二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: .それでも地球は廻る 魂魂×SPEC ( No.13 )
- 日時: 2011/03/07 04:31
- 名前: 如月葵 ◆iYEpEVPG4g (ID: 4uYyw8Dk)
- 参照: 真実に向かってひた走れ
銀時視線
電子音がぴぴぴと脳内を揺らす。薄っすらと目を開けると、ぼやけた視界が其処には在った。
手を伸ばして切り替えのスイッチを押そうとすると、時計の位置は分からないばかりかアラームのリズムの間隔が狭まっていき、同時に音量も増した。ちくしょう俺はまだ寝ていたい、休日くらい別に良いじゃあないのと心で言うが、むしろ毎日が休日でしょうあんたと言われると言い返す言葉は無い。
さて、若干ニートみたいな物言いになってしまったが断じて俺はそんなんじゃあ無い。だって銀さんちゃんと働いてるし!家あるし収入あるもん!…突っ込みどころはお察しください。
のそりと上半身を上げて目覚まし時計を止めた。そしてまた暖かい布団に帰ろうとすると、居間の方から物音がするのに気付く。
寝巻きのまま障子を開けると、その人物の正体は紗綾だと気付いて一安心。ほっと胸を撫で下ろした。
「…はよーございます。てか生きてますか?死者の国から生還してきたゾンビみたいな顔しないで下さい。」
銀時の目に映ったのは、見慣れた炊飯器と茶瓶とお椀。ほかほかと今炊き立てですよとも言うように、湯柱が立っている。そして何処から持ってきたのかは分からないが、紗綾の右手にはしっかりとたまごふりかけと瓶入りのりつくだにが、左手には大量の蜂蜜の入った容器が握られていた。
「え、ちょっと何してくれてんのォォ!?人んちのもん勝手に持ち出して使っちゃいけないってお母さんに教わりませんでした?!お前緑茶に蜂蜜入れて飲むの!?ああでもちょっと飲みたい!」
「飲みますか?結構イケますよ。蜂蜜茶。」
「飲む。」
「飲むのかよ。」
疎ましげに紗綾が視線を返す。そうだ、こいつは出会い頭からこんな奴だったと思い返す。図々しいのも程があるからそろそろ放り出したい。俺の家でニートすんな浮浪者になれ。沸々と怒りが込み上げて来た。「お前なあ、」と切り出したところでご飯が冷めちゃいますよと言葉を遮られた。
「そういや銀さんパートとか雇ってないんですか。」
「銀さんの言葉完全無視?パートねえ、新八と神楽居るし特に募集はしておりま…」
「してるんですよね。」
「だからしてないって。」
「してるんですよね。」
全く聞く耳を持たない、と言うか既にただの押し付けだ。かちかちと箸で茶碗をを紗綾が鳴らす。
「何、そんなに銀さんのところでお世話になりたいの。」
「そうですね、強いて言うなら使えるつては最大限利用してやろうかと。」
「わーぶっちゃけちゃったよこの人ー。」
「…正直本当のことを世間に告げても信用される気はしないし、私としては得策を練ったつもりです。」
紗綾が伏せがちに顔を歪めた。図々しいんだが肝が据わってるんだか、と思った。思い返せば怪しいし、警察だというのも言葉にしただけで信憑性は無い。暗い色をちらつかせる紗綾は酷く不安定だった。だから。
(銀さん実は良い子だからね。ちょーやさしーもんね。)
何にせよあの2人を放っておいたらろくな事にならない気がする。1度関わったのだから、来る物は拒まずとの言葉通り最後まで面倒見てやろう、と。なんだかこんな優しい自分今まで見た事あったっけと思い返す。でもそんな気分なのだ。
「私、言っておきますけどなーんにも分からないんで。はた迷惑な話だと、思いますかね。」
「あーあー、本当に。」
紗綾はそれっきり一言も喋らなくなった。
茶碗を片手にご飯を流し込む姿を見ていると、自分も腹が減って来て、席に着いた。
***
紗綾視線
そう言えば、銀さんはやけに私たちのことを詮索しない、と思っていた。最初に言われた、何者だという言葉以外は身元を明かしていないし、十分警戒するのには値する筈だと思うのだが。
眠れなくて何回も同じようなことを考えた。そのうち日が差し込んできて、朝だと気付く。
おぼつかない足取りで食べ物は無いかと周辺を探ると、米俵が幾つかと調味料、冷蔵庫には豆腐と卵が肩を並べて入っていた。戸棚には大量の酢昆布が入っているという衝撃的な事実を発見してしまったのだが、見なかったことにしておこう。
それだけで十分と米を洗ってスピード炊飯というボタンを押した。なんとも便利な世の中になったものだ。
持参していた赤いキャリーバックは、私と共にこの世界に来た。その内側のポケットを探って愛用ご飯のお供を取り出す。果たしてそれが一般的なものかという事は疑問だが、テーブルの上でひじを付いて待っていると、程なくしてご飯が炊けた。
「ってか玉子ふりかけタルタルソース乗せのりつくだに混ぜご飯バカうまー…。」
箸を片手に幾時ぶりの食事に思わず口元が緩む。炊飯器はほかほかとしていて丁度暖かかった。思いつく物全てを乗せた茶碗はある意味グロテスク。てか普通にグロい。でもゲテモノは美味しいって良く言うじゃない。
瀬文さんはまだ寝ているだろうし、早朝だから別に誰かにとやかく咎められる事も無い。面倒があるとすればこの後食事代を請求されるかされないかと言う部分だけである、そう思って緑茶に蜂蜜を注いだ時だった。
ぱしーん、と勢い良く障子が開けられる。驚いて目を丸くする。銀色が目に映ったことから、それは銀時だと分かった。
案の定怒られた。人の家のもんを使うなと。若干瀬文さんとのやりとりが思い浮かぶ。デジャヴというやつだろうか。
膨れっ面で文句を飛ばすと、いかんいかん本来の目的を忘れるところだったと思い出す。
結論出したのはこのまま少しの間万事屋にお世話になってもらう事だった。けれど少しと言ってもどれ位になるのか、分からないと。
信用される気は無い。普通に見ちゃただのいかれてる妄想女だ。だから告げない、そんなもの、ただの細い糸でしかないのだから。
隣に座った銀さんはまるでなーんにも興味が無いように宙を見つめていた。それを横目で見ていると、案外気を重くしないでも良いのかも知れないと感じた。私の苦労は何だったんですかと気疲れする程。
ぽとりと銀さんの箸からゆで卵の欠片が滑り落ちた。私が声を掛けると下を見て、「3秒ルールだからいーんだよ」と言いながらそれを拾った。
「馬鹿みたいですね。…銀さんにバカって言うの何回目だろ。」
「お前それ絶対性質わりぃぞ。」
「そーすか。昔から良く言われますよう。」
ふふ、と笑みを零す。なんだかもうどうにでも良い気分になった、そう嬉しさを孕む感情に戸惑った。