二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

第3話 ( No.23 )
日時: 2011/08/23 23:22
名前: 雷燕 ◆bizc.dLEtA (ID: 0i4ZKgtH)

第3話 幻の潜む花畑


 森を出ると、また205番道路だが、ハクタイシティ側とは景色も随分と違う。

「レイアちゃんはコトブキシティに行くの?」
「はい。ポケセンに行った後にデパートで必要なものを買う予定です」
「そう。私はソノオタウンに用があるから、そこまで一緒に行きましょう」

 そういうことで、もう少しモミと行くことになった。トレーナーのたくさんいる岩道を下り、発電所を通り過ぎて川沿いの道を行く。すると、花のいい香りが風に乗って漂ってきた。前方に、花につつまれた町が見えてくる。ソノオタウンだ。

「凄いですね……」
 レイアが感嘆しているのを見て、モミは嬉しそうだった。
「でしょう? 大好きな町なの。せっかく来たんだから、ポケモンセンターに行った後にソノオの花畑に行くといいと思うわ。今、とってもいい時期なの。じゃあ、ここでさようならね。ありがとう、楽しかったわ」
「いえ、こちらこそ。さようなら!」
「バイバイ! また会いましょうね!」

 モミは町の入り口で曲がるようだった。
 レイアはポケモンセンターへ行き、ヒトカゲを回復させる。ヒトカゲは、ここに来るまでにたくさんバトルをしたので、疲れているが機嫌がいい様だ。そして、モミに勧められた通り花畑に行くことにした。
 町の中も花だらけなのだが、その花の合間を縫って北へ進むと、町を囲む木の間に抜け道があった。「ソノオの花畑入り口」と看板もある。木々の向こうはあまり見えないので、足を踏み入れる。

「うわ……」

 そして、言葉を失った。
 赤、青、黄色、紫と、カラフルな絨毯を敷き詰めたかのような地面。その絨毯が心地よい風にゆすられている。生まれて初めて見る、神秘的な光景だ。地平線をも埋め尽くすこの景色は、一体どこまで続いているのだろうか。見当も付かない。
 爽やかな風が運んで来る甘い香りに、心が癒される。どこか遠くから聞こえてくるポケモンの鳴き声も人の話し声も、気分の良さを伝達させようとしているようにさえ感じた。
 近くにいた人に聞けば、この花畑、一切人の手が加えられていないらしい。100%天然という訳だ。

 どこまでも花で埋め尽くされているのでそれを踏みつけることにはなるが、レイアは花畑の中へ入ってみた。裸足で歩くというのがまたいい。花と草の感触が伝わってきた。つまり花を踏み潰していたわけではあるが。少し進むと、ヒトカゲが慌ててついて来る。この絶景と香りにうっとりして、レイアが歩き出したのに気付かなかったらしい。

「きれいな場所だな、ヒトカゲ」

 ヒトカゲは興奮した様子で鳴き、力強く頷いた。

「まあ、バトルできる雰囲気じゃないけどな」

 そう言って、しばらく散歩していこうか、と考えた時、視界の隅で何かが動いたのを捉えた。ふとそちらに目を向けると、緑のかたまりとピンク色の花が向こうへ移動して行くのが見えた。
 ——シェイミ?
 その姿は、たった20cmの、あの感謝ポケモンのようだった。あの珍しいポケモンがこんな所に……と、ほぼ反射的にその姿を追った。よく見れば見るほど確信を持てる。シェイミはレイアが追ってきているのに気付いたのか、さらに急いで走る。

「ちょ、ちょっと待てよ——」

 捕って食うわけじゃないんだから、と思ったが、確かにいきなり人間が追って来たら無理無いのかもしれない。
 このシェイミ案外にすばしっこく、なかなか追いつけない。頑張って追いかけてきているヒトカゲにひのこでもしてもらえば追いつけるかも知れないが、この壮大な花畑の中でそんなことをする気にもなれない。

 そうやってシェイミを追いかけていると、前に段差が現れた。シェイミは段差を降りて、姿を消す。レイアが段差の前について下を見下ろすと、結構な高さの段差だった。もしかしたら、レイアの身長くらいあるかも知れない。
 ここを降りたのかよ、とレイアが思っていると、下でシェイミがこちらを振り返った。そして降りて来ないレイアを見て、べー、と舌を出してさらに先へ走っていった。

「ム、ムカつくな、あいつ」

 少し苦い気持ちになったが、同時に微笑ましさも感じた。生意気なくらいがかわいいものだ。
 しかしその苦々しい気持ちも微笑ましい気持ちも、それを見た瞬間にすべて吹き飛んだ。

 シェイミの群れだ。

 先ほどレイアが追った小さな生物が、ひとつにかたまって群れとなっている。レイアには見分けがつかないが、さっきの生意気なシェイミもあの中へ入っていったのだろう。
 周りの花畑の中に溶け込みながらも強く存在感を放つ感謝ポケモンの群れから、レイアはしばらく目を離すことができなかった。