
「まさか八雲君がお母さんに頼まれたことを承諾するなんて思ってもい
なかった」
晴香はさっそくソファーに深く座り、外の景色を見ていた。いつ見ても
見とれてしまう景色だ。
「君の母親に借りがあるからな」
八雲は晴香の向かい側の壁にもたれながら腕組みをして「ふぅ」とため
息をつく。
「借り?」
「あぁ…僕と君がログハウスにいる時助けてくれたのが君の母親だ
ろ?」
「そう…ね」
あれは本当にやばかった、と晴香は思う。八雲は椅子に手足を縛られ
ぐったりとしているし、両目の赤い男が来るし、幽霊となって現れた
梓さんが助けてくれたけれど八雲は気を失っていて。そこに晴香の母親
—恵子が来て病院へ。
あの時、母親と一緒に来ていなければどうなっていたか—。
「で、私のお母さんにどんなことを頼まれたの?」
「一週間前くらいに手紙がきた。自分の友達に“すごく悩んでいること
があるから助けてもらえないか”って頼まれたらしい。それで詳しく
内容を聞いたら、こういうのは僕の方が向いていると気づき、手紙を送
ってきた。旅館はもうすでに一カ月まえから取ってあったらしい」
八雲はそう言うとジーパンのポケットから一通の封筒を取り出し、机に
置いた。晴香はその封筒を受け取り、中身を取り出した。すると一枚の
紙が入っている。晴香は紙を広げた。確かに、これは母親の字。
「…君と君の母親は本当に似ているな」
八雲は口を手であてて急にクスクスと笑いだす。
晴香は分からなかった。まぁ…普通、親と子が似ているのは当然のこ
と。しかし、どういうところが—
「私とお母さんが?どういうところ?」
別に自分と母親が似ている、と言われるのが嫌いではないが少々気にな
っただけのこと。
「人からいろいろと頼まれるとついついすぐに承諾してしまう癖だ。
決して悪いことではないが—結局僕に回って来る」
八雲は嫌そうに頭をかき回した。
これは一度だけではなかった。友達に幽霊関係の事を相談されて結局
八雲のところに行く。そして「今日は何のトラブルだ」と聞かれる。
これが繰り返し。
—私は普通に八雲と会いたいのに。
「—それで一匹トラブルメーカーなおまけが付いてくる。今日は
借りを返すためにここに来ているんだ。別に君と違ってうかれて温泉
に入るために来たわけじゃない」
八雲はますます不機嫌になる。さっきまで眠たそうにしていた本人が
よくいう。それに、トラブルメーカーなおまけとはなんだ!しかも“お
まけ”って—。
晴香はぷくぅと頬をふくらました。
「それでお母さんの友達って—?」
でも気になる。お母さんは私に話してくれなかったんだから。
「おそらく、ここの女将だな」
「えっ?」
それも聞いていない。晴香は首をかしげた。
「なんだ?君は聞いていなかったのか?」
八雲は、あ然とした様子。八雲は手紙で内容を知ったが、晴香は何も知
らない。ただ行く前に八雲から「君の母親から頼まれたことがある。君
の母親の友達の話を聞くだけ…だが」と聞かされてついてきただけ。
でも母親がこの旅館の女将と友達、っていうのはどこで知ったんだ?
「聞いて—ない…」
晴香はそう言った。すると八雲はしばらく何も答えず、しばらくたった
ら二ヤッと笑って「なるほどね」と呟いた。その声は晴香の耳にしっか
りと届いていた。
「なるほどね、って何!?」
晴香は気づいた。
いつのまにか晴香は勢いよくソファーから立ちあがっていた。それと自
分でも気付かないほど大きな声で口にしたことに。
「そんなに大きな声をだすな。十分聞こえるよ」
予想通り。八雲は耳に指を突っ込んでいる。しかも八雲は質問に答える
様子は一切伺えない。晴香の苛立ちはピークを迎えているに違いない。
晴香は黙ってソファーに座った。後で母親に電話で聞いてみよう。
くわしく。でも八雲が知っていることは全部話してもらわなければ。
「それで女将さんの悩み事って—?」
晴香は深呼吸をして自分を落ち着かせた。
まさかただ単に仕事上の悩み事はないだろう。八雲に頼んだって事は幽
霊関係の事。
「それは今から聞くんだろ」
八雲は入口のふすまの方へと移す。すると同時にピーンポーンとインタ
ーホンが鳴った。八雲が「開けろ」と訴えるような目で晴香を見た。
—開けりゃあいいんでしょ。分かりましたよ。
人をコキ扱いして。あとで絶対ぶっ飛ばす!!
晴香は「はぁ」とため息をつくとソファーから立ち上がり、ふすまの方
へと行って玄関の方に行き、ドアを開けた。
すると一人の男と一人の女が立っていた。
続く
★あ と が き★
皆さんは分かったでしょうか?
晴香が八雲に向かって「話を聞いていない」と言った後、八雲が「なるほどね」と呟いた理由。分かる人は分かりますよね??