二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 氷と杏(BLEACH小説) ( No.6 )
日時: 2011/04/06 20:28
名前: まろんけーき (ID: ez4qQ6a7)

第一章

第一節

『出会い』(3)

 少女の額に、ひんやりと冷たいものがあたった。

 それはまるで、氷のように冷たい。

 だけど、確かなぬくもりが感じられた。


 「……うぅ…。」

 またまた気を失って倒れてしまったようだったが、今度は背中が温かかった。地べたに直接寝ているわけではないようだ。

 目をパチッと開けると、目の前には笑んでいる少年の顔。

 「…あれ?」

 「目ェ、覚めたか。」

 ゆっくりと、あたりを見渡す。
 (ここは……家?)
 布団で寝ていたことに気づき、首を傾げる。

 「私、どうして…」

 起き上がろうと、体を起こそうとする。が、

 「いーから、まず寝てろ。」

 という一言にとどめられた。

 
 「あんた…誰?」

 恐る恐る問ってみる。

 「…俺は、日番谷。日番谷 冬獅郎だ。」

 「とうしろう?」

 「あぁ。…お前は?」

 「私は…魁里 杏(カイザト アンズ)。」

 「杏か…。あんなところで寝て、何してたんだ?」

 「いや、寝てたわけじゃあ、ないんだけどね……。」

 「?じゃぁ、何してたんだよ。」

 「………。」

 目をそらす、杏。
 そんな彼女を見て、冬獅朗はため息をつく。

 「ま、深くは聞かねぇけどよ…。」

 冬獅朗の言葉に、少しほっとしたような表情を浮かべる杏。
 その表情を、冬獅朗は見逃さなかった。

 「これ、お前の刀か?」

 言い、さっき杏の近くで拾った刀を差し出す。

 「あ!雹楼丸ヒョウロウマル!!」

 杏が刀の名を口にする。

 「雹楼丸っていうのか?この刀。」

 「そ。私の相棒よ。」

 ニッコリと微笑む。
 元気そうで、少し安心した冬獅朗は表情を緩めて見せた。 

 「あーー!起きてる!」

 桃の声が聞こえた。

 そちらを向くと、両手に小柄の鍋を持ちながら、目を輝かせてこちらを見ていた。

 「桃…。」

 冬獅朗が名を呼ぶと、桃はこちらに小走りで向かう。

 鍋をお盆の上に置き、一緒に持ってきた椀にお粥を並々とよそった。

 「大丈夫?お腹減ってるでしょ?お粥作ってきたから、食べてね?」

 言いながら、杏に椀を差し出す。
 少しは警戒していた杏だったが、桃の屈託のない笑みに警戒を解いた。
 
 「ありがとう。」

 それだけ言い、椀を貰い、かきこむように食べる。
 並々と盛られていたお粥が、数秒で彼女の口の中に消えた。
 
 「美味しいっ!おかわり!!」

 幸せいっぱいの顔で、桃に椀を差し出す。
 冬獅朗も、桃も、その旺盛な食欲に呆気に取られた。

 

 「ぷはー。食べた食べた。」

 桃の作ったお粥を、米粒一つ残さずたいらげた杏は、満足そうに「ご馳走様」をした。

 「見る限り、大丈夫そうだねぇ…。」

 ばあちゃんが、笑顔で言う。

 「あ、はい。すっかり。ありがとうございました。」

 「いえいえ。そんなたいそうなことした訳じゃないよ。」

 「…あの、ここら一帯の地区、雪、ずいぶん強いですねぇ。いっつも、こんな感じですか?」

 杏の質問に、三人は顔を見合わせる。

 「いや…。最近だんだんと強くなってきてるんだ。原因は分からないけどな。」

 冬獅朗が言うと、杏は「そう…。」とだけ答えた。

 「ありがとうございました。それじゃ…」

 杏が立とうとしたとき、刺すような痛みが腹部を襲った。
  
 「…ッッ…!!」

 激痛に顔を歪め、その場にしゃがみこむ。
 衣類を通して、腹から血が滴り落ちた。

 「!?どーしたの!?」

 桃が、近寄ろうとするのをばあちゃんが止める。
 その隙に冬獅朗が杏の元へ駆ける。

 衣類を捲ってみると、そこには痛々しい生傷が脇腹から背中にかけてあり、どうやらそこの傷口が開いたようだった。

 「何だ、これ…!」

 冬獅朗が目を見開き、言う。

 「ちょっと、ここに来る前不意討ち食らっちゃってねェ。応急処置で塞いだ筈だったけど…開いちったか…。」

 見る見る血の気が失せていくのが、手に取るようにわかった。
 
 「喋んな!今手当てすっから…。」

 そう言い、冬獅朗は医療セットを棚から出し、慣れた手つきで治療を始めた。

 (こんなに酷い傷、今まで見たことねぇ…。一体こいつ、あそこで何してたんだ…!?)

 ここにだって、虚はたまに出る。
 そのときのために、簡単な医術は心得ているはずだったが、それでも治せるのかわからないほど、酷いものだった。

 「………悪いね。」

 荒い息の中、杏が言う。
 冬獅朗は、それを聞き、まだ僅かしかない希望の光へと、必死に手を伸ばした。
 
 「死ぬんじゃねぇぞ…!!」

 治療の手をとめず、冬獅朗が祈るように言う。

 まだ、会って数時間もたたない彼女に、何故ここまで心が動くのか…。

 冬獅朗は、不思議に思った。


第一節、end.