二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【クイズ】ボカロ曲を好き勝手に【企画】 ( No.282 )
日時: 2011/11/28 20:54
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: hTgX0rwQ)

 歩き続ける不思議な国。


#03 目覚めた『私』


 私が居なくなってから、すっかりとこの国は変わってしまった。主役が消えてしまったから、代役はあの女の子。
 私が戻ってきて、私を蔑む様な目で見てくる人、私に助けを求めている様な目をしている人。この国は歪んでしまった、アリスのせいで。そう言っている。
 私に恋をしていたあのウサギは、痩せてしまい空ろな目をしていた。私が居なくなって、ノイローゼになったらしい。
 最後に戦った時、私はウサギに傷つけられた。その傷跡が今でも残っている。あの世界で生まれた時から、この傷跡は消えてない。
 仲が良かった女王は、私が居なくなって狂ってしまった。裏切りという言葉を知った。人を簡単に殺す様な、冷酷な女王。ウサギがノイローゼなもんだから、それを止められる人は居なく、王様も女王に逆らって殺されてしまった。人々の無事に暮らしたいという願いは、女王には届かない。 
 私が起こしてしまった今の現状。けれど人々が不幸になるなら人々を全員殺してしまえばいいだけの話。そうすれば不幸なんて終わる。幸せもないのだけれど。

 皆殺してまわっていた。あと何人かは残っているだろう。歩き出そうと、足を動かそうとすると、足が動かない。どこかでこんな光景を見た事がある。……あれは、満月の夜の夢だった。影になった子供達が私を囲んでいた、そんな夢。

 ——偽りの天使よ、踊りましょう? ルラルラ。

あの夢で聞いた、優しげな女性の声。
 人々を助けようともしていないのに、天使だなんて笑える。まあ苦しませようなんて事、思ってもいないけど。
 あの夢で聞いた声がまた響く。踊りましょう、と言われても、体が動かないから踊れないのだけれど。

「……はっ!?」

——背景が、動き始めている。ぐるぐると渦巻いて、気持ち悪いぐらい眩暈がする。ここで起こった出来事……いや、私がここで起こした出来事が流れていく。血飛沫と、洋服についた血の跡。住人は皆怯え、私はそこに居た人を一人残らず殺した。そして記憶を捨て、役目を捨て、今の私に生まれ変わった。
 私がここに落として拾わなかった、本当の感情が目覚める。欠落していたパズルが、一つはまって全て出来上がる。血を見る事は嫌だけど、妙に覚えている、あの時の鼓動。
 冷静は取り戻した。記憶も頭に納まった。残酷だなんて言葉、既に私自身が残酷だ。欠落していた感情は、人が死ぬ時の快感——だった。それだけは取り戻したくなかった。戻ってこないで欲しかった。

 ——いつの間にか、辺りは真っ暗だった。鉄さびの臭い。手は血の赤で染められて、ナイフは私の手の中にあった。 
 体を動かすとがしゃがしゃと鬱陶しい鎖の音がなる。足枷手枷、いつの間にこんなに付けられたんだろう。ここは牢獄の中だった。
 未来永劫、決して千切れのしない鎖が、私に纏わりついて。いつまでも離れなくて、抱きしめたままで。
 こつり、と靴の鳴る音がした。私の代わりになっていた少女が、笑みをみせる。……生きているからって、憎たらしい少女。

「世界は連鎖していくのよ。その鎖を抱きしめたままで、地獄の渦に飲み込まれ、業火に焼かれるがいいわ」

 あの時鎖から逃げようとした私が、脳裏にこびりついたまま。さっきまで思い出すことすら出来なかったのに。ああ、正しいあの少女は炎から逃げられたんだっけ。女王さえ悪役であれば、この世界が夢であったんだろうか。分からない。
 過去の私に話しても意味はないけれど、どうせこうなるのだから、あのウサギを傷つけて泣いたって、駄目なの。あなたがこの世界に入ってきた、それだけでも、この世界に関わり、主役になったのだから。
 縁は消えない。連鎖は途絶えない。私がここで死んでも、私の役目は他に居る。
 手の中にあったナイフを握りしめる。少女は驚愕する。

「遊び(ゲーム)の邪魔をしないで!」

笑みを浮かべて、ナイフを振りかぶって。