二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: .それでも地球は廻る 魂魂×SPEC ( No.15 )
- 日時: 2011/03/18 00:46
- 名前: 如月葵 ◆iYEpEVPG4g (ID: 4uYyw8Dk)
- 参照: 課せられた命の意味 自らの存在 それだけが証なの
暖かい日差しが眩しい程だった。そんな昼下がり、紗綾はとある書物庫、と言うよりは本屋を訪れていた。国を知るなら本を、道を知るのも本を。真実は書物に頼ること。中学生の時の担任の言葉。良く言ったものだ。本なんて嘘を語るのにとても易しいもの、信じられるのは自分が他人の嘘と真実の境目の感情を確かめた時だけ。私はそう思う。
—まあ、その担任教えどおりに来ているのだが。
「サルでも出来る3分クッキング…違うか。極妻の一生・・・あれ18禁。こういうの一般のとこに忘れる奴がいるから子供達は間違った道に進むんだよねえ。貴方の隠れた才能を見つけよう!It isポジディプ思考!・・・何これ。しかもサラリーマン推奨ってどんだけ社会人悩んでるんだよ。」
これも違う、あれも違うと本の題名を見ては目を飛ばしていく。見慣れた文字ばかりで、紗綾が興味を示す物など未だ見つかってはいなかった。カバーの付いた文庫本や、漫画、雑誌、その他現代を象徴する物は幾らでも見当たった。そのすぐ隣にはいかにも江戸といった風貌な墨で描かれた表紙もあるのだから驚きだ。表面をなぞる指が動きを止めたと思えば、紗綾はそのタイトルに目を釘付けにした。
「現代社会大江戸記。」
これだ。と手に取る。何年も放置されていたのか、埃が舞い上がって咳き込む。緑の枠にすすけた白が写っていて、丁寧な字が印刷されていた。ぱらぱらとページを素早く捲って行く。一見何も読んでいないかに見えるが、紗綾にとっては重要な部分だけ暗記して読み上げている為それ程困難な事では無い。
それは無限の可能性を秘めていた。とても興味深い世界。淡々と綴られる年表のようなものではあったが、好奇心を煽るには十分すぎた。此処は江戸という一つの街。現代パラレル漫画だってSFファンタジー小説だって驚きだろう。
ビルだってコンビニだって立っていれば、お侍さんや番傘の付いたお団子屋から刀鍛冶まで。なんて素晴らしい世界なの!そう紗綾は胸をときめかせた。
「俺もうジャンプ買ったから帰るわー。」
最後の一頁を捲り終わった丁度その時、不意に後ろから声が掛かった。頭を面倒くさそうに掻きながら発した声は、とても気が抜けたものではあった。
「・・・ああ、随分と早かったですね。」
紗綾が言葉を返す。
「何読んでんの?まさかそれ買ってとか言うんじゃないでしょーねお母さんは許しません経済的に。」
「そんな事言いませんよ。もう覚えましたし別になくても困りゃあしないんで。」
「覚えたってお前、それ厚さ何センチの本だよ。早すぎ。光のスピードで読んだの?真面目に誰なの?」
「職業柄です。」
「何それマジ意味わかんない。」「でしょうね。」
間髪居れずに紗綾が言う。呆れ半分といったところ。まだ居たいと渋る紗綾の手を引っ掴んで帰ろうと足を進める。——その刹那。
鼓膜が破れそうな爆音と共に、砂埃が舞い上がった。
***
・・・爆弾?テロか接触で大規模なスパークしたか唯の爆弾魔かいず知れず。どちらにしろものすごーく危険な状態なのは確か。前は見えないしさっきの音のせいで方向感覚と耳も可笑しいし、それにまだ痛いくらいだ。
「坂田・・・さあーん。生きてますかー?」
返答は無い。聞こえないのも分かるが私自身無事なのだから大丈夫か。それよりも怖い事が在る。
紗綾は床に手を伸ばして位置を探った。本棚は向かって右側に丁度倒れていた。まさに間一髪、下敷きになっていたらおしまいだったなと一息ついた。
…そう言えば、銀さんって私の前に居たっけ?…あれ、後ろに居たような気が。むしろ丁度倒れてる本棚の下辺りに居たような。これ典型的な死亡フラグパターン。
「ふばわぁ!!」「うわっ!」
奇怪な声を上げて本棚の間から顔を出したのは銀髪の紛れも無いあの奴だった。もしかしてそのまま死んでたりとかしたら目覚めが悪いと心底ひやひやしたってのに。
紗綾が銀時の肩に手を掛けて本棚を押そうと手を伸ばす。支えた左腕に巻かれたギプスと包帯がぐちゃぐちゃになっていた。けれど、そんなの気にしてる場合じゃない。
「そのだらだら赤いもの垂らしてる頭大丈夫ですか?わーなんかすげえ痛そう。」
「やめてなんだかその言い方だと銀さんが頭悪いみたいになっちゃう!文章は漫画とかアニメと違って状況が試されるもんだから。」
「何訳わかんない力説してるんですかこの状況をなんとかするのが第一だと思いますが。ばーか。」
「バカって言った方がバカ!あと頭痛いんだけどつつくなァ!」
「黙れハゲ其処で圧死しても知りませんよ。ったく頭まで糖分で出来てるんじゃないですか。そんだけ喋れる元気あるんでしたら早くそっち上げて下さいよ。」
「うっせーな上がんねえもんは上がんねえもんなんだよ。お前こそ頑張って上げろ。人間死ぬ気になりゃ大抵の事は出来んだよ。」
一向に重い棚は上がる気配を見せない。痺れを切らす以前に、まだ医療関係者は来ないのかと紗綾は首を傾げた。本当この時代の警察は何をやってるんだ。
……あ、そういや自分か。
「鳥を見たことのある人間は飛べますか?」
「なんか凄いムカつく!凄いイラッとくる!凄い馬鹿にされてる気がするゥ!」
「どうでも良いんで早く下から抜け出してください。でないと銀さん、本気で危ないですよ。大体なんでこんなことになったのか分かっちゃいないし…これマジの方ですから。」
静まり返った店内に騒音が遠くから鳴り始めた。それを他所に紗綾が言った。
「お迎え来たみたいですよー。」
「縁起悪い事言うなよ…」
後は警察やら病院やらがなんとかしてくれる。紗綾がぱたりとその場に座り込む。銀時に声を掛けられて、じくじくと痛む左足首にようやく気付く。我ながら慣れない事をしたもんだと笑った。