∮〜prologue〜明星の輝きが増し。墨で塗りつぶしたようなこの宵闇の中。颯爽と優美に現れ。空駆ける鈍色の千切れ雲がたゆたうとき。霞がかったその御姿を闇にひとつ浮かべ。春の月は。ただ、輝き。闇を消し逝く。暗闇を統べる、この影さえも残さずに。闇に魅入られた薄紅色の桜は。闇と共に。その紅、薄れることなく、消えて逝く。光を統べる、春の月さえにも振り向かずに。