二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: ありがとう、さようなら。 【ギャグ日短編集】 ( No.1 )
日時: 2011/05/24 21:30
名前: おかか (ID: h9rhVioE)



【飛鳥組】








太子命日文












「———————……太子、今も倭国は平和です」




シロツメクサが一つ、ぱちりと咲いた。




















そして今日も大忙しな一日が始まる。




「太子! 何度言ったら分かるんですか仕事しろ!」

「嫌だね!」

「このアワビ!」

「キャット!!!!」


仕事を全くせず遊びほうけている上司、摂政の聖徳太子だ。
冠位五位の僕が言うのもなんだがバカでアホでアワビな摂政。
こんなんで倭国はよくやっていけると思う。


「ねえ」

「何ですか?」

「なんか遊びに行かない?」

「いつもしてるようなもんじゃないですか」

「今日は特別! 良いところを見つけたんだよ! 妹子行くでおま!」

「うぁああ! もぅ……今日だけですからね!」

「よっしゃ! 無限に広がる大宇宙!」


ぐいっと強引に手を引かれ、僕は太子に着いて行った。
立っている他の役人たちはもう呆れ顔でこちらを見ている。
太子は馬を出していた。


「太子、馬を出すのは僕がやりますよ……」

「いいや、それでは意味がないぞ! 私が連れて行ってやるんだからな!」


いつにもなく太子は本気だった、何でだろうか。
必死で暴れ馬と噂される馬を出しているところに苦笑してしまう。


「いくでおま! ほれ、後ろに乗るんだ妹子!」

「なんでですか、僕には愛馬の小野デラックスが「いや乗れ!」

「……はい」


僕は少し躊躇いながらも馬に乗った。
流石、聖徳太子。摂政なだけある。馬の操り方が上手い。
元々、天皇の子であるし神の子とも言われたお方だった。
僕がこんな役目を務めてもいいのか、とまで考えてしまう。
















暫く、僕は寝ていたようだ。
昔の記憶を思い出した。
ここにいるのは冠位十二位だった頃の僕と、目の前にいる神の子————聖徳太子様。
あの人は、あの頃からそうだった。








「……も…きろ…」

「妹子、起きるでおま!」

「うぉお! 太子!」

「妹子着いたぞ! ここが特別な場所だ!」


目の前を見てみると、一面に広がる緑、緑。
それはまさしくクローバー畑だった。


「こんなとこ……あったんだ……」

「よし! 四つ葉探すぞ!」

「待ってください! 太子ィィ!!」


クローバー畑に降り立ったかと思うと太子は四つ葉を探し始めた。
まあ、こんな所なかったからな。
下のクローバーはまるでふかふかの絨毯のように敷き詰められていた。
大きいものから小さいものがある。






「—————なあ、妹子」

「なんですか? 太子」

「最期に—————妹子とこの場所、見れて嬉しかったよ」

「……最、後?」


その会話と深い沈黙を残し、朝廷へと帰った。










——————そして、その次の日から急に太子の様子が一変した。










「……馬子様。太子は、太子はどうなって……」

「……おや、太子から事情をきいとらんようだな……まあ、太子ならそうするだろうな」



















—————————嘘だ。




太子が、かなり前から不治の病を患っていたなんて。

変わらない笑顔で、接してくれていたのに。

太子は、そのために———————————















「……太子」

「あぁ、妹子。なんだ? 罵倒しに来たのか?」

「馬子さんから、全て聞きました」

「——————……っ……いも……」

「なんで、本当のことを……言ってくれなか……」


気づくと目の前がうるんできた。
太子は辛いだろうに、いつもどおり能天気にいてくれたんだろう。
知らなかったのは僕だけだったようだ。


「ですけど、クローバー畑で言ったあの言葉は間違ってます」

「え?」

「最期じゃありません。最後でもありません。また、会えます」

「……そうだな、妹子」

「…はい」







「……また、な」


優しい微笑を浮かべ、その瞬間、太子から炎が消えた。
顔は青白く、少し体温が残っているだけ。


「太子……ッ……また……また、何処かで……会いましょう…!」


僕の顔から、一つの涙が零れ落ちた。



そして、太子の顔からも一粒ぽたりと雫が落ちた。






「あんたは、倭国で一番の摂政ですよ。聖徳太子」











太子命日   二月二十二日




           この二人の絆は永遠に。









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