二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【青の祓魔師】 月夜の書庫 【短編集】 ( No.2 )
日時: 2011/05/15 22:33
名前: ぽんこ ◆xsB7oMEOeI (ID: Wx.cjsE7)


【ただ、そばにいること】







(りん)


だれかのこえがしたようなきがした。
どこかとおいところから、おれをよんでるきがした。


(りん)


でもおれはだれにもとめられないんだ。
おれのことをかげでアクマだなんていいやがって。ゆるしてなんかやるもんか。
こいつはおれがやっつけてやるんだ。


(りん!)

おれはつよいんだ。おれがこいつをやっつけるんだ。
とめんなよ。こいつはもっとぐちゃぐちゃにしてやらないといけないんだ。
なんでなくんだよ、よわっちいな。もっともっとなぐってやる。もっと、もっともっともっと——

(りん!!)

「うおわぁあ!!」

驚いて飛び起きると、胸の上からクロが悲鳴を上げながら転がり落ちていった。

「うおっ、ごめん!」

慌てて床から拾い上げると、クロは不満げな顔つきでこちらをじっと見つめる。

(いたいぞりん。うなされてたからおこしてやろうとおもったのに)
「ごめんごめん。つーか俺うなされてたの?」

寝ている雪男を起こさないように小声でクロにたずねた時、燐は自分のシャツが汗でぐっしょり濡れていることに気がついた。
不快な熱気をはらうように頭をぶるると振ると、燐に持ち上げられたままクロはうなずく。

(ううぅとか、とめんなあぁとかいってたぞ)
「そっか、わりーな」

笑いながらそっとクロを放してやると、彼は燐の腹の上から動かずにいた。
不思議に思い彼を眺めていると、クロは大きな瞳でこちらを覗きこんでくる。

(りん)
「なんだ?」
(だいじょうぶか?)

本気で心配してくれている友達を見て、燐はふっと微笑んだ。

ちょっと変な夢見ただけだって。大丈夫だ——そう返事しようとしたその瞬間。
燐の脳裏にふと想い出が浮かび上がった。



夕暮れの寂しい小道を、病院から退院したばかりの父親と二人で歩いていた。
保育園の友達を傷つけ、挙句父親の骨まで折ってしまっていたのだ。

お互いに何も言葉を交わすことなく、ただ黙々と一歩を踏みしめる。
燐は父親を見ることができなかった。


なんと言って怒られるだろう。
あの日は優しくなだめてくれたが、心の底ではきっと怒っているに違いない。

下を向いて歩いていて、頭上から自分を呼ぶ声がした時、燐は「ひっ」と言って身を固くした。
握りしめた手に力が入る。
おこられる!


「——だいじょうぶか?」



——えっ?


燐はしばらくの間、その言葉を頭の中でぐるぐると繰り返していた。

だいじょうぶか?

どうして?

どうしておこらなかったの?


父親を見上げると、その瞳は優しく細められていた。
にやりと口角を吊り上げ、彼は面白そうに笑みを浮かべる。

「お前口よりも先に手が出るタイプだからなぁ。いい加減にしねーと俺も本気出しちゃうぞー……って、な、なんでお前泣いてんだ!」

気付けば自然と涙が溢れていた。それがなぜなのかは自分でもさっぱり分からなかった。

ただ、おろおろと燐の額に手を当てたりしている父親の姿を見て、心の底から嬉しかったことは今でも鮮明に覚えている。






(りん?)


俺は——





——大丈夫だ。







まだ先に何があるのか分からないけれど。
傍に心配してくれる誰かがいるだけで、こんなに心強いことはないと思った。