二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 春の月を狼は喰らいて【薄桜鬼】 ( No.6 )
- 日時: 2011/07/17 13:32
- 名前: まろんけーき (ID: ZvRr1aJX)
∮〜誓は、この刀に〜
紅葉side
「それにしても、紅葉さんが寝坊なんて、珍しいですよね。」
ちょっと遅い朝食(いや、昼食か。)を食べていると、さっき呼びに来てくれた小姓の子が言った。
「そーだね。…昨日はあまり眠れなかったし…。」
「継承の儀でさぞ忙しかったのでしょう?」
「ま、ね。でも、もう“師範じゃない”から、寝坊なんて出来たんだけど…!」
わざと明るく言ってのけると、その子は悲しそうな顔をした。
「本当に…後悔の念はないのですか…?」
「…うん。ほら、私は女だし!」
「ですが…!」
まだ何か言いたげな彼を「まぁまぁ」と宥め、「あのね。」と言う。
「別に、この身分が窮屈っていうわけじゃないの。飽きたってわけでもない。…実際、楽しかったしね。だけど、時代は私を許してはくれない。わかってることだわ。ただ、それを覆したかった…。それだけなの。」
「紅葉さん…。」
「…だから、そんな時代が来るまで。私は待つわ。今はただ…
“死に場所を求めて、さ迷うだけ。” 」
そう。だから、悲しい顔なんてして欲しくはない。
時代に逆らったのは、私。
私を咎めたのは、時代。
時代と共に在るのは、運命。
ただ、それだけなんだから…。
昼餉を終えて、私は道場の門前に立った。
道場の塾生は、皆、私を見送ってはくれない。
見送ってくれるのは、小姓一人。
それでも、寂しくなんかはない。
堂々と門を出て、一度、たった一度、振り返る。
夢に見た、旧友皆が去っていく悲しげな色合いの景色。
それを今、見ているのはあの小姓。
皆の目に写っていたように思える、色鮮やかな景色。
それを今、見ているのは私。
そんなことを考え、私は門から繋がる一本道を歩きだした。
もう二度と、後ろは振り向かなかった。
今日、私は道場師範を、辞める。
腰にいつも携えていた、木刀は外した。
今日から私は、師範なんかじゃない。
私は今日から、行く宛もなくのらり、くらりと浮世を漂う────
────侍と生る。
そう誓った。
死に場所を求めて、さ迷うと。
この、鈍色に輝く、刀に。