二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 氷と杏(BLEACH小説) ( No.17 )
- 日時: 2011/04/08 21:43
- 名前: まろんけーき (ID: Z7dY/o0y)
第二章
第二節
『氷を溶かす心』(2)
残された冬獅朗は、それを見送り、杏のほうを向き直った。
「…で、何で嘘までついて俺と二人になった?」
呆れ顔で、言う。
「あ、やっぱばれた?」
それに対し、杏はうしし、と無邪気に笑って見せた。
「まぁ、桃は気づいていねーみてーだったが。」
「桃は素直だからね。冬獅朗は気づいてくれるかなーって、思ったんだけど、正解だったね。」
「素直じゃなくて、悪かったな。」
「いやいや。洞察力が鋭い…って褒めてあげたのよ。」
ちっとも悪びれもせずに言う杏を見て、冬獅朗はため息をついた。
「用件は何だ?桃の前では言えないほどのことなんだろ?」
「あぁ…。いや何、別にそんなでも無いわよ。」
「……。」
杏が、不意に冬獅朗の目を見た。
「…あんた、自分の何がそんなに嫌いなの?」
冬獅朗が目をそらした。
「どうして、周りの人と関わりを持とうとしないの?桃は隣の家の子とかと普通に遊んでるのに、何で冬獅朗は家から出ようとしないわけ?」
杏は家の寝床で横になりつつ、皆の様子を見ていた。
ばあちゃんはいつも、家事をニコニコと笑いながらこなす。
桃はいつも、冬獅郎や隣の家の子等と遊ぶ。
冬獅朗はいつも、桃といるとき以外は独りで、空をぼーっと見つめていた。
杏はいつも、それを不思議に思っていたのだった。
「俺が他の奴らと関わりたくねぇわけじゃねぇよ。」
「?じゃ、どうして…。」
杏の声に、冬獅朗が振り向く。
その表情は、先ほどよりも険しかった。
「周りの声、聞いてみな。」
「?周り…?」
耳を研ぎ澄ます。
周りの活気に気をとられ、細やかな声など、気にも咎めていなかったのだ。
『ほら、あいつ…。碧緑の目に銀色の髪。』
『うわ、ホントだ…。ホントに人間か?』
『性分も冷めてるらしいぜ。氷みてーな奴。』
『怖えぇ〜。近くにいると、呪われちまうぜ。』
「……。」
杏は、思わず言葉を失った。
「ほら見ろ。ここじゃあ、皆そうだ。俺は特に何もしてねぇのに、ここの奴らは揃って俺を氷のようだと言う。皆俺を怖がってんだ。
そいつらに関わりを持とうとするって行為こそ、はた迷惑だろ?」
冬獅朗は、どこか寂しげに言った。
生まれ持った異色の容姿のせいで、何時でも何処でも冬獅朗は周りから蔑まれてきた。
そんな彼をちっとも怖がらず、手を差し伸べてくれたのが、ばあちゃんと桃だった。
だから彼は今まで、その二人以外に心を開くことは無かった。
「なーんだ。そんなこと。」
呆けた様に、杏が言った。
その声に、冬獅朗が顔をあげる。
「は?」
「ま、冬獅朗の容姿とか性格は、確かに氷のようだよ?だけど!あったかい心を持ってる。」
杏の言葉に、冬獅郎は胸がトクン、と鳴ったように聞こえた。
「ウチの知り合いが言ってたことなんだけどね?「心」ってのは、人が人と触れ合うとき。即ち、人と人が思い合うときに、その人との間にできるモンなんだって。
冬獅朗が悪口言われて蔑まれても、そいつらを恨みもせずただ単にそいつらの迷惑にならないようにしたいって思ってんだろ?
それは正真正銘、心だろ?しかも、他人が言ってるような氷なんて、溶かしちゃうくらいあったかい。それでいいじゃん。」
「……。」
杏の言葉に、冬獅朗は目を見開いた。
「ね?周りの目なんか気にすんなよ。今の自分を、精一杯生きろ。」
杏は、冬獅朗の頭をぐりぐりと撫でた。
冬獅朗は、静かに笑んだ。
「……ありがとな、杏。」
ボソッと、呟く。
その呟きをしっかりと聞き取った杏は、ニカッと無邪気に笑った。
「うし。帰るか。」
二人は、家への道を歩き出した。
今まで、誰も言ってくれなかった言葉。
『氷なんか、溶かしちゃうほど、温かな心』
杏の言葉が、ゆっくりと心に染みていくような気がした。
帰り道。
何度も通ったことのある街並みなのに、何故だか冬獅朗の瞳には、いつもより街に光が射して見えた。