二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 氷と杏(BLEACH小説) ( No.16 )
日時: 2011/04/06 20:24
名前: まろんけーき (ID: ez4qQ6a7)

 第二章

 第二節

『氷を溶かす心』(1)



 「しっかし、ここは結構平和だな〜。」

 西流魂街、第一地区“潤林安”。
 様々な店が立ち並ぶ街道を杏は、冬獅郎と桃と歩いていた。

 一週間前、冬獅朗に拾われた杏は、桃とばあちゃんの温かいご飯と、冬獅朗の持つ医学の知恵と経験で、歩けるほどまで回復していた。

 
“「最低でも1ヶ月?」

 大体の治療が終わったらしく、意識を取り戻すと、三人が杏の布団の横に座っていた。

 「あぁ。最低でも、一ヶ月は療養しねーと、傷は完全にふさがんねぇ。さっきみたいになりたくなかったら、おとなしくしてろ。」

 冬獅朗が言うと、杏は明らかに不満げな顔をして見せた。

 「えぇ〜?だって私、帰ったら仕事が待ってて忙し…」

 「誰が帰っていいっつッた?」

 「はい?」

 「怪我が治るまでの1ヶ月は、ここに居ろ。」

 「……いいの?」

 目を見開いて、冬獅朗らを見渡す。
 三人は、当然だとでも言いたそうな顔をしていた。

 「……。ありがとう!」”


 まぁ、一週間前にこんなやり取りがあり、今に至るわけである。

 何かここでやりたいことがあるらしく、毎日外に出たがっていた杏だったが、冬獅朗がそれを今日まで止めていた。


 「そうなの?これがいっつもだから、よくわかんない。」

 桃が杏に問う。

 「そうよ。だって、ここは第一地区。流魂街の中で一番治安がいいとこだもん。」

 「そんなの、決まってんのか?」

 それに順じて、冬獅朗も問う。

 「そう。流魂街には一から八十まであって、一地区が一番良くて、八十が一番悪い。そう、きまってるのよ。」

 「そっか…。じゃあ、私たちは恵まれてるんだね。」

 桃の言葉に、杏は寂しげな笑みを漏らす。

 「全部、運だけで決まっちゃうなんて、おかしいとも思うけど。ま、そっからどう頑張ってくかで、自分の運命が変わってくんじゃない?」

 「?」

 「自分の運命は、自分で決めるの。したいことがあるなら、すればいい。っていうか、『したいことがある』ってことは、生きてく中で一番大事なんだと、私は思う。」

 杏が言った後、一陣の風が吹いた。
 同時に、雪が風に流されて舞う。
 冬獅郎と桃は、静かに杏を見た。

 どこから来たのか、何をしてる人なのか。
 二人は杏のことを何も知らないのに。
 なぜか、彼女の言葉は、素直に胸の奥に入り込んでいく…。 

 それは多分、彼女が素直で、文字通り真っ直ぐだからなのだろう。
 

 「杏ちゃんは、今、したいことって…ある?」

 「ん。…今、やってること、かな?」

 「?」

 「あー、えっとー…。 私ね、ちょっとあることを調査しにここへ来てるんだけど。いっつもは仕事仕事ばっかりだったから、こういうのも、いいなーって。」

 「あることって?」

 「…ま、なんでもいーじゃん。ともかく、今してることが一番やりたかったことなのかもね。」

 「そっか…。」

 「桃は?何か、したいことって、あるの?」

 「え…。…うーん、今はないかも。」

 「そっか。まぁ、そんな焦ることでもないし、『今と変わらない』っていうのも、『この状態を保持したい』っていうことだもんね。」

 「今みたいなのが続いたらいいなぁって、思う。」

 桃がいうと、杏は満足そうに笑んだ。

 「んじゃあ、冬獅朗は?」

 急に話をふられ、冬獅朗は驚いたようなそぶりを見せた。

 「……無いな。っつぅか、んなこと今まで考えたことも無かったし。」

 したいことなんて、無かった。
 だからといって、この状態が続いてほしいと願っているわけでもない。
 考えたことが無いというより、考えることを、知らなかったといっても過言ではないだろう。

 「そっかぁ…。」

 そんな冬獅朗を見て、桃とは言葉の意味が違うことを悟る。
 …が、あえてそれは言わないでおいた。

 「…あー、お腹減っちゃった。ねぇ、桃。ここらに甘納豆売ってる甘味屋さんない?」

 「え?うーんと…ちょっと遠いかも。甘納豆、好きなの?」

 「うん!大好きっ!!」

 「んじゃ、私買ってくるよ。シロちゃんと杏ちゃんは先に家に戻ってて!!」

 「え?私も…」

 「だーめ。あんまり長く歩いてちゃ、ダメなんでしょ?」

 「う…。」

 「じゃぁ、シロちゃん、ちゃんとつれて帰ってよー!!」

 そう言い、桃は帰り道と真逆方向に走った。