二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ありがとう、さようなら。 【ギャグ日短編集】 ( No.2 )
- 日時: 2011/07/17 16:18
- 名前: おかか (ID: .WGhLPV.)
【飛鳥組】現パロ/花屋パロ
Nerine
ある下町の小さな花屋。
そこを覗けば、すぐに甘い香りが鼻孔をくすぐる。
そこには、十代の少年と、その祖母であろう年老いた女性が経営している少し古びた店。
私は学校の行帰りそこを通り道として歩いている。
理由は
「あれ、いらっしゃい……毎日飽きないでよく来ますね」
「こんにちは。此処に来ると……なんでか、落ち着くんだ」
「とりあえず」
お茶、淹れてきますね。と言って少年は駆けていく。
少年の名前は小野妹子。おかっぱのサラサラとした茶色い髪と、女性にも見える中性的な顔立ち。かといってひょろひょろでもなく、鍛えているようだ。
彼の両親は既に亡くなっており、両親が経営していたこの店を引き継いだのだという。
周りを見ると、少しレトロな店内の雰囲気に色とりどりな花々があり、薔薇にマーガレット、チューリップ、霞草に菊……
気づくと、目の前には緑茶の入った湯呑が入っていた。
「ああ、ありがとう」
「いえ、毎日花を買って行っていかれるのでそのお礼で」
貴方がこの店一番の常連客ですね。とへらっと笑みを零す。
ずずっと緑茶を啜ると、今日はカサブランカを買った。
とても迷っている。
今通っている高校はかなりの進学校であり、有名な大学や国立に行く生徒だって少なくない。
なかなか私は自慢じゃないが頭が良い方なので、推薦だって夢じゃない。
しかし、そこまで行くようになれば。
ここは田舎。高校だって電車で片道二時間。行くとしたらあちらに上京するのもありえる。
そんな悶々とした頭と格闘しながらの毎日。
そうだ、私には予想以上にこの町————花屋に執着心を持っている。
この町から離れるのが嫌だ、いやだ、いやだ、嫌でたまらない。それはただの我儘である、しかし頭の中でずっと蜘蛛の巣のように張り巡らされる『いやだ』の言葉。
今にも、狂ってしまいそうだ。
「大学?」
とうとう耐え切れなく、妹子にそのことを打ち明けた。一瞬表情が見えなくなったが、すぐにこんな言葉が出てきた。
「馬鹿じゃないですか? アンタ。そんなことであんなに悩んでたんですか……アホらし」
「アホらしは無いだろアホらしは! てか急に毒舌になってない!? ひどっ!」
「ほら、」
「前のアンタに戻ったよ」
そういう強気な所がここの所ありませんでしたからね、といたずらっぽく笑った。
「大学、行ってください」
「……は?」
「貴方がこの町に必ず戻ってくるのなら、この花を最後に差し上げます。当店のサービスです」
ぱさ、と手渡されたのはピンク色の花束だった。
「ネリネ、という花です。ヒガンバナ科ですけど」
「ヒガンバナってお前……ちょ……」
「ですけど」
この花の花言葉は———————……
懐かしい匂いが鼻孔をまた、くすぐった。
『おかえりなさい』
Nerine
(また会う日を楽しみに)
.