二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 第4話 ( No.38 )
- 日時: 2011/12/14 15:41
- 名前: 雷燕 ◆bizc.dLEtA (ID: jrBI1rLC)
引っ張られるままに、船のデッキでバトルを始める。ルイの手持ちで分かっているのはラプラスだけだ。ラプラスとヒトカゲが戦えばこちらが負けるのは目に見えているが、ルイは他に手持ちを持っているのだろうか?
「出てきて、ミツハニー!」
ルイがそう言いながらモンスターボールから出したのは、虫タイプの中では珍しくかわいらしいあのポケモンだ。成る程、これならまだ勝算はある。
「頼んだぞヒトカゲ」
レイアは足元にいる彼に声をかけた。ヒトカゲはやる気に満ちた顔で前へ出て、ミツハニーと対峙する。今日何回目のバトルだか分からないが、疲れた様子は全く見えない。相手はミツハニーだしこれなら力任せでもいけるかな、と考える。どうやって戦うか考えるのに、こちらが疲れた。
「ミツハニー、かぜおこし!」
ルイが言って、ミツハニーはその小さな羽根を懸命に動かす。それで起きた風はポケモンという生物にまだあまり慣れていないレイアにとっては驚くべき強風だった。川に突き落とされて濡れた髪が乾いてくれるかな、とどうでも良いことを考える。
それはともかくとして、ルイはあまり戦略を立てると言うタイプではない気がするから、ゴリ押しでくるだろうか? だったら、
「ひのこ!」
こっちもゴリ押しだ。
ヒトカゲの口から飛び出された火の粉は、ミツハニーをめがけて向かっていくが、風に押されて途中で消えてしまう。当たれば効果は抜群なのだからどうやったて当てようかか考えているうちに、ヒトカゲのほうが疲れて技は途切れ、ミツハニーの風に飛ばされてしまった。うむ、パワーでは向こうに分があるか。
「ヒトカゲ、ひっかく!」
ヒトカゲは助走をつけたあと力強くデッキを蹴って、ミツハニーへ跳びかかる。
「避けて!」
ルイが言い、ミツハニーは小さくて透明な羽をはばたかせてヒトカゲの進む軌道からそれる。
「え、ちょ……」
ヒトカゲのジャンプ力はとても高く、自分の体長の2〜3倍近く跳ぶ。しかも考え無しに前方向へ斜めにジャンプしたため、落ちるときも最高地点まで前へ進んだ分さらに進む。それで落ちるであろう地点を予想してみると……。
船の外だ。
「ヒトカゲ!」
ヒトカゲはデッキの柵の向こうへ見えなくなった。すぐ後に何かが水へとび込んだ音がする。ほのおタイプのヒトカゲが海の中へ入ったりしたら……!
レイアはかるっていたリュックとモンスターボールの入っているウエストポーチを投げ捨て、柵を越えて海へダイブした。ルイの止める声など耳に入らない。
濁った緑の海水の中で目を凝らすと、微かなオレンジ色が沈んでいくのが見えた。水を吸った服が重いが、どうにか水をかいて泳ぐ。ヒトカゲの尻尾を掴んで水面へ上がる頃には、息もかなり危なかった。
水をかき分けるのに既に疲れた腕でヒトカゲを持ち上げ、水の中から出す。すると非常に弱々しくも尻尾の先に火がついたので、少し安心した。レイアも顎をぐいと押し上げて口を水面から出し、大きく息を吸い込む。
しかしコイツ何気に重い。教科書やノートがめいっぱい詰め込まれたスクールバッグ並みに重い。ヒトカゲは頭に乗せ、きついので鼻と口は海に浸かる程度に顔を浮かべてどこか陸に上がれる場所はないかと探す。すると、上からルイの声がした。
「レイアー! 大丈夫!? ヒトカゲも大丈夫!? それと服のままとび込んじゃってポケットの中とか何か入ってないの? ねえ!」
「大丈夫だから早くラプラス!!」
レイアは精一杯の大声で叫んだ。
ラプラスの背中に乗って、港へ上がる。今日2度目のびしょ濡れだ。こんなことならジャージを着替えなければ良かった……そう思っていると、船に乗る前に声をかけてくれた従業員にまた会った。
「どうしたんだ、そんなに濡れて? それに早く乗らないと搭乗時間を過ぎちまうぞ?」
「本当ですか? やば、急がないと」
ぐったりと意識を失ったままのヒトカゲを抱えたまま、船の搭乗口まで走る。風があたって寒い。ラプラスは海の中を船へ向かっていった。搭乗口ではルイが待ってくれていて、船員に事情を説明してくれていたようである。
「譲ちゃん勇気があるなあ。怪我はしねえように気をつけろよ」
そんな言葉をかけられながら船に乗り、まずは部屋に戻って生乾きのジャージへと着替えた。そして着ていた服を干し、ヒトカゲを休ませる場所が無いかを探す。
搭乗員に訊いてみると、この船は長旅をすることもあるためポケモンを回復させるための施設があり、ポケモンドクターも乗っているとのこと。そこへ案内してもらって、ポケモンドクターにヒトカゲの様子を見てもらう。
「水に濡れたせいで体温が下がって衰弱してるけれど、暖かくして休んでいればよくなるでしょう」
「そうですか、良かった……。ありがとうございます」
「いいえ。それより君もそんな無茶して、風邪引かないようにね」
「はい」
苦笑いしながら答えた。
ルイと一緒に雑談をしながら待ちしばらくするとヒトカゲも元気がよくなって、毛布に包まってじっとしているのが苦痛になってきたようだ。ポケモンドクターにもう一度様子を見てもらって、OKを貰えたので濡れた服が待つ部屋へ戻る。
「ねえ、部屋にいても暇だし、デッキに出ようよ。服もデッキのほうが乾くんじゃない?」
少しもしないうちにルイが言った。広いところが好きなのだろうか? ともかく服が乾きやすい、というのは同感だったので冷たい服を持ってデッキへ出た。
デッキには何人かの人がいて、間を心地よい風が吹き抜けていた。太陽は傾き始めてきたところで、左手にはだだっ広い大海原が広がり、右手にはぼんやりと陸地が見える。
カントー地方……。ポケットモンスターシリーズの始まりの地方。オーキドの研究所のある地方。ロケット団の本拠地がある地方。レッドが、グリーンが、ワタルが、その他諸々がいる地方。
期待に胸が膨らむ。そしてその期待がちょっと怖くなる。既に私は、この世界が好きじゃないか。来る前から好きなのだから当たり前か。しかし、できるだけ早く帰らなければならないんだ。待っていてくれる人がいるはず。
まだ1日も過ごしてないのにな、とぼんやり考える。