二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 番外編五話 最強と無敵の紙一重の差 ( No.265 )
- 日時: 2012/11/18 16:39
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: d1Bequrp)
「サザンドラ、強めに大地の力!」
サザンドラは床から普通より多めの土砂を噴き出させる。
だがラティオスの特性は浮遊であり、それはザントも知っている。
ではなぜこんな行動を取ったのか。
そこでグレースは気付く。
「…? 大量の砂煙で、前が見えん。これを狙っていたのか?」
返事の代わりに、砂煙の中からいきなり龍の波動が飛び出してくる。
ラティオスは何とか避けるが、休む間もなく二発目が飛んでくる。
「どこから波動が来るか分からないだろう? 命中するのも時間の問題だな」
姿は見えず、ザントの声だけが聞こえてくる。
しかし、当のグレースは落ち着いていた。
「こんな見え見えの策で私を欺けるとでも? ラティオス、サイコキネシス!」
ラティオスは念動力を発し、砂煙を操り、一瞬で視界を晴れさせる。
「龍の波動!」
そしてすかさず反撃の波動を撃ち込む。
「ぐっ、サザンドラ、かわして大文字だ!」
サザンドラは横に飛んで波動を避け、大の字型に燃え盛る炎を放つ。
「ラティオス、ダイヤブラスト!」
対してラティオスは煌めく爆風を放って炎を打ち消し、
「もう一撃!」
立て続けに爆風を発射する。
サザンドラに命中し、サザンドラの体勢が崩れる。
「たたみかけろ! 龍の波動!」
さらにラティオスは龍の波動を放つが、
「なめんな! サザンドラ、龍の波動!」
体勢を崩しながらも、サザンドラは左手の頭から波動を発射し、ラティオスの波動を相殺させる。
「これならどうだ? サザンドラ、龍の波動!」
サザンドラは三つの頭を構え、同時に三発、しかも不規則な軌道を描かせながら放つ。
「それなら、ラティオス、サイコキネシス!」
ラティオスは念動力で波動の一つを操り、もう一つの波動と相殺させる。
しかし、波動が強く、簡単に操ることが出来なかったラティオスは、三発目に対応出来ず、直撃を喰らう。
「連続で一気にたたみかける事が良策と判断。サザンドラ、大文字、龍の波動!」
サザンドラは今度は真ん中の顔から大の字型に燃え盛る炎を、両手の顔からは波動を放つ。
「それなら問題ない! サイコキネシス!」
ラティオスはサイコキネシスで大文字の軌道を反らし、波動は二つの間を上手く潜り抜ける。
「反撃だ! ダイヤブラスト!」
そして一瞬の後にはラティオスは攻撃体勢に入っている。
煌めく爆風でサザンドラを吹っ飛ばし、
「龍の波動!」
更に龍の波動で追撃をかける。
(なかなかやるな。そろそろあの策に出るしかない)
ザントは覚悟を決める。博打要素の高い策だが、決まれば確実に勝てる。
「サザンドラ、フルパワーで大地の力!」
ザントの指示の直後、床からそれはもう大量の土砂が噴き上がる。
更に、
「次だ! フルパワーで大文字!」
煙の中から、轟音をあげながら激しく燃えさかる大の字型の炎が飛び出してくる。
「その作戦は通用せんと言ったはずだ! ラティオス、サイコキネシス!」
ラティオスは念動力で何とか炎を押し戻す。
しかし、
「それを待っていた! サザンドラ、大文字!」
押し戻される炎目掛けて、サザンドラは大の字型の炎を放つ。
二つの大の字が激突し、爆音と共に爆発、スタジアム全体が濃い煙で覆われる。
(…流石にこれはまずいな。ラティオスの姿も見えないぞ)
煙が濃すぎて、自分のポケモンの姿も見えない。
「少しは学習したらどうだ? こんな煙如きに私は惑わされん! ラティオス、サイコキネシスで振り払え!」
ラティオスは念動力を発し、煙を払う。
が、その直前。
「ハンッ、最高のほめ言葉だよ」
こんな声が聞こえた。
そして、煙が振り払われた瞬間。
ラティオスの位置を捉えたサザンドラが、ラティオス目掛けて一直線に飛んできた。
「何ッ…!?」
グレースの驚きなど、ザントは気にも留めない。
サザンドラの両手の顔がラティオスの羽に噛みつき、そのまま壁にラティオスを縫い止める。
互いの距離はほぼ0。しかもラティオスは羽が封じられている。
「隙を見つけるなら、砂煙を振り払うあのタイミングしかないと思って博打に出たが、大当たりしたようだ。サザンドラは悪タイプ、サイコキネシスを恐れず攻めていけるしな」
サザンドラも大きく咆哮する。その姿はまるで、地獄に巣くう怪物のよう。
「俺の勝ちだ。フルコースを決めてやる! まずは大文字!」
サザンドラはこの至近距離で大の字型に燃え盛る炎を放つ。
ラティオスは当然動けず、炎をまともに浴びる。
「続いて龍の波動!」
間髪入れずサザンドラは龍の波動をラティオスに命中させる。
ラティオスの苦痛の声がスタジアムに響く。というか、これを受けてまだ倒れていないラティオスが不思議なくらいだ。
だが。
ここでザントが勝利の快感に浸っておらず、いつもの冷静な戦いをしていれば、ザントは違和感に気付いたはずだ。
グレースの表情に、まるで変化がないことに。
グレースが、諦めた表情にも見えない、無表情の中にもどこか自信げな表情をしていたことに、ザントは気付かなかった。
「こいつで止めだ! サザンドラ、クリムゾンエイト!」
ザントがそう叫んだ瞬間、グレースの口が静かに動いた。
「ラティオス、ドラグストリーム!」
その刹那だった。
ラティオスの体が輝き、そこから七体の龍が飛び出した。
サザンドラが真紅の光線を放つよりも速く、その七体の龍はその聖なる力をサザンドラに撃ち込む。
次の瞬間には、サザンドラはもの凄い勢いで吹っ飛ばされ、壁に激突していた。
「……!?」
ザントは声も出ないようで、立ち尽くし、ぽかんと口を開けている。
一瞬で、完全に形成逆転。
「ドラグストリームはドラゴンタイプの技。自分の体力が少なくなるほど威力が上がり、その威力は、起死回生やじたばたの比ではない」
今の今まで勝者の台に立っていたはずのサザンドラは、一撃で戦闘不能となって壁にめり込んでいた。
「…約束は約束だ。打倒イビルに協力してやろう。助けがほしければ俺に連絡しろ」
ぶっきらぼうにザントは言い、グレースを睨む。
視線はこう告げている。用が済んだならとっとと帰れ。
「それじゃ、遠慮なくこき使わせてもらうよ」
笑って軽く冗談を言い、グレースはジムを出る。
そして、ぼそりと呟いた。
「全く、やはりあいつは凄い奴だよ」
ザント対グレース、決着です。絶対的優位に立っていたはずのザントでしたが、たった一撃でその立場が入れ替わってしまいます。勝負というものは、最後まで諦めなければ、何が起こるか分からないものなのです。ドラグストリームは、僕が考えたオリ技です。体力が減るにつれて威力が恐ろしいほど膨れ上がる、グレースのラティオス専用技です。さて、次回からはようやく本編再開です。それでは、次回もお楽しみに!