二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 氷と杏(BLEACH小説) ( No.18 )
- 日時: 2011/04/09 20:44
- 名前: まろんけーき (ID: IjQjsni6)
第一章
第三節
『氷と風』(1)
半分開け放たれた雪見障子から、ちらほらと降る雪が見える。
次々と降り積もっていく雪を見ながら、冬獅朗は布団の中でため息を一つつく。
朝から熱があったのを桃に見破られ、寝床へと強制的に戻されたのであった。
ピピッ、と小さな電子音が聞こえた。
脇に挟んでいた体温計を取り、数値を読み取ろうとするが、熱のせいか、目の前がぼやけてよく見えない。
どうやら、相当高いようだ。
「あ、熱測り終わったの?」
ちょうど襖を開けた桃が体温計を冬獅朗の腕から奪う。
「あちゃぁ〜。8度超えてるよ…。」
体温計の数値は、8度6分を指していた。
「マジかよ…。ったく、嫌んなるぜ。」
「まずは絶対安静だよ?シロちゃんの熱は長引くんだから。」
冬獅朗は、寒さに強いが、暑さに弱い。
そのため、彼が風邪を引いたときは、完全に治るまで、最低でも1週間はかかった。
「お粥。作ってきたから、食べてね?」
「あぁ。」
桃が冬獅朗の部屋から出てきた。
桃の帰りを待っていた杏が、桃に駆け寄る。
「どうだって?」
「うん。いつもよりは…いいほうかな?8度超えてたくらい。」
「マジで!?いっつもこんな感じなの?」
「うん。シロちゃんの場合はね。」
「…冬獅朗の…場合?」
何かと引っかかる桃の言葉に、杏は首をかしげた。
「シロちゃん、寒さには強いんだけど、暑さにはめっぽう弱いんだよね。何でなのかは、よくわからないの。」
「へぇ…。」
「…杏ちゃんは、何か知ら…」
桃が、杏に問おうと顔を上げたが、杏の顔を見て、言葉をとめる。
杏は、いつもと違う、真剣味を帯びた表情でどこか遠くを見ていた。
いや、正確には『見て』いるのではない。
杏はここに来てから、このような顔をすることが時たまあった。
そのときは何か考え事をしているのであり、心此処に在らず状態で、こちらの話など聞いているときなどなかったことを、桃は最近知ったのである。
杏が此処に来て、三週間が過ぎようとしていた。
桃は、そっとその場を退いた。
桃が去ったのにも気づかず、杏は思考回路をめぐらせていた。
最近、雪は強くなる兆しばかりを見せる。
もうそろそろ、春が来てもおかしくない季節。
それだというのに、ここら一帯はまだ、雪が降り続けているのだ。
そう、ここら一帯のみ…。
他のところも…というのなら、それでも信じ難いが百歩譲って認められる。
しかし、ここだけ…。
正確には、『この家の周辺のみ』なのだ。
「……この家の誰か…。いや、」
一度言葉をとめる。
信じられないというように、ゆっくりと顔を上げた。
「……冬獅朗…か。」
何ものをも射抜くような瞳を空へ向け、呟く。
その呟きを、ばあちゃんが聞いていたのを、杏は知らない。
杏は、冬獅朗の寝室へ入った。