二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【クイズ】ボカロ曲を好き勝手に【企画】 ( No.284 )
日時: 2011/11/30 18:42
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: hTgX0rwQ)

 さよなら。


#04 夢から覚めた『私』


 私は死ななかった。傷さえつかなかった。
 牢屋の中で少女が、私の代わりの少女が倒れている。私が持っていたナイフが胸に刺さり、赤い血が静かに流れる。少女は苦しそうに息をしながら、縋る様に呟く。

「アリス、戻ってきてよ……この世界はあなたが居なくなって、行き止まりにぶつかったままで、前に進めないの……あなたが選んだ道は、行き止まりなのよ」

ぐさりと、言葉が突き刺さる。
 そんな事分かってる。私のせいでこの世界が狂ってしまったことなんて。狂った世界を元通りにできるのも私だけということも。全部全部、分かりきっている。
 ——そして、早くしないと、間に合わないという事も。

「逃げて、早く……怪我してしまうと、病室に閉じ込められる」

逃げないと『怪我してしまう』。そう言っている様に聞こえて、私は床を蹴り、全力で走った。
 真実って残酷よね。幼い頃は隠したら見つけられないのに、時がたつとガードが脆くって、好奇心という感情だけで見えちゃうぐらい。成長してしまったら、その真実がどんなに残酷かっていうことも分かってしまう、残酷さ。
 つまり私は、大人になったって成長できない、欠陥品。死ななければアリスの役は捨てられないの。代理なんかでは治せない傷をこの世界に負わせてしまった、利己主義者の塊。
 私はこの世界が大嫌い。主役だなんてお断り。人の迷惑なんて知らないから、もう一回この世界から逃げ出して、また他の人に役を押し付ける。
 禁断の果実を絞って、この世界のお話を、私のおはなしを聞かせてあげるの、飲ませてあげるの。
 主役は交代。私の番は終わらせて閉じましょう。夜が明けてしまう前に、夢なら必ず覚めなければ。
 そっと息を潜めて隠れて、アレが私を消しに来てしまう前に、アリスを殺すの。

 ————またあの満月を待って、ほら。次はあなたがアリスの番よ。



 
 私はもう大人になってしまったのだから。



end / 忘却アリス