二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【クイズ】ボカロ曲を好き勝手に【企画】 ( No.280 )
日時: 2011/11/30 19:08
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: hTgX0rwQ)

 ——久しぶり。——初めまして。


#02 『私』とあなた

 
 部屋から出ようとドアを開けると、そこにはいつもと違う風景があった。
 ……というか、家の中とは思えない。キラキラで、黄緑色の絵の具をこぼした様な、草原が一面に広がる景色。リスやウサギ、鳥や鹿などの動物が沢山居る場所。今の街の中、滅多に見る事のない背景。
 どうやら私はまだ夢の中に居るらしい。妙にリアルな汗の感触もするのに、体は未だベッドの上。それなら夢の中を楽しもうと開き直り、草原に足を踏み入れた。
 草を踏みつける音もやけにリアルで、風の流れ具合も夢だとは思えない。こんなに想像力豊かだったかなあ、私。

「夢じゃない」
「……は?」
 
一人の、可愛らしい女の子が、私を見上げながらそう言った。……いつから私の足元に立ってたんだろう。
 ちょっとした違和感はあったけれど、その発言に疑問を持った私は、今まで感じていた小さな違和感など、塵の様だった。
 この世界が夢でなければ、何だって言うんだろう。私の家はどこに行ったの? お父さんは? お母さんは? 街で見てきた景色は? 私の見てきた世界はどこへ行ったのよ。

「世界はあなたの見ている全てじゃない。ここは、あなたの夢なんかじゃない。この世界を描いた私の夢なのよ」
「この世界を見ているのは、私もそうじゃないの?」
「——そろそろ、思い出して。目を背けて、忘却してしまっても、私はあなたを捕まえるのよ」

優しそうな笑顔を見せたけれど、話は理解不能。私は首を傾げながら考えていた。すると、いつの間にか世界が渦巻いている。わけの分からない世界の中心に、私と少女が立っている。恐怖と好奇心が混じり合う。

「全て忘れ去って、安心して眠ってたんでしょう? 早く思い出して。時は動かさなければ」
「どこへいくのよ?」
「あなたの記憶。時は連鎖していくのよ」

小さい女の子は、可愛らしい顔で笑った。きっと苦痛なんてないよね、きっと。
  
 辿り着いたそこは、トンネルの前だった。私は戸惑っていたけれど、女の子は躊躇せずトンネルの中へと歩いていく。私も小走りしてその背中を追った。
 真っ暗で、先が見えない。話し声もなく、静寂の闇夜に包まれた様だった。闇夜を纏って、トンネルの先へと足を進める。
 案外遠くはなかった。トンネルを抜けると、薄暗い森の中。霧がそこに蔓延していて、あまり前が見えない。
 
「思い出した? ここで何を起こしたのか」

何も分からないと思った。……何も分からないと思いたかった。ずっとこのままでいたいと思ってた。ばれたくないと思ってた。
 ——でも、それなら。もう一度、繰り返すだけの事。

「楽しい遊びはこれからよ」

見た事もない少女が笑った。少女がわざと落とした、懐かしいナイフを、私は手に取った。